8月10日(木)の米国株式市場は久々の荒れ模様となりました。S&P500指数が1%以上下落した日を久々に見た気がします。
NYダウ指数は2万1千ドル台に戻ったものの、最近同指数は2万2千ドルを突き破り史上最高値を更新しました。景気回復は9年目を迎え、ここまで何度も「米国株は割高だ、調整局面に入るぞ」と言われ続けてきました。確かに、調整局面と呼ばれる期間はありましたが大きな暴落は訪れることなく、米国株インデックスはここまで右肩上がりの上昇を続けています。
2017年のNYダウ指数上昇に最も貢献している銘柄が以下の3つです。
・ボーイング
・アップル
・マクドナルド
2017年初からNYダウは2000ドル以上も上昇していますが、上記3銘柄で1000ドル分の貢献があります。まさにここでもパレートの法則が見られますね。
ボーイング、アップル、マクドナルドに共通することとして、海外(米国外)売上比率が高いことが挙げられます。
各社の米国外売上比率は以下の通りです。
(米国会社四季報より)
ボーイング・・・59%
アップル・・・65%
マクドナルド・・・67%
米国外での売上比率が高いこれらの銘柄が、NYダウ指数の上昇を大きくサポートしています。
米国外での売上比率が高い銘柄のパフォーマンスが高いことは自然なことに感じます。
欧州では昨年ブレグッド騒動がありましたが、英国株(特に大型株)はポンド安をバックアップにむしろ上昇しました。英中銀のイングランド銀行はブレグッド後に2009年以来となる利下げを敢行しましたが、今ではカーニー総裁は利上げを示唆する発言をしています。利上げは景気が順調に回復していることの自信の表れでしょう。
ユーロ圏でも堅調な経済指標が発表されており、欧州中央銀行のマリオ・ドラギ総裁は2015年に開始した債券買入れ策をゆっくりと縮小させていく方針だと発言しています。欧州の強い経済成長を反映してか、2017年ユーロはドルに対して強くなっています。2017年初は1ユーロ1.05ドル程度だったのが、今(8月初旬)では1ユーロ1.18ドル前後となっています。
新興国もそれほどリスクが高いとは見られていないようです。当初、米国の利上げからドル高が進むと思われましたが、トランプ政策の失望感からなのか、ドルは2017年初から売られ続けています。ドル安が進んだ結果、新興国企業が多額を抱えるドル建て債務の負担が軽くなり、新興国株式へのリスクを和らげているようです。
このように、米国外(主にヨーロッパとアジア新興国)の経済状態が順調なので、それらの国でビジネスを展開しているマクドナルドのようなグローバル企業の業績が好調で、それに連れて株価も上昇している感じです。
米国株集中投資で問題なし
通貨やビジネス領域を分散するためには米国株投資だけではダメだ、欧州株やアジア株にも分散すべきという意見も聞かれます。色んな意見があるのは結構なことではありますが、私は米国株への集中投資で何ら問題ないと考えています。
2017年にNYダウ指数を牽引している3銘柄は、特に米国外売上指数が高い方だとは思いますが、S&P500指数に含まれている米国大型企業は全般的に米国外でもビジネスを展開しています。S&P500構成銘柄の平均米国外売上比率は43%です。
石油メジャーのエクソンモービルの米国外売上比率は60%以上ありますし、医療機器大手のメドトロニックの米国外売上比率は40%以上あります。
米国株投資=グローバル投資
だと言えます。
米国株へ100%投資していると、ドル円の為替リスクを負っている様に感じるかもしれませんが、実際はそうではありません。あなたは米国企業の株主でありつまり所有者です。米国企業自身が持っている為替エクスポージャーこそが、あなた自身が実質的に負っている為替リスクです。
例えば、フィリップモリスは100%米国外売上なので、フィリップモリス株へ投資してもドル円の為替リスクはほとんど負っていないこととなります。フィリップモリスの株主は、人民元やアジア現地通貨、ユーロに対する為替リスクを負っていると理解すべきです。
ビジネス領域という意味では言うまでもなく、米国のグローバル企業は現地に支所を持ちビジネスを展開しています。だから現地の政策や法律の影響を多分に受けます。
