私は上場企業の経理部で働いて、もろもろの決算書類を作成しています。株式市場に上場している企業は適正に決算書を作成して、監査法人のチェックをパスしなくてはなりません。株式を買う投資家は企業が開示している決算書が正しいという前提で取引を行います。正しい決算書のディスクロージャーは資本主義経済の根幹ともいえ、非常に大切なことです。なので、上場企業の決算書の作成書類とその作成方法の原則は法律で定められています。

例えば、企業の有価証券報告書は金融商品取引法という法律で定めらており、主な開示決算書類は以下の通りです。

・連結貸借対照表
・連結損益計算書
・連結株主資本等計算書
・連結キャッシュ・フロー計算書
・連結附属明細表

上場企業は、法律に則り適正にこれらの財務諸表を作成する義務があります。1年間の経営成績を表すものが連結損益計算書、年度末の資産・負債の状況を示したものが連結貸借対照表です。投資家や経営者が特に注目するのが連結損益計算書です。会社がどれだけ儲かっているかがわかるからです。これを基に来期以降の利益も予想され市場で株価が付きます。
社内でも決算の議論は専ら損益計算書に関することばかりです(○○事業の営業利益はどうなんだ、全社の税後利益はどうなんだ、など)。ほとんど興味を持たれない貸借対照表がかわいそうに思えるくらいです(笑)。

 家計では財産管理が大切

企業会計では損益計算書の後塵を拝している貸借対照表ですが、貸借対照表は情報の宝庫であり大きな活躍の場があります。それは家計管理の場です。家計管理と言えば家計簿が有名ですが、私は毎日家計簿を付けることに反対です。なぜなら、コスパが悪いからです。

上場企業の企業会計では法律が求めるので、厳密に損益計算書を正しく作成する必要があります(とはいえ、1円単位での精度はありません)。また、上場企業には私の様に決算書を作成するための専門部署が設けられ、多額のコストをかけて決算書を作成・開示しています。

一方家計は法律で収支計算を求められていることも当然ないし、家計簿を作る専門家をまさか雇うはずもありません。しかも、毎月の収入や家賃等の大きな支出は初めからわかっているわけです。家計管理では毎月末(私は3カ月毎です)に貸借対照表を作成し、前月の貸借対照表と見比べて、自分の家計の財務状態と収支状態をざっくり把握するので十分ではないかというのが個人的な意見です。

 私の貸借対照表

具体的にどうみているのか、私の直近の貸借対照表をお見せします。金額まですべて実際のものです。「繰延税金負債」や「退職給付」など難しそうな項目がありますが、無視してください。

(単位:円 2015年9月末)

資産の部 負債・純資産の部
現預金等 3,374,170 カード債務 159,745
株式等 11,089,237 奨学金債務 1,157,184
退職給付 700,000 繰延税金負債 348,035
負債合計 1,664,964
評価差額金 1,411,295
自己資本 12,087,148
純資産 13,498,443
資産合計 15,163,407 負債純資産合計 15,163,407

 

(単位:円 2015年12月末)

資産の部 負債・純資産の部
現預金等 4,002,358 カード債務 170,802
株式等 11,362,546 奨学金債務 1,121,025
退職給付 700,000 繰延税金負債 395,300
仮受交通費 33,000
負債合計 1,720,127
評価差額金 1,637,342
自己資本 12,707,435
純資産 14,344,777
資産合計 16,064,904 負債純資産合計 16,064,904

上が2015年9月末、下が2015年12月末の貸借対照表(BS)です。この二つのBSを見ると10月から12月までの収支状態が見えてきます。

純資産が80万円くらい増えている→とりあえず収支はプラスだった。

評価差額金が20万円くらい増えている→株式の含み益が20万円増えたな。

ということは、純資産80万円増加の内、株式投資によるプラスが20万円で「給料-生活費」によるプラスが60万円だったとわかります。株式投資はマーケット次第なので短期的には管理不能なので無視します。

「給料-生活費」の60万円が妥当かどうか検証しています。例えば、この時は個人的には反省です。冬のボーナスがあったにも関わらず、+60万円ということは毎月の給料はほぼすべて使い果たしている計算になります。確かにコートやダウンなど高価な買い物したし、飲み会も多かったのでこのような結果になったのでしょう。詳細はわかりません、家計簿を付けていないからです。でも詳細はわからなくていいです。大きな出費は自分で把握しています。

 貸借対照表は作成コスト面でも優位

この様に貸借対照表を眺めていれば、大体の自分の経済状況は掴めます。むしろ、日々の収支計算ばかり熱心にして、自分の財政状態をきちんと把握していない人が多いのではと思います。自分がどのような資産を持っていて、負債を抱えているのか棚卸するいいきっかけにもなります。

貸借対照表は家計簿より作成コストも激安です。

家計簿→毎日記帳する必要あり。

貸借対照表→月末だけ作成すればよい。

ちなみに、私は3カ月毎に貸借対照表を作成しているので年に4日だけです。しかも、1回あたりの作成時間は1時間も掛からない程度です。家計簿作成が目的になっては本末転倒です。大切なのは自分の消費行動や投資行動を顧みて反省すること、また将来の投資活動の計画を立てることに役立てることです。細かい家計簿を苦労して作成して分析するより、毎月の貸借対照表を並べて分析する方が、時間も掛からず有益だと思います。