配当権利落ち日というものがあります。権利落ち日時点で株を保有してないと配当は貰えません。たとえば、3月30日支払いの配当の権利落ち日が3月1日などです。この場合、3月1日時点で株を持っておかないと配当を受け取ることはできません。

権利落ち日まで株を保有し続けて晴れて配当を得る権利をゲットできるわけですが、権利落ち日を過ぎると株価が下落するという現象が起きます。これを「配当落ち」と呼びます。権利落ち日を過ぎて100円の配当を受け取ることができた場合、それと同時に100円相当の株価下落が起きます。あくまで理論的な話ですけどね。

こんな理論通りに株価が動かないにしても、配当権利落ち日を過ぎることが株価下落要因の一つであることは間違いないことです。株式の価値とは将来配当の現在価値です。権利落ち日を過ぎるということは、将来もらえる配当が減るということなので株価は下がります。もっと感覚的に言えば、配当を支払うことで社内から現金が流出するんだから株価は当然下がるよねってことです。

さて、この「配当落ち」に関連して以前NewsPicksでこんなコメントを見たことがあります。

「配当なんて意味ないんだよ。どうせ配当落ちで株価が下がるんだから配当貰ったところでプラマイゼロだろ。配当は株主にとってのリターンではない。」

こういう発想、実は昔の自分も持ってました。配当は課税されるんだからむしろ悪だくらいに思っていました。今はこんなに配当大好きなんですがね。

「どうせ配当落ちになるから株主にとって配当は意味がない」っていう考えは妥当なのかと言えば、今の私ははっきりNOと言えます。5年前の自分はきっとYESって言ってたんでしょうけど・・。

マーケットって常に先読みしますよね。株式市場はすぐに将来のイベントを織り込んじゃいますよね。大型銘柄は特にそうです。米国政府は連邦法人税率を2018年度決算から引き下げましたが、それは現時点でとっくに株価に織り込まれています。減税で増えた利益をベースに今の株価は成立していると考えるのが妥当です。

株主の利益って配当なわけです。株主がリスク覚悟でお金を企業に出資して、企業がうまいこと事業で利益を出せればリスクを取ったご褒美として配当金をもらえるというのか株式会社制度です。配当をもらうことで完結です。マーケットはその将来の配当をあれやこれや予測していて、その結果が日々株価として表れています。

利益を上げた時点でマーケットはそれが将来の増配をもたらすと期待して株価を上げちゃいます。それは合理的な値動きです。利益なくして継続的な配当はないわけですから、期待を上回る営業利益を公表すれば株価が上がるのは道理です。

でもね、、利益は所詮利益でしかありません。あくまでも会計上の計算数字です。企業の利益が必ず株主の利益になるとは限りません。ネットフリックスやアマゾンなどの成長企業は利益のほぼ全額を再投資しますが、その再投資がリターンを生むかは不確実です。もしその再投資が失敗すれば、過去の(会計上の)利益は結局株主の利益にはなりません。

投資期間が短いと1%~3%程度の配当よりも毎年の株価変動率の方が遥かに大きく、なかなか配当の重要性を感じることができません。その心理が長期投資の難しいところです(ここが長期投資の儲けの秘密でもあるんですけどね)。

株式投資の利益って本質的には配当でしかありません。極論言えば、値上がり益はすべて投機的な利益と言ってもいいくらいです。値上がり益とは、マーケットが予測する将来配当が増加したことでもたらされるものです。無配で着実にビジネスが成長している企業は、当然将来の予想配当も増えます。だから株価もそれに従って上がっていくものです。真っ当なビジネスをやってそれで株価が上がっているんだから、その値上がり益を投機的利益と言うのはちょっと言い過ぎかもしれません。「値上がり益はすべて投機的利益」とはちょっと極論過ぎました。

が、たとえ利益成長を伴う株価上昇であったとしても、最終的に配当として株主に支払われるまでは株主にとっては確定利益ではありません。

損益計算書(PL)の利益が株主に渡るまでのイメージです。

株価はPLに左右されます。PLの利益が増えれば、当然その下流にいる株主に入るキャッシュも増えるはずだと投資家は考え、買い注文が入り株価は上がります。ただそれはまだ「予想」でしかありません。株価は将来を予想して動くもんなのでそれは仕方ないことですがね。

利益が配当として還元されないと株主の利益にはなりません。

ジェレミー・シーゲル氏は、配当利回りが高い銘柄群は低い銘柄に比べて有意にパフォーマンスが高いと書籍で明らかにしました。配当利回りが高い銘柄が必ず有望な投資対象だと安易に判断はできませんが、配当に着目して投資することでパフォーマンスが高まるというのは納得感あります。てか、それはある意味では当然の帰結です。だって株主の利益は配当なんですから。

じゃあ、なんで多くの投資家がこの「当然の帰結」を無視して株式売買をするのか?

それは、配当なんて高配当な銘柄でもせいぜい年率3%~5%程度が限界でほとんど儲からないからです。年率3%でも昨今だと高配当な部類に入りますが年3%のリターンで満足できる人は少ないんですよ。リスクをとって株を買ったんだから、もっとリターンが欲しいわけです。長期的に株を持てば増配されて投資額に対する配当額も上がってきますがそこまで待てない。だから短期的な値上がり益を求めます。

短期的な値上がり益を求めるのは普通の心理です。んな年利3%程度の配当なんて貰っても嬉しくもなんともないと考える投資家の方が圧倒的に多いはずです。短期的なキャピタルゲインを求めちゃうのが普通の投資家心理でしょう(それが悪いとは全く思ってませんよ)。

短期的なキャピタルゲインを求めると配当なんて見えなくなるんです。だから、段々と「株主利益は配当である」という株式会社制度の根幹が忘れ去られてしまいます。株式投資とはマーケットでなるべく高値で売り抜けることだと思われがちです。

ゆっくりとコーヒーでも飲みながら、気長に増配を待って株を持ち続けることができるのが個人投資家の最大のメリットです。なるべく投機的な要素を排除して「投資」を実践できるのは、長期志向の個人くらいではないでしょうか。個人投資家こそ本物の投資家になれるのかもしれませんね。

さて、冒頭に掲げた某配当批判文章を再掲しましょう。

「配当なんて意味ないんだよ。どうせ配当落ちで株価が下がるんだから配当貰ったところでプラマイゼロ。配当は株主にとってのリターンではない。」

どうですか?
今でもまだ配当は株主にとってリターンではないと思いますか??

そんなことありませんよね。

もし、配当の都度株価が下落してトータルリターンが(長期でも)ゼロになるなら、それは単に割高なタイミングで投資してしまっただけです。