世界的な住宅バブル
ゼロ金利、量的金融緩和では飽き足らず、コロナ禍を受けて先進国では実態経済に直接マネーをぶっこむ政策が平然と行われています。20世紀の国家指導者が現代を見たら腰を抜かすことでしょう。
金融を緩和して市中のマネー流通量が増えると金融資産の価格が上昇します。低金利が世界の株価を押し上げているのはご存知の通り。
ただ、資産価格ほど世の中の物価は上がりません。スーパーで売られている卵や豆腐、アイスクリームの値段が2倍になることはないです。少なくとも日本はない。日経平均がグングン上がっていても。
増えたマネーは規模の大きい金融市場に吸収されていきます。
そんな中、私たちの身近なもので、株と同じくらい金融緩和に反応して値上がりするものがあります。
それは住宅です。
東京23区内の中古マンション価格はこの10年で約1.5倍になっています。建物部分の減価を考慮すれば、実質的には2倍にはなっているのではないでしょうか。
世界的に住宅バブルだと警鐘が鳴らされています。ブルームバーグによると、特にバブルの兆候が見られる都市はフランクフルト、トロント、香港、ミュンヘン、チューリッヒなどです。東京も上位に入っています。中国では恒大集団の過剰債務が大きな問題になっています。
記憶に新しいリーマンショックもきっかけは不動産でした。
不動産に金が集まる理由
なぜ、こうもマネーは不動産に集まるのでしょうか?
金融市場ではなくリアル経済でこれだけ緩和マネーが集まるのは不動産くらいではないでしょうか(不動産も金融商品的な性質があるとは言え)。
その理由は、住宅は皆が必要とするものでかつ高額なためマーケットが大きいからです。マネーの受け皿として十分な市場規模を備えています。流動性も比較的高いです。
もう一歩踏み込んで考えます。
住宅はなぜ高額なのでしょうか?
あれだけでっかいコンクリートの塊なんだから高くて当然でしょうか。
モノの値段はどうやって決まるのか?
基本は原価です。原価以上で売らないとビジネスとして成立しません。どれだけ競争が激しい業界でも値段は原価以下にはなりません。激安牛丼も価格は原価よりは高いはずです。
住宅は原価が高いから販売単価も高くなります。
なぜ住宅の原価が高くなるのか?
それは人手がものすごくかかるからです。原価とは突き詰めればすべて人件費です。
雨水や海水を使うのは無料です。なぜなら、自然の産物で労働力が介入していないからです。一方でミネラルウォーターが欲しいならお金を払わないといけません。ミネラルウォーターの製造には労働力がかかっているからです。
空気がないと私たちは10分と生きられませんが、空気は無料です。でも海中に潜るための酸素ボンベは有料です。
ユニクロの服は安くて良質ですが、それはもの凄く人件費の安い国で製造しているからです。もちろん効率的なサプライチェーンを組み立てる企業努力もあります。
テレビ番組でおにぎりやアイスの製造工程を見ることがありますよね。ほとんど人手を介さず、機械が自動で1日に何万個と製造しています。
衣食住のうち衣と食は年々生産性が上がっていることもあって、値段はさほど上がりません。むしろ下がっているくらいです。特に衣。
生産性の向上がインフレを抑制するとは具体的にはこういうことです。マネーの量が増えても、生産性が上がって原価が下がれば価格上昇は抑えられます。
住宅にはこういう自動化イノベーションがほとんど起こってません。私の知らないところで起こっているのかもしれないけど、少なくとも建築現場を見る限りそれは感じられません。足場が組まれて、そこで大勢の職人さんが作業をしています。
もしコンビニのおにぎりのように、住宅が半自動で建築されるようになれば、住宅価格は大きく下がるはずです。原価が下がるからです。
でもそれは今のテクノロジーでは不可能です。3Dプリンターが家を作っている動画を見たことありますが、プレハブみたいな感じですね。そこら辺にあるマンションを3Dプリンターで作るなんて無理です。
住宅にもいずれは大きなイノベーションが起こって原価が劇的に下がるかもしれません。しかし、それは次の10年、20年くらいでは無理でしょう、きっと。100年後ならわかりませんが。
お金とは他人の労働力を使う権利です。お金がじゃぶじゃぶになると、金融市場に突っ込むのでなければ、そのお金で労働力を買う必要があります。お金だけ持っててもしゃーないので。
たくさんの労働力を必要とするもの(=原価が高いもの)でかつ市場性のある住宅、とくにマンションにお金が集まるのにはそういう背景があると思います。
住宅って労働の塊です。都内を散歩してたくさんのタワマンを見るにつけて、「ああ、あれもこれも労働力の塊だな~」と私はしみじみ思うことがあります。
人生でもっともコストのかかる住宅。それだけ他人の労働を買う必要があるものということです。
住宅建築にイノベーションが起こって価格が今の半分以下になったら、きっと先進国に住むほとんどの人は、意識せずとも経済的自由を獲得していくんだろうと思います。金融緩和で不動産バブルなんて話も消えていくかもしれません。
ディアマンディスの「加速する世界に備えよ」やハラリの「21lessons」でも建築における3Dプリンターの可用性について言及されていたように思いますが、今の日本の建築現場を眺めている限りではそうした未来はまだまだ先の話に感じますね笑
ただ、デザイン技術の向上というか、最近の築浅の4階建て~10階建ての賃貸マンションを眺めていると、みんな外観も共用部もすごく洗練されていて、そういう部分のコストはAIの進化も相まってどんどん低下し続けているのかもしれませんね。
ああいう本はテクノロジーについて煽ってきますよねw
私も読みました。
確かにテクノロジーは想像以上のスピードで社会を変えることがありますが、人間生活の基盤である住居はそう簡単に建築方法が変わるとは思っていません。
安全面で政府が懸念するでしょうし、あとは既得権益層も多いので。
最近のマンションはお洒落な外観多いですよね。
マンション散策は都内散歩の楽しみの一つです。