転職はあまりオススメしない派
転職が珍しくない世の中になってきました。書店に行けば転職に関する本が山ほど見つかります。うちの経理部は3分の1ほどが転職組です。
私も中途で今の会社に入りました。そんな立場でありながらなんですが、私は転職をあまりオススメしようとは思いません。
新卒で良い会社に巡り合うことができて、仕事の内容、待遇に大きな不満がないなら、下手に転職はしない方がいいと思います。一つの組織に30年40年と勤務し、給与を貰い続けることができるなら、それはとても幸せなことですよ。
キャリアアップの転職とは、大抵は給料アップを狙った転職を指すことが多いとは思いますが、そういう転職は個人的にはあまり推奨しないです。
というのも、労働者の給料のうち職務スキルが左右する割合はそんなに大きくないからです。給料決定の基礎は労働力の再生産費用です。年齢が上がるとそれに応じて給料も上がるという仕組みはそれなりに合理的です。年齢が上がると所帯を持ったりして、生活費が上がるからです(あくまで世の中平均として)。
中小企業から日本を代表する大企業に行く、とかでなければ大幅に待遇を改善させることは難しいのではと思います。
転職すると、新たな職場の暗黙のルールとか人間関係を把握する必要があります。業務が変われば、一から覚えねばなりません。
人間は何でも現状維持が心地良いですよね。職場を変えるというのはそれなりに精神にストレスがかかります。そのストレスを負担するだけの価値があるのかはよく考えた方がいいです。
それよりは、慣れた職場で淡々と仕事をこなして、毎日定時で帰った方が幸福なケースは多いのではと思います。
どうせ大して給料変わらないんだから、仕事をこなす上で使うエネルギーは最小化した方がいい。そうすると心に余裕が生まれ、ひいては副業や投資を考える余裕も生まれます。給料以外の収入基盤がある程度出来上がると、かなり楽になります。
この意見は、あくまでサラリーパーソンとして資本主義ゲームを攻略する、という目的が前提です。やりたいことがある、将来の夢があるとか、そういう目的で転職するのを否定したいわけでは決してありません。
こんな思想を持つ私がいま転職を視野に入れているわけ
転職しない方がいいとか言っておきながら、私はいま少しだけ転職を検討しています。
と言っても、今後3年で実際に転職する確率は20%~30%くらいかな。今の会社に居続ける可能性も十分あります。良いタイミングで良い案件があったらくらいです。
現職に大きな不満がないにもかかわらず転職を検討する理由は、経理という私の職業が関係しています。
会計、経理ってすっごく汎用性が高い職業なんです。どこの会社でもやってることは基本的に同じなので、転職のハードルが低いです。新しい業務を覚えないといけないというストレスが低い。もちろん、使っている会計システムが違うとか、そういう違いはありますけども。
なぜ経理は他の職業よりも汎用性が高いのかと言えば、会計数字という抽象化された記号でコミュニケーションをとる仕事だからです。
抽象的な概念を学問として学ぶけども、実際の仕事ではそれがほとんど役に立たないケースってあるじゃないですか。てか、そっちの方が普通ですよね。
たとえば、大学でマーケティングの勉強をしていたとします。卒業後、企業のマーケティング部門に入ったとして、学生時代の勉強が役に立つでしょうか?
全く役に立たないことはないでしょうが、学生時代に学んだ知識がそのまま仕事で生きることは少ないはずです。先輩に教えてもらいながら、仕事を通じて覚える他ないです。実際の現場では抽象的な学術論を語っても仕方ありませんから。
ところが、会計の世界は違うんです。学生時代のお勉強の世界と実務の世界とが密接に結び付いています。
簿記2級のテキストで勉強したリース会計の知識が、そのまま仕事で使えます。会計士試験で勉強した連結会計仕訳が、そのまま仕事で出てきます。
なぜかと言えば、勉強でも仕事でも、会計数字で議論する点は変わらないからです。
会計以外は一般的には抽象(勉強)→具体(実務)です。抽象から具体に落とし込むには、やはり仕事の経験が必要。勉強したからってすぐに仕事ができるようになるわけじゃない。
一方で、会計は勉強の世界も実務の世界もともに抽象なんです。抽象(勉強)→抽象(実務)だから、その移行がスムーズです。
経理での転職は抽象(実務)→抽象(実務)です。これは具体(実務)→具体(実務)という一般的な転職よりも遥かに楽です。なぜなら、「具体」は会社によってやっていることが様々ですが、「抽象」は会社によってさほど変化がないからです。
営業マンとして別の会社に転職するよりも(具体の移行)、経理マンとして別の会社に転職する(抽象の移行)方が楽です。
若い頃はここまで考えて会計士を目指したわけではないけど、結果として自分は会計というあらゆる会社で通用するスキルを磨いてきました。
であれば、せっかくなら1、2回くらいは会社を変えたいなあ、変えないともったいないかなあと思ったりするわけです。
同じ賃貸マンションに30年も住み続けるのなんか嫌じゃないですか。30年も住むなら、買っとけばよかったてなりませんかね。
柔軟性のある賃貸を選んだからには、人生で何度かは引っ越したいもんです。
柔軟性のある経理職を選んだからには、人生で何度かは転職してみたくなるもんです。