ジェレミー・シーゲル氏の『株式投資の未来』によれば、1957年~2003年の投資リターン上位銘柄は以下の通りでした。

会社名 業種 年率リターン
フィリップモリス たばこ 19.8%
アボットラボラトリーズ 医薬品 16.5%
ブリストルマイヤーズスクイブ 医薬品 16.4%
トッツィー 菓子 16.1%
ファイザー 医薬品 16.0%
コカ・コーラ 飲料 16.0%
メルク 医薬品 15.9%
ペプシコ 飲料・菓子 15.5%
コルゲートパルモリーブ 日用品 15.2%

医薬品メーカーが上位9社のうち、4社もランクインしていることがわかります。セクター別のリターンでも、「ヘルスケア」は「生活必需品」を差し置いてトップの成績でした。

なぜ、製薬会社の株式リターンはこれほど高くなったのでしょうか?

端的に言えば、投資家期待を大きく上回る利益成長を実現して、株主に多額の配当を還元できたからです。

なんですが、バリュエーションで見て当時の製薬会社のPERは低くないし、配当利回りも高くないです。以下は、上記医薬品メーカーの1953年~2003年までの平均PERと平均配当利回りです。

会社名 平均PER 平均配当利回り
アボットラボラトリーズ 21.4 2.3%
ブリストルマイヤーズスクイブ 23.5 2.9%
ファイザー 26.2 2.5%
メルク 25.3 2.4%

(出典:『株式投資の未来』)

当時のS&P500の平均PERは17.5倍で配当利回りは3.3%もありました。製薬会社の配当利回りはいずれも市場平均を下回っていたし、PERも高かったです。「そんな割高な株に投資して大丈夫?」と言われちゃいそうなバリュエーションです。

ですが、結果として製薬会社は莫大な富を株主にもたらしました。PERが高く配当利回りが低いことを割り引いても、利益成長率(配当成長率)が高かったからです。

翻って、現代の同企業のバリュエーションはどうなっているでしょうか?

以下は現在(2018年9月末)の各社の指標です。

会社名 2018年予想PER 配当利回り
アボットラボラトリーズ 22.7 1.5%
ブリストルマイヤーズスクイブ 16.1 2.6%
ファイザー 14.2 3.1%
メルク 15.3 2.7%

現在のS&P500の予想PERは18倍弱で、配当利回りは1.8%ほどです。アボットラボラトリーズを除く3社は、いずれも市場平均よりPERが低く、配当利回りが高くなっています。

なお、アボットラボラトリーズは2013年に新薬開発部門をアッヴィとして分社化しており、今は医療機器メーカーになっています。なので、かつてのアボットラボラトリーズとバリュエーションを単純比較することはできません。

当時と今とで医薬品メーカーの位置づけが大きく変わっていることがわかります。

20世紀後半の大手製薬会社は、どちらかと言うと成長株だったんだな~と気が付きます。最近のマイクロソフトやビザのバリュエーションに近しいです。

そして改めて思うわけです。
・高い配当利回りに誘惑されてはいけない。
・低いPERを割安株だと勘違いしてはいけない。
と・・・。

現代の製薬会社は、営業キャッシュフローは潤沢だし配当もしっかり払ってくれています。きっと21世紀も市場平均を超える株主リターンになると信じています。が、、主要疾患の薬は開発し切っており、残っているのはリスクの高い希少疾患等の医薬品しかないとも言われます。専門的なことは知りませんが。

21世紀も医薬品メーカーの投資リターンが高くなるのか、不安を抱えながら投資を続けています(私はファイザーとアッヴィに投資しています)。とにかく分散投資は徹底します。医薬品メーカーだけではなく、医療機器メーカーにも投資しています。具体的にはメドトロニック(MDT)です。ヘルスケアセクターへの投資割合は最大で20%に留めます。

ヘルスケアが期待できるセクターであることに変わりはないと思っています。ただ、『株式投資の未来』が分析対象としていた時代(20世紀後半)と今とでは、だいぶ状況が変わっているのも事実です。PERが下がって「割安」になっていることは、必ずしも良いこととは言えないと思っています。