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【レパトリ減税】アップルには増益要因、マイクロソフトには減益要因、キャッシュフローは共通

      2017/12/24

2017年12月22日、米国税制改革法案にトランプ大統領が署名しました。2018年から米国の連邦法人税率は35%から21%に大幅減税となります。法人税率引き下げだけに注目が集まりがちですが、それ以外にも様々な変更点があります。その一つが既存の米国外留保所得に対する軽減税率の適用(レパトリ減税)です。

米国企業が米国外で得た利益に対して、今までは本国(米国)還流時に35%の税金が課されるルールでした。しかし、今回の税制改革法案施行によって、既存の米国外留保利益に15%の軽減税率で一度限りの税金を課します。

レパトリ「減税」と言われます。確かに「減税」です。ですが、今まで課税されずに置いておいた留保利益に強制課税されるので、企業にとっては追加の税金支払いが発生します。今までより税率は下がりますが、追加で税金支払いが発生するので企業の資金繰りには悪影響です。今までの税制では、そのまま米国外に利益を置いておけば課税は半永久的に繰り延べることができましたが、今回の税制改革によって強制課税されます(軽減税率ですが)。

一括課税された米国外留保利益は今後8年間かけて米国政府に分納されます。課税は一括ですが、即時支払いを求めるのは酷なので8年間の分納となっています。

アップルやマイクロソフト、ファイザーなど海外にたんまり資金を持っている企業は、2018年から8年間過去の利益に対する税金を払い続けることになります。

今後8年で分納というキャッシュフローは企業間に違いはありません。では、会計処理はどうなるでしょうか?
今回のレパトリ減税(海外留保利益に対する一括課税)に関して、2017年度決算に与える影響は企業によって違いがありそうです。個人的分析ですが(間違いあればすみません)。

アップルとマイクロソフトを例に考えてみます。レパトリ減税はアップルにとって2017年度増益要因ですが、マイクロソフトにとっては減益要因になると推測しています。なぜ、こんなことが起こるでのしょうか?

キーワードは税効果会計です。

 

実は海外留保利益に関する税金費用はすでに計上済み

米国外でビジネスをやっている企業、特にソフトウェア等の無形資産が大きいアップルやマイクロソフトなどのハイテク企業は米国外に利益を移転しやすく、税逃れをしていると批判されがちです。

確かに、ハイテク企業は米国外に利益を移転することで税金支払いを抑えています。マイクロソフトはアイルランドの首都ダブリンに事業拠点を持っています。プエルトリコやシンガポールにも拠点を構えています。いずれも法人税率が低い国々です。アイルランドの法人税率は12.5%しかりません。メドトロニック(MDT)はコヴィディエンを買収して、本社をアイルランドに移転させました。

アイルランドで計上した利益には12.5%の法人税が発生しますが、その税引き後利益は米国に戻さない限り米国の高い法人税(税制改革前35%)は掛かりません。なので、マイクロソフトなど大手ハイテク企業は、米国外の低税率国で計上した利益を米国に戻すことなく、現地で再投資ないし現預金のまま保有していました。

ですが、、実はどの企業も米国外の利益を仮に米国に戻したら発生するであろう税金費用を前倒しで計上しています。これは会計基準で求められている処理です。税効果会計と呼ばれます。

「米国外で計上した利益であっても、どうせいつかは米国内に戻すんだからその時発生する税金費用は予め計上しなさい」というルールです。すべての米国外利益が課税対象ではなく、「この利益は半永久的に米国内に戻さず、現地で再投資します」と宣言すれば、会計上も税金費用を認識する必要はありません。

たとえば、マイクロソフトがアイルランドで100億円の利益を上げたとします。それについてアイルランドで12.5億円の法人税が発生しますね。マイクロソフトは12.5億円の税金支払いが発生します。これで税金支払いは完了です。キャッシュ・アウトフローは12.5億円で間違いないです。

しかし、会計上の税金費用は追加で計上します。アイルランド政府への12.5億円を控除した税引後利益87.5億円を仮に米国内に還流したら発生するであろう税金費用を前倒しで計上します。どれくらい追加で税金費用を計上するかは企業判断、監査法人判断で異なります。

仕訳としては「法人税 ×× / 繰延税金負債 ××」という仕訳になります。

今回、税制改革で海外留保利益に一括で課税されるので、企業にとっては軽減税率とは言え目先税金支払いが発生することになり負担です。しかし、会計上は今回の税制改革が決まるよりもっと前に費用処理済みです。

 

企業によって認識している費用には差がある。費用を戻しいれるケースと、費用を追加認識するケースの2つがある。

ただ、企業によってどれくらい予め海外留保利益に対して税金費用を認識しているかは異なります。

個人的な推測の域を出ませんが、どうやらアップルは米国外留保利益に対してかなり多額の税金費用を前倒しで計上しています。マイクロソフトは、アップルに比べると事前に計上している税金費用が小さいです。

アップルは米国の35%という改正前の高い連邦法人税率を前提に、米国外留保利益について保守的に税金費用を計上済みのようです。今回海外留保利益に対する税率は15.5%ないし8%と軽減されるので、アップルはかつて計上した税金費用を戻し入れることになる可能性が高いです。

アップルの仕訳イメージ

■米国外留保利益に対して追加で税金費用を計上した(昔)
法人税 100 / 繰延税金負債 100

海外留保利益に100の米国税金費用を一応認識した。だが今回の税制改革で100も費用計上は不要で80でいいことがわかった。よっしゃ!20戻し入れできるじゃん。

■税制改革で税率軽減となって繰延税金負債を取り崩す(2017年度決算にて)
繰延税金負債 20 / 法人税 20

20の費用を戻し入れる。法人税が減って増益要因となる。

 

マイクロソフトは当初計上した繰延税金負債の金額が不足していると思われます。

マイクロソフトの仕訳イメージ

■米国外留保利益に対して追加で税金費用を計上した(昔)
法人税 50 / 繰延税金負債 50

どうせ米国で税金はそんなに発生しないだろうと踏んで、50しか税金費用を認識していなかった。しかし、今回の税制改革ですべての米国外留保利益に一括で強制課税となって、実際には80の税金費用を認識する必要があった。う、、30費用が足りないじゃんorz

■税制改革で税率軽減となったが繰延税金負債を追加計上する(2017年度決算にて)
法人税 30 / 繰延税金負債 30

30の費用を追加計上。法人税が増えて減益要因となる。

 

アップルもマイクロソフトも最終的な税金費用は80で共通です。しかし、アップルは予め100の費用を保守的に計上していたので、今回20の費用戻しが発生するでしょう。アップルにとってレパトリ減税は2017年増益要因となります。一方で、マイクロソフトは50の費用しか計上していませんでしたので、今回30の追加費用計上が必要になります。マイクロソフトにとって、レパトリ減税は2017年減益要因となります。

80=100-20(アップルの場合、20の費用マイナスで増益要因)
80=50+30(マイクロソフトの場合、30の追加費用計上で減益要因)

※数字は例です。

 

税金も会計とキャッシュフローに大きな差異がある

会計で計算される利益と、実際のキャッシュフローには大きな乖離があります。たとえば、300億円で新工場を設立したら、即300億円の現金支払いが発生しますが、その会計上の費用処理は30年以上の長期にわたってゆっくりなされます(減価償却)。

税金も一緒です。実際の税金支払いと、損益計算書の「法人税等」は違います。損益計算書上の法人税は実際に納付した税金ではありません。あくまでも帳簿上の会計数値に過ぎません。しかし、長期で見れば会計とキャッシュフローは一致します。

今回、レパトリ減税によって米国外留保利益に一括課税されて今後8年間で分納します。つまり、キャッシュアウトフローは将来の8年間にわたって発生します。しかし、その会計上の費用処理はすでに実施済みです。少なくとも2017年決算で完了します。

アップルとマイクロソフトの、海外留保利益の税金に関するキャッシュフローと会計上の費用はこんなイメージです。

■アップルのケース

17年 18年 19年 20年 21年 22年 23年 24年 25年
会計 ▲ 100 20
キャッシュ ▲ 10 ▲ 10 ▲ 10 ▲ 10 ▲ 10 ▲ 10 ▲ 10 ▲ 10


「昔」100もの費用を計上していたので、17年に20費用戻しできる。

■マイクロソフトのケース

  17年 18年 19年 20年 21年 22年 23年 24年 25年
会計 ▲50 ▲30
キャッシュ ▲ 10 ▲ 10 ▲ 10 ▲ 10 ▲ 10 ▲ 10 ▲ 10 ▲ 10


「昔」50しか費用を計上していなかったので、17年に30の追加費用が必要。

アップルのケースもマイクロソフトのケースも、2025年まで合計で見れば▲80で会計とキャッシュは一致します。しかし、期間で見るとかなりズレていますよね。。キャッシュフローは2018年から2025年まで発生するのに、その費用処理は2017年で終わっちゃいます。2018年以降は会計上の税金費用はゼロです。

 

 

 

税金も投資家にとって立派なコストです。投資家は税引き後の利益を最大化する必要があります。NISAなど個人の税制を最適化することが先ず大事ですが、投資先企業の法人税負担にも注目しておきたいところです。もちろん、あなたが投資する企業には優秀なCFOがいて最適なタックスプランニングを組んでいるはずなので、心配する必要はありませんがね。でも、投資家として企業の税金負担がどうなるか把握しておくことは大切なことだと思います。

企業の税金支払いを見る上で、損益計算書だけを見ていると騙されます。損益計算書には実際に支払いが発生していない税金まで費用計上されていることがあります。実際の税金支払い額は、キャッシュフロー計算書で確認しましょう。

今回、レパトリ減税を題材に税効果会計を紹介しました。ちょっと高度な会計論点でしたが、こんな記事を書いた趣旨は複雑な税効果会計を理解して欲しいことではありません。法人税も会計とキャッシュフローに大きなズレがあることを知って欲しいと思って書きました。その事実だけでも頭の片隅に置いて頂けると幸いです。

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