日本人米国株投資家にとってドル円の為替変動は厄介もんです。せっかく株価は上がったのに、円高が進んで円ベースでは含み損なんてことはよくありますよね。逆に、円安が進んで含み益が大きくなって嬉しい時もあります。なるべく円高の時に投資したいと思うし、円安の時は投資を控えたいと思いますよね。
為替変動に一喜一憂する気持ちは同じ投資家としてよくわかります。しかし、長期でみればドル円の為替変動は投資リターンに中立です。
インフレは株の実質長期リターンに中立
インフレ率の高低は実質的な投資リターンに影響しません。もしあなたがこの点を理解できているなら、為替が投資リターンに影響しないことを間接的に理解できていることになります。なぜなら、物価と通貨価値(為替)はコインの裏表の関係だからです。
インフレ率が上がると企業収益が上昇して配当も増えます。特にアップルやマイクロソフトのような高収益企業は、インフレによる人件費・原材料費の上昇を簡単に顧客に転嫁できます。その結果株価も上昇します。S&P500に属するような大手企業に投資している限り、インフレを過度に恐れる必要はありません。
インフレによって株価が上昇しても喜べることではありません。物価も上昇しているからです。インフレで名目リターンが上昇しても、同じペースでスーパーマーケットのお菓子やお惣菜の値段まで上がっていたら購買力は変わらないことになりますね。10年で株式時価が100万円から500万円に5倍に増えたとしても、物価も5倍に上昇していたら実質リターンはゼロです。
投資に限らず金銭リターンは物価調整後の実質ベースで見る必要があります。給料が2%上昇しても、インフレ率が+2%なら実質的には昇給とは言えません。横ばいです。
株式投資のリターンも物価調整後で考える必要があります。どれだけ名目リターンが高くても、インフレ率が高ければ実質リターンは低くなる恐れがあります。名目リターンが小さくても、インフレ率が低迷すれば実質リターンはまあまあ高くなる可能性があります。
2017年現在、PERで見ると米国株は割高と言われがちですが、低金利であることを考慮すれば必ずしも割高とは言えません。低金利なら高いバリュエーションでも正当化されるとよく言われますが、それは低いインフレ率の元では名目リターンが低くてもさほど問題にはならないということです。株式マーケットでは、実質ベースの期待リターンが反映されて株価が値付けされています。
インフレ率が高ければ投資家は高い名目リターンを求めるし、インフレ率が低ければ低い名目リターンでも投資家は満足します。インフレ率の高低は株の名目リターンには大いに影響しますが、実質リターンには中立です。
シナリオ | 名目リターン | インフレ率 | 実質リターン |
高インフレ | 12% | 5% | 7% |
中インフレ | 10% | 3% | 7% |
低インフレ | 8% | 1% | 7% |
↑
マーケットが合理的なら、インフレ率がどうなれど実質リターンは等しくなります。
為替も株の実質長期リターンに中立
インフレ率の高低が株の実質リターンに中立ならば、必然的に為替変動も株の実質リターンに中立になるはずです。為替は長期的には二国間の物価変動に左右されるものだからです。ドル円の為替相場は、長期的にはドル建て商品価格と円建て商品価格の変動率の差に歩調を合わせて動きます。
円安ドル高が進むということは、ドル建て商品価格の上昇率が相対的に低くなるということです。ドルの通貨価値が高まるということは、その見合いとしてドル建て商品の価格が(相対的に)安くなることを意味します。ドル建て商品の販売価格が上昇しないということは、米国企業の名目収益額は小さくなりますね。その結果、米株価は大きくは上がりませんが、株価上昇率が鈍い分は円安による為替差益で補完されます。
円高ドル安が進むとこれと逆が起こります。ドル安が進むということは(ドルの価値が下落するということは)、その見合いといてドル建て商品の価格が相対的に上昇することを意味します。売値が上がれば企業収益と配当は増加し株価は上がります。ただし、株価が上昇する分は為替差損と相殺されます。
結局、長期で見ればドルが強くなろうと弱くなろうと、円ベースの投資利益は理論的には変わりません。投資利益の構成要素が変わるだけです。
イメージ的にはこんな感じです。
シナリオ | 株価上昇+配当 | 為替差損益 | 合計 |
円安ドル高 | 40 | 10 | 50 |
円高ドル安 | 60 | ▲10 | 50 |
円安シナリオでは一見為替差益があって嬉しく感じますが、その分米株価の上昇(および配当)は小さくなります。円高シナリオでは一見為替差損があって残念に感じますが、その分米株価の上昇(および配当)は大きくなります。どちらのケースもリターンは50で等しいです。
30年~50年レベルでの長期投資を考えている投資家は、為替が円安になるか円高になるかそんなに神経質になる必要はありません。50年後、1ドル200円になろうと100円になろうと実質的な投資リターンに大した影響はありません。
ただし、これは長期的かつ理論的な話です。為替が物価の歩調と合わせて動いていることが確認できるのは50年~レベルの超長期だと言われます。短期的には通貨の需要と供給によって為替相場は大きく動きます。短期的な為替差損益に一喜一憂してしまうことは、人間心理として仕方ないことだと思います。私も投資した直後に円高が進むと残念な気持ちになります。
どのタイミングでドル買いしても、投資家人生の終盤で振り返れば無視できるものです。しかし、短期的には為替は大きくブレることが多いので、定期的に時間分散でドル買いをしておくことも一案だと思います。