飲料、日用品、食品といった生活必需品を製造販売する企業はディフェンシブ銘柄と言われます。景気が悪化した時も利益がさほど落ち込まず、安定したキャッシュフローを株主にもたらしてくれます。その反面、急激な利益成長は期待しづらいです。

たとえば、生活必需品セクターETFのXLPの上位にいる銘柄としてはプロクター&ギャンブル、コカ・コーラ、ペプシコ、ウォルマート、フィリップモリスインターナショナル、モンデリーズ・インターナショナル、コルゲート・パルモリーブなどがあります。

確かに、これら生活必需品銘柄のEPS(一株当たり利益)の成長は鈍いです。直近10年間のEPS成長率(年率)はコカ・コーラが2%、コルゲートが4%ほどです。

ディフェンシブ銘柄はEPS成長が鈍い割にPERが高いのが特徴です。概ね20倍前後のPERがあります。益回りにすると5%。100万円投資して5万円。うーん、ウハウハするような利益じゃないですね・・。ま、世界的なブランド製品を持つ優良企業が多いこともあって、利益の割に株価は高いのは仕方ないことだと思っています。

仕方ないとは言っても、これからもずっとEPSが1%~4%程度しか成長しないのは株主として困ります。そんな低い利益成長では、20倍超のPERをペイできません。ペイできないというか、、別に損はしないけど多分S&P500の投資利回りを超えるのは不可能です。損しないだけじゃ不合格。やっぱベンチマークはS&P500指数だな。他の投資家とリターンを比べようとは思わないけど、S&P500は意識します。インデックスを超えないと、何のために時間を掛けて個別株投資をやっているのか・・。S&P500は強敵なので簡単ではありませんが。

あなたはコカ・コーラなどの生活必需品銘柄に