中国は特にその政治的影響が顕著です。アップルは最近中国にデータセンターを設置しましたが、これは中国の法律に従っての投資です。中国政府は中国の顧客データを国外に持ち出すことを禁止しています。中国政府の情報統制は厳しく、インターネット検閲もかなりの人的コストを掛けて実施しています。
米国企業が中国でビジネスを行うためには、これらの中国政府の要求を飲む必要があり、それには当然コストが掛かります。そういったコストを負担してでも中国でビジネスを続ける経済的価値があると米国企業の経営者は考えているようです。だからこそ、中国政府も強気で規制強化できる面もあります。
中国は人口14億人弱の世界最大の国家です。この巨大マーケットを逃すことはできないと経営者が考えるのは自然なことです。特にIT系は利用者数が多いほど、その価値が増すという傾向があります。俗にネットワーク効果と言われるものです。たとえ使っている言語が異なるとしても、利用者として囲っておくことには意味があります。言語の壁はいずれ人工知能が崩してしまうでしょう。最近のグーグル翻訳の精度向上は目覚ましいです。
通貨分散、ビジネス地域分散がなっていないから米国株への集中投資は危険だという主張は正しくないと思っています。S&P500を構成する大型企業であれば、通貨エクスポージャーもビジネスの地理的範囲も米国外グローバルに幅広く及んでいます。
繰り返しですが、米国株投資=グローバル投資です。別に、実際に欧州企業や新興国企業へ直接投資することで、世界分散投資を実現することもできます。しかし、長期投資では株主の財産をいかに誠実に守ってくれるかというコーポレートガバナンスがとても重要です。そして、法的にも文化的にも株主利益を保護するガバナンスが整っているのが米国です。
私はジェレミー・シーゲル氏の「株式投資の未来」に感銘を受けましたが、実は「株式投資の未来」の中では米国株への集中投資は推奨されていません。
わたしとしては、株式ポートフォリオの40%を国外企業に振り向ける配分を奨めたい。
『株式投資の未来』より抜粋
40%を米国外へ投資することを推奨しています。
(まあこれは米国人投資家を想定しているので、我々日本人がそのまま真に受けるべきではないでしょうが。)
確かに、米国外にもエクセレントカンパニーはたくさんあります。
スイスのネスレやノバルティス、英国のブリティッシュ・アメリカン・タバコ、グラクソ・スミスクラインなどなど。
これらの企業はADRとしてNYマーケットに上場していて、私達がアクセスできる銘柄もあります。アクセスできない銘柄もあります。ネスレは個別銘柄として日本のネット証券からは投資できません。
米国外にも、これらの超優良企業が存在するのは事実でしょうが、無理して投資する必要もないと思います。米国内に十分長期投資に値する銘柄があるからです。個別銘柄のポートフォリオなんて、多くても20~30銘柄程度が妥当だと思いますが、米国市場には長期投資で保有したくなる銘柄は30くらいは余裕で探し出せます。
米国大型企業はグローバルでビジネスを展開している以上、わざわざ米国外の企業に投資する必要性は低く、米国企業への投資で必要十分だと思います。この点、「株式投資の未来」に書かれていることをそのまま投資に取り入れていはいません。
シーゲル教授はリスク・リターン分析を行った結果、米国外企業もポートフォリオに含めるべきだと主張しています。確かにそうなのでしょう。ですが、「株式投資の未来」が書かれた当時よりもさらに世界の距離が短縮化してグローバルでのビジネスが展開されているなかで、無理に米国外に本拠地を置く企業へ投資する必要はないと個人的に思っています。
本拠地がどこの国にあるのかという要素は、投資判断でそれほど重要視する必要はないと思います。強いて言えば、税務メリットの有無はあるとは思いますが。
米国大型株への投資は、実質的には米国集中投資ではありません。
グローバル投資をしているつもりで、米国株への集中投資を続けて何ら問題ないと思います。ただし、銘柄やセクターをほどよく分散させることは大事です。