ハイテク企業の従業員は脳ミソを搾取されている

以下は大手ハイテク企業の営業利益率(直近5年平均)です。

アップル:27%
マイクロソフト:31%
アルファベット:25%
フェイスブック:43%
シスコシステムズ:26%
オラクル:36%
ビザ:61%

見ての通り非常に高いマージンです。ウォールストリートジャーナル紙によると、S&P500企業の平均営業利益率(一時項目調整後)は11.1%とのこと。上記のハイテク企業がいかにボロ儲けしているかわかりますね。

なぜ、これらハイテク企業の利益率は群を抜いて高いのか?

色々な解釈、というか表現の仕方があると思います。
・知識集約で大規模な設備投資が不要
・情報資産は複製にコストがかからない
・粗利率が高いビジネスモデル
・プラットフォームを抑えておりネットワーク効果がある
といった視点で語られることが多いでしょうか。

ここで、ハイテク企業の利益率が高い理由の一つとして、私なりの別の視点を提示してみます。

ハイテク企業の利益率が高いのは、資本家が労働者を極限まで搾取しているからです。こういう見方もできると思います。

アップルやアルファベット、フェイスブックには超一流の大学を卒業したエンジニアが入社します。処遇はもちろん良いです。フェイスブックの従業員の年収の中央値(平均値ではなく)は24万ドル(2500万円以上)もあります。アルファベットも20万ドル弱あります。アップルはデータを見たことありませんが、似たようなもんでしょう。

表面的な年収を見ると、とても搾取されているようには見えません。誰もが羨む高給取りです。年収2000万円と言えば日本の大手企業の役員並みです。

しかし、従業員一人が生んでいる付加価値の大きさを考えると、その高年収も霞んで見えます。フェイスブックのFY18の営業利益は約2.7兆円。従業員数は3万5千人。一人当たり営業利益は7800万円を超えます。一人の従業員がこれだけの利益を稼いでいるなら、2500万円という年収も納得です。

これは見方によってはすごく搾取されています。7800万円もの利益を会社にもたらしているのに、従業員がもらえるのは「たったの」2500万円です。残りの5300万円はどこに行くのかといえば、もちろん株主の財布です。従業員が稼いだ利益のうち68%を資本家が搾取しています。

フェイスブックの従業員は自分が搾取されているなんて微塵も思っていないはず。むしろ「俺は世界一の高給取りだ!」くらいの自信と誇りを持って働いているでしょう。

これが21世紀型の「搾取」です。『資本論』を著したカール・マルクスは、剰余価値は労働力の搾取からしか生まれない主張します。搾取と聞くとこんなイメージを持つかもしれません。

織物工場でしょうか。資本家らしき男が労働者(しかも子ども?)にむちを打とうとしています。「なにたらたら働いとるんじゃー!!」ってな感じで。

現代もこの種の搾取は至るところに見られますが(所謂ブラック企業)、21世紀になってから別の搾取構造が見られるようになりました。それがフェイスブックのように、従業員は搾取どころか手厚い処遇を与えられているけど、実際はすごく搾取されているケースです。

この事象をより本質的に言うと、身体能力の搾取から知的能力の搾取への変化ということです。製造業の時代はとにかく体を動かして働くことが富を生みました。しかし、現代は頭脳です。頭を働かせること、アイデア、知能が富を生みます。一部の天才が生み出したアルゴリズムが世界中で富を荒稼ぎします。資本家は労働者の知能を搾取しています。

知能、頭脳の搾取は外観的には搾取しているように見えないのです。ここがミソです。従業員は高給をもらっており、まさか自分が資本家に搾取されているとは思いもしません。しかし、実際に彼ら彼女らが会社に貢献している利益額の大きさを鑑みれば、明らかに搾取されていると言えます。「もっと年収上げろ!!」とフェイスブックの従業員がストを起こしても不思議ではないくらいです。

しかし、実際はそんなこと起きません。待遇に不満を感じている社員も少ないでしょう。搾取率は高くても、従業員の手元に残る利益の絶対額は大きいからです。そして搾取しまくっている資本家(株主)は儲かるという構造。ある意味でWin-Winの仕組みと言えるかもしれません。

すべての企業がソフトウェア企業になる未来=株主有利の未来

マイクロソフトのCEOサティア・ナデラ氏は数年前の講演で「すべての企業はソフトウェアカンパニーになる」と言っていました。

何を以って「ハイテク企業」と定義すればいいのでしょうか。あらゆる企業がテクノロジーを利用しています。その傾向はますます高まるでしょう。AIが発達して実務レベルに達すると、人手はドンドン不要になります。テクノロジーを管理できる一部の有能な従業員だけが会社を管理し、それ以外の従業員はもはや無用になる。ユヴァル・ノア・ハラリ氏は『ホモデウス』の中で、「大量の無用者階級が生まれる」という未来を予言しています。ナデラ氏の発言と根っこで繋がっていると私は解釈しています。

つまり、資本家が有能な従業員の頭脳を搾取しまくってガンガン儲ける時代が訪れようとしているということです。もしかしたら、21世紀は株式黄金時代になるかもしれません。大規模な政府規制が入るまで、この種の搾取構造は是正されないと見ています。

消費財、資本財、あらゆる企業がフェイスブック型になっていくと思います。営業利益率は改善するでしょう。なぜなら、資本家の搾取率が上がるからです。一部の頭脳明晰な従業員を高給で雇って、その頭脳が生み出す富を吸い上げるのです。従業員は高給をもらっているから、資本家に反発しようとも思いません。

まさにユートピアの到来、、ってなわけではありません。企業からはじき出された大半の従業員はどうやって食っていけばいいのでしょうか。放置すれば経済格差はますます広がるでしょう。

難しい問題ですね。米国では富裕税が検討されています。実現の可能性は低いでしょうが、そういう思想が生まれる背景があるという事実の方が重要です。火のない所に煙は立たぬ、です。

その辺の再分配問題は何が最適解か私にはわかりません。一つ言えることは、株主という地位で居続けた方がいいということです。優秀な頭脳を搾取する側にいましょう。それが必ずあなたの経済基盤を強くします。そう確信しています。米国株のバリュエーションは割高ではないですよ。極めて株主優位な現代の搾取構造が株価に織り込まれ始めているだけ、、そう見えます。