雇用統計が重要なわけ

2017年12月の雇用統計が発表されました。ほぼノーサプライズ。主要な指標は以下の通り。

非農業部門就業者数:前月比14.8万人増加
失業率:4.1%(前月と変わらず)
平均時給:前年同月比+2.5%

雇用統計と言えば、数多く発表される経済指標の中でも最重要な指標として位置付けられています。雇用統計発表を機に為替相場も大きく動くことがよくありますよね。

なぜ雇用統計が投資家に重要視されるかと言えば、米中央銀行FRBの意思決定に大きな影響を与えるからです。FRBの政策は株式相場にも債券相場にも多大なインパクトがあります。

FRBの使命は二つあって「物価の安定(stable prices)」と「最大限の雇用(maximum employment)」です。

後者の「最大限の雇用」についてはもろに雇用統計に結果が反映されます。特に重要なのが、非農業部門雇用者数の増加と失業率の2つです。上記の通り失業率は現在4.1%で、これはほぼほぼ「最大限の雇用」に近いと言われます。ただ依然として賃金が上がらないので、意外と労働市場にはスラッグが残っているのかもしれません。

前者の「物価の安定」についてですが、これも雇用統計が重要です。FRBは年率2%のインフレ・ターゲットを設定しています。物価上昇の最初の起点が人件費です。労働者の賃金が上昇し始めると市中の物価も段々と上昇していきます。最近、「てんや」の天丼が500円→540円に値上げされてショックでしたが、その原因は原材料費と人件費の高騰でした。

FRBが発表する平均時給の伸び率に注目です。12月は2.5%の上昇となりました。平均時給は2010年以降3%未満の上昇率が続いています。この平均時給が継続的に伸び出すと、インフレ圧力が高まります。それはFRBに警戒心を抱かせます。FRBが利上げペースを早めて金融を引き締めるべきという判断に傾きます。

 

2018年は「平均時給」に注目してます

雇用統計で普段注目を集める指標はやっぱり「非農業部門就業者数」と「失業率」です。しかし、今年2018年は「平均時給」に注目してます。なぜなら、平均時給の伸びが期待インフレ率を上昇させて株式相場を下落させるリスクがあるからです。

2017年は安定した上昇相場が続き、S&P500ETFをホールドしておくだけで20%近いリターンを得ることができました。しかし2018年もその流れが続くとは限りません。今年のマーケットリスクの一つが長期金利上昇による株価下落だと考えています。期待インフレ率が上がると長期債(10年国債など)が売られて長期金利が上昇します。国債利回りが上昇すると債券の魅力が高まるので、株式は相対的に売られます。

私は最近ブログで、2018年のリスクは期待インフレ率の上昇ではないかと何度か申し上げてきました。

そうは言うけど、期待インフレ率って何がきっかけで上昇するのでしょうか?

インフレ率と”期待”インフレ率は違います。インフレ率は今の実際の物価上昇率ですが、期待インフレ率は投資家が想定する将来の物価上昇率です。世の中の投資家はテキトーに将来の物価上昇率を予測しているわけじゃなく、様々な統計データを見て推測しています。

投資家の期待インフレ率を押し上げる大きな要因の一つが、雇用統計で発表される平均時給の伸びだろうと思います。もちろん、失業率も影響するでしょうがより直接的な影響という意味では平均時給です。現に、現在失業率は4%を割ろうするほど低水準ですが、それでも賃金が上がっていないためマーケットは安心しているわけです。だから長期債の価格は高止まりしています。

2018年どこかのタイミングで平均時給が3%~4%上昇してそれが継続すれば、期待インフレ率も上昇するだろうと思います。

雇用統計で平均時給が大幅に上昇した!

期待インフレ率上昇

長期債価格下落(利回りは上昇)

株価下落(ハイテク系や高配当銘柄中心に)

という一連の流れ(リスク)を想定しています。発端は雇用統計です。雇用統計の平均時給の伸び率に注目してます。

 

長期金利が上昇してもマーケットに居続けよう

長期投資家はマーケットを出し抜くわけではないので、雇用統計などの重要指標の発表をPCの前で今か今かと待ち構える必要はありません。平均時給が上昇したら株価が下がる可能性があるからって、それを材料に売買するわけじゃありませんから。

なので、そんなタイムリーに指標をチェックする必要はありません。ただ雇用統計自体はニュース等で確認する価値はあります。長期投資家は短期トレーダーとは違う種類の勉強が必要だと思います。市場を出し抜くためではなく、市場に居続けるための勉強です。

バフェットはこんなことを言っています。

今後10年市場が閉鎖しても喜んで持ち続けられる株(企業)だけを買いなさい。

Only buy something that you’d be perfectly happy to hold if the market shut down for 10 years.

本当に市場が10年間閉鎖してくれればいいですよ!そしたら、途中の暴落でビビッて売却しちゃう心配もありません。

ただ現実は幸か不幸かマーケットはいつも開いています。米国市場は日本市場より取引時間も長く祭日も少ないですよね。日本時間の夜が取引時間なので、夜型人間にとっては取引のチャンスはいくらでもあります。

いつでも取引できることは良いことです。マーケットがオープンかつ透明で流動性が高いから、株価が理論価格と近似するし、売りたいときに売ることができます。長期投資では出口を考えることが少ないので実感する場面があまりないかもしれませんが、「売りたい時に時価で売れる」って素晴らしいことです。

マーケットは常に開いています。米国大企業の株、優良な米国ETFは大抵取引規模も大きく売却し易いです。売ろうと思えばいつでも売れる環境にある中で、いかに暴落時でも売らずに耐えることができるのか。長期投資を成功させる上で重要な点だと思います。

別にどんな時も常にホールドすることが正しいと言いたいわけじゃありません。明らかに割高なタイミング、企業の半永続的な強みが消失した時には手放すことも必要です。ただ、長期金利上昇による株価下落は株を手放すタイミングではありません。優良企業はインフレ率上昇とともにその業績も拡大するからです。業績が拡大すれば配当も増えます。配当が増えれば株価も上がります。

今年は雇用統計の平均時給に注目してます。平均時給が急上昇したら債券も株も一時暴落するかもしれませんが、慌てないように心構えをしておきましょう。債券はそのまま低迷するリスクがありますが、株は復活しますから心配不要です。長期的な目線を持って今年も株式投資を続けましょう!