私は経理部に勤務していますが、経理部にはあらゆる部門の稟議が上がってきます。

もちろん、今の時代なので紙ではなくWeb上での稟議です。

〇〇事業部の部長がアメリカ出張するための旅費の稟議とか、〇〇社と販促契約を締結しますとか、設備が古いので〇億円の機械装置を新規に購入しますとか。

私は下っ端平社員なので稟議を決裁する立場には当然ないのですが、興味本位で毎朝チェックしています。

そんな稟議の中に退職金支払も人事部から回っていきます。

「A事業部の〇〇さん、定年退職の為23,500,000円の退職金を支払いたくご承認ほどよろしくお願い申し上げます。」といった感じです。

2千万円って大金ですよね!?

日本の退職金の平均は2千万円前後だそうです。

人生が変わる金額とは言い難いですが、2千万円貰えたら「どの米国株買おうかな」ってワクワクします。←株くらいしか買いたいものがない私ww

社会人になったばかりの頃は、「うわー、あのおっさん大した仕事もしてなさそうなのにこんなに退職金貰えていいな~」、「僕も早く退職金欲しいな~」って本気で思っていました。

でも今は退職金なんてクソ食らえって思っています。

それはファイナンス論を学んだこと、株式投資を始めたことの影響が大きいです。

   退職金の現在価値はクソ

大学生の頃、会計士受験の勉強をしている途中で最も理解できなかったのが割引現在価値という考えです。

売掛債権には一定のデフォルトを見込んで貸倒引当金を積むのですが、普通は過去の貸倒実績から予想デフォルト率を算出して(1%とか)、売掛債権にその率を乗じて貸倒引当金を計上します。

ところが、勉強を進めているとそれとは異なる貸倒引当金の算定方法が出てきたのです。キャッシュフロー見積り法というものです。

一般債権ではなく、ちょっと危ない貸倒懸念がある債権に適用する方法です。

それは、その債権が将来生み出す収入の割引現在価値を求めて、それと債権額面との差額を貸倒引当金として計上するというものです。

1000万円の売掛債権があるとして、その返済が困難だと得意先から相談されたため、5年間返済の猶予を与えることにした。そのかわり年間3%の利子を取るというケースなどです。

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今でこそ現在価値という概念は頭にしみ込んでしますが、当時大学生だった自分は「んん!!どういう意味だこれ!」と思って、3日間くらい頭を悩まして考え続けていたことを今でも覚えています。

ファイナンスで最も重要と言っても過言ではない概念が現在価値です。

金融資産の理論価格はすべて将来CFの割引現在価値として定義することができます。

コカ・コーラ株の現在の株価は41ドルですが、その理論価格はコカ・コーラ株の将来DPS(一株当たり配当金)の割引現在価値です。

コカ・コーラ株が割安が妥当か割高か自分なりに考えながら投資をしているはずですが、意識しているか否かは置いておくとして、皆この理論価値と実際の株価との比較をして投資判断をしているはずです。

キャッシュの受取や支払いが10年超の長期になる場合はその金銭価値を額面通りに捉えず、常に現在価値に置き直して判断すべきです。

退職金は新卒の若者にとって、その受取が30年以上も先のイベントです。

この現在価値という概念を踏まえて退職金2000万円を考えてみると、退職金なんて別に大したことないものだということがわかります。

退職金を期待してサラリーマンを続けるとかアホとしか思えませんね。退職金を老後の糧にするとか期待している人もいるかもしれませんが、それは退職までに資産運用で財産形成できていないからそう思ってしまうのです。

2000万円の退職金は現在価値で考えればクソです。

大卒22歳で入社して60歳で定年退職すると想定すれば、在籍期間が38年です。今時一つの会社に38年間在籍し続ける人は非常に稀有だとは思いますが、計算のためそういう前提にします。

60歳で貰う退職金の22歳新卒にとっての経済価値はその退職金額面を38年分割り引く必要があります。

割引率をどうするかは問題ですが、一般的に合理的に株式で運用したら得られるであろう期待リターンとして7%を置いてみます。

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計算結果はどうなるか?

エクセルで、「=20000000/(1+7%)^38」と入力すればあっという間に計算されます。

結果は、約150万円でした。

60歳の2000万円は22歳の若者にとって150万円の価値しかないのです。

換言すれば、22歳で150万円手元にあってそれを証券口座に入れてS&P500ETFでも買って年利7%で運用すれば60歳時点で2000万円になるということです。

22歳で150万円は結構大金かもしれませんね。退職金は”クソ”はちょっと言い過ぎだったかもしれません。

でも、頑張れば22歳で150万円用意することも現実的に不可能ではないですよね。頑張って新卒の給料で150万円貯めて、それを全額インデックスファンドに回せば自分退職金の出来上がりですよ。

ではもう少し、前提条件を変えてみましょう。

割引率を算定するときは、そのキャッシュの不確実性を反映させます。将来CFの獲得が不確実であればあるほど割引率は高く設定します。

英国EU離脱の国民投票前や米国大統領選挙前、FRB利上げ前などは株価は荒れがちですが、あれはファイナンス論的に言えば将来の不確実性が高まり、割引率が上昇している状態だと言えます。

トランプ大統領当選後、株価は上昇していますがこれはもちろんトランプ大統領の景気刺激的な政策を好感している面もありますが、兎にも角にも大統領選という不確実要因が消えて株式評価の割引率が低下した影響もあると言えます。

言うまでもなく、現在の日本社会において年功序列終身雇用は崩れつつありますよね。

ということは、60歳時点での退職金受取の不確実性も上がっていると言えませんか?

かつてであれば、新卒で入社すればよほどのことがない限り定年まで勤めあげて最後に退職金とお花を貰ってサヨウナラというストーリーを皆が描いていましたが、今時そんなストーリー展開を持っている若者はほとんどいません。

さきほど退職金の割引率を7%と設定しましたが、この不確実性も割引率に織り込みます。どれくらい織り込むべきか見当も付きませんが適当に1%とします。割引率を8%(7%+1%)とします。

エクセルで「=20000000/(1+8%)^38」と入力します。

すると結果は約110万円でした。

ちなみに割引率を9%まで引き上げると、75万円になります。

割引率をどう設定すべきかは主観にも左右されます。安定した大企業に就職できてかつ「自分は定年まで地道に勤めあげる」と決心している人にとっては割引率は7%よりも低くあるべきかもしれません。

いづれにしても、退職金とは入社して40年近く経過してから受け取るキャッシュである以上、その現在価値は新卒者にとっては大した金額ではないということです。

  キャリア決定で退職金を惜しむな

世の中には一つの会社で真面目に勤めあげるよりも、外資とかに転職する方がキャリア意識が高いみたいな風潮がありますがこれには賛同できません。

転職することが格好いいことなんて全く思いません。

ただ、転職という判断は当たり前の世の中にはなっていくことでしょう。私も転職組です。

雇用の流動性は高まるばかりでしょうが、安定したホワイト企業に運よく就職できたらそこで定年までサラリーマンを全うすることだって素晴らしいキャリアです。

自分のたった一度の人生です、後悔ないように自分の意志で生きればいいんでしょう。社会人なんだから親にどうこう言われる筋合いももうありません。自分で決めるのみです。

その判断に金銭の有利不利を考えるのは普通です。給料が悪いからという理由で転職を考えることは不誠実でも何でもなく当然のことです。

なのですが、その金銭判断を誤らないようにしたいですね。

退職金を惜しんで転職を躊躇する必要はどうやらなさそうですよ!