2016年に米国株投資を始めてから、各米企業の財務データをチェックするようになりました。それまでは主に監査業務を通じて国内企業の財務諸表を見ることが多かったです。

米国企業は全体的に同業の日本企業より利益率が高いと言われます。たとえば、プロクター&ギャンブルと花王の比較などよく見かけます。

確かに利益率の差も顕著なのですが、より大きな違いを感じたのが株主還元意識です。アメリカ企業は連続増配30年超の企業が山ほどあります。また、自社株買いも非常に多い。

純利益に対する配当+自社株買いの割合を総還元性向と呼びます。純利益100、配当20、自社株買い60なら総還元性向は80%です。弊ブログの米国株銘柄分析でも総還元性向のグラフを掲載しています。

私が勤務している某メーカーは配当性向が30%ほどしかありません。じゃあ自社株買いをしてるのかと言えば、ほとんどしていない。つまり配当性向≒総還元性向≒30%ということです。

還元ステージにある米国企業で総還元性向が30%というのはほとんど見かけません。税引後利益のうち3割しか配当に回してないなら、自社株を買い戻しているケースが大半です。

M&Aなど多額の戦略投資のために株主還元がお預けになることはありますが、そうでなければ感覚的には総還元性向は平均で80%は超えていると思います。100%も珍しくない。

アメリカ式の資本配分を普段から見ていることもあって、自社の株主還元の低さを残念に思うことが多々ありました。まあ、私は自社株持ってないし、一雇われ労働者なので別にどうでもいいんですけどね。

ただ、最近ふと思うんです。「もし自分がうちの会社のCFOだったとしたら自社株買いするかな?」って。CEOにわざわざ株主への利益還元を提言するだろうか?って。

多分しない。だって自社株を買ったら当然ですがキャッシュが流出しちゃいます。内部留保としてなるべく多くのキャッシュを持っていた方が何かあった時に安心です。事業部から持ち込まれる投資案件にもGOサインを出しやすい。

会社内部にいる側として、現金流出はなるべく避けたいと考えるのは普通です。だって会社にたくさん現金があった方が柔軟性もあるし、安心だし。

そういうインセンティブが働く中、敢えて総還元性向が100%になるほどまで自社株買いをする理由は何か?

それはやっぱり自分の報酬の大半が株価に連動している場合じゃないでしょうか。そうでもなければ、毎年の増配はともかくとして、余った金でガンガン自社株を買い戻そうなんて思わないはずです。

うちの会社のCEOやCFOなど経営陣の報酬のうち、株価連動分はさほど多くはないです。であれば、株主の不満がないように地道に増配はするものの、わざわざ経営リスクを負ってまで自社株買いはしたくないでしょう。

昔はいっちょ前に「俺がCFOならもっと自社株買いするけどな~。アメリカ企業を見習えよ!」とか偉そうに心の中で思ってましたw。が、今はそういう発想は無くなりました。

動物、人間はインセンティブの奴隷ですね。自社株を買い戻すインセンティブは弊社経営陣にはありません。総還元性向30%も納得です。

継続的な自社株買いによる株数減少はじわじわとEPSを押し上げ、結果として高い株主リターンをもたらすことが多いです。アップルなど良い事例です。そういう企業に投資したければ、東京よりニューヨークに注目した方が良さそうです。