比較して初めて分析したと言える

経理の仕事をしているとよく分析の仕事を依頼されます。

「コロナで出荷が滞って在庫が増えているはずだから分析しといてくれない?」みたいな。

部長とかからこういうざっくりした業務を依頼される時あります。偉い人は忙しいから細かい指示はない事が多いです。まあ、そっちの方がこっちも仕事の裁量が広くて楽しいからいいんですけどね。

で、ここでいう分析とは何でしょうか、という話。

在庫水準を確かめる指標として在庫回転期間という指標があります。一月当たりの平均原価で100で棚卸資産が300あるなら、在庫回転期間は3カ月です。生産をストップしても3カ月はビジネスが回るってこと。

在庫の分析をお願いって言われたら、私なら先ず直近月次決算をベースに在庫回転期間を出します。

ただ、そうやって指標を出すだけだと意味がないです。

何かと比較しないといけない。この比較というのが単純ですがとても大切なことです。地道だけど奥が深いところでもあります。

例えば、在庫回転月数が4カ月だったと報告したところで、偉い人はその情報でどう判断すればいいかわかりません。比較情報が必要です。

半年前の回転月数は3カ月だったとか、同業他社は3.5カ月あるとか。そういう意味ある数字と比較して初めて情報に価値が生まれます。判断材料になります。

経理マンにとって前年比分析、同業他社分析、予算分析などは基礎基本過ぎて、慣れてくると適当になりがちな時もありますが、そこは疎かにしない方がいいですね。誰でもやれそうな簡単な財務分析から会計処理ミスや、子会社の不正を発見することだってあります。

比較の軸を持っていると一目置かれる

監査法人で働いていた頃、周りから一目置かれているマネージャーがいました。私は同じチームではなかったので具体的には知らないのですが、同僚曰く「そのマネージャーは少し決算書を見ただけで、ここがおかしい、あそこがおかしい」と一瞬で判断できるそうです。

なんか神の目を持っているかのようですね。

ただ、私の推測ですが、そのマネージャーは今までの経験と普段の勉強から、自分の中に正確な比較の軸があるんだろうと思うんですね。

今の経済状況を鑑みればクライアントA社の財務諸表はこんな感じになっているはずだろう、というざっくりした想定財務データが脳内にある。で、実際にA社が試算表を送ってきて、それと自分の想定データとを比較する。そこに大きなズレがあると、「あれ?」ってなるのでしょう。

営業利益率30%と聞くとどう思いますか?

すげえ優良企業!って思いますか。

もしそう思えるなら、あなたの頭の中に比較の軸があるのでしょう。営業利益率って大体こんなもんだよなってという。それも立派な比較の軸です。何の経験も情報もなかったら、営業利益率30%が高いのか低いのか判断が付かないはずです。

過去の情報から無意識に帰納的な発想をしているわけですが、あらゆる領域でこれができると強いなって思いますね。ググれば何でもわかる時代ではありますが、やはり知識として予め持っている人の方が尊敬、信頼されます。

私はまだまだその領域には遠いです。

とにもかくにも比較することが大切

自分の中に比較の軸を持つというのは上級レベルだから横に置いておくとして、まずはデータを引っ張り出して地道に比較することです。

自分で手を動かすことが大切です。すでに比較してある綺麗なパワポ資料を見るよりも、自分で汗かいてエクセルでグラフを作った方が気付きも多いです。

部長など偉い立場になると、私みたいな下っ端が自分なりに作った分析を見せられてあれこれ判断せないかんから、大変だなってよく思います。

手を動かせるのは下っ端の特権でもありますから、つまらないと腐らずに積極的にやった方が身になると思ってやってます。

分析はどういう軸で比較するかを考えるのが大切なのですが、まずは比較するという作業を避けないことです。

わかる人はわかると思いますが、過去データを取ってくるだけでもそれなりに時間がかかって面倒な時もあるじゃないですか。システムや組織の変わり目だと余計に面倒くさい。

でも、そこに時間をかける価値はあります。何の情報とも比較せずに、ただじーっと数値や指標を眺めていても何も出てきません。そうするだけで鋭い閃きが浮かぶのは、経験豊富で自分の中に比較の軸を持っている一部の玄人だけです。

とにかく比較、比較。単純作業を馬鹿にしない。

前年からの売上成長とか、単純だけど大切です。そういう地道な分析までやって投資している人って少数だと思います。