安部元総理の祖父である岸信介氏が首相を務めていた時に発案され、後の池田勇人内閣で1960年に閣議決定された国民所得倍増計画。

10年で国民総生産を2倍にすると、一見大風呂敷を広げたように思われた方針でしたが、実際には前倒しで7年ほどで所得2倍は実現することになります。

その間、東京オリンピックの開催もありました。戦後復興を遂げて欧米に肩を並べつつあるとの実感が国民に広がり、世の中に高揚感が渦巻いていたのだろうと思います。

あれから50年。現日本国首相の岸田文雄氏は「資産所得倍増計画」という言葉を口にされています。資産倍増でも、所得倍増でもなく、あくまで資産所得倍増の計画です。

NISAの増枠、期間延長(恒久化?)の話が出ており、投資家としてはありがたい限りです。私はiDeCoはやってないのですが、NISAはフルで活用させてもらっています。

資産所得倍増を何年で実現させる目標なのか知りませんが、仮に10年で倍増なら恐らく容易でしょう。なんせ、元が低いですから。

今の日本人の資産所得はいかほどでしょうか。統計データを見ずに想像で言ってますが、平均ならいざ知らず中央値なら10万円にも満たないのではないでしょうか。ゼロという世帯も多いはず。

やさしく投資を解説するYouTube動画や書籍の存在もあって、つみたてNISAでインデックス投資を実践する人が若い世代で増えています。10年も経てば、日本人の資産所得は今の2倍くらいに増えていても不思議ではありません。

政府が資産所得を増やそう!と大号令を出すというのは時代を感じます。

『世界のエリートはなぜ「美意識」を鍛えるのか?』の著者である山口周氏は、「20世紀後半は問題を解決する能力に価値があったけれど、21世紀になり主要な問題は解決済みになった結果、問題課題を発見する能力、あるいは物事に情緒的な意味を付与できる能力に価値が生まれた。」という趣旨の発言をされています。

面倒な家事はだいたいテクノロジーがやってくれますね。1年ほど前にドラム式洗濯機を買ってから洗濯物干しから解放されました。購入した新築マンションには食洗器が付いているので、食後にどっちが皿洗いをするかの喧嘩からも解放されました。

世の中が便利になってくると、「この課題を解決すればみんなが幸せになれるよね!」と容易にコンセンサスが取れる問題・課題は少なくなってきます。

そんな時代になっても私たちの労働時間が減ってないのは、単に「クソ仕事」が増えているだけだと山口氏は喝破します。

確かに、自分の仕事がどう世の中に貢献しているのか疑問に思うことはよくあります。私が経理という間接部門にいるからというのもありますが。それでも、給料をもらうために所定の時間は働きます。

「世の中金じゃないよ」というのは、金銭的に成功した人が謙遜して言う綺麗事のような言葉でした。東大生が「社会に出たら学歴なんて関係ないよ」と言うのと同じです。

しかし、いよいよ「世の中金じゃない」が綺麗事ではなくなってきたように感じます。国のトップがこれからは資産で稼ごうと発言しているのですから。

資産で稼ぐというのは、過去の遺産で十分食っていけるということです。これは同時に、労働でこれ以上お金を稼ぐのは難しいと認めたということでもあります。現代の仕事の大半を「クソ仕事」と言っている山口氏の考えと根本は同じです。ちなみに私も同感です。

そんな中でも自分なりのやりがい、意味を見出せる仕事を探すのか?

あるいは、仕事はほどほどにして資産に稼いでもらい、仕事とは別の生きがいを見つけるか。

どう生きるかは人それぞれ。

今までは「いかにお金を稼ぐか?」という発想を軸に行動せざるを得なかったのが、それが段々と変わってきて人それぞれ多様な行動の軸を持つことになっていきます。

というか、すでに変わってきてますよね。出世出世、お金お金とガツガツした人は少ない印象です。

どの職業を目指すか、どの会社に行くか、転職するか、FIREするか、家庭を持つか、子どもを作るか。こういった人生の重要局面での判断において、必ずしも経済を重視しなくていいというのはありがたい反面、何が自分にとって幸福なのかの価値基準を持っておかなくてはならないという点で難しいところもあります。

とは言うものの、生活する上で一定のお金が必要という事実は変わりません。最近は住宅費、光熱費、食費も上がってますし。

まずは岸田内閣の「資産所得倍増計画」に乗っかって経済基盤を盤石にして、「世の中金じゃない」と言える状態になることが重要でしょうか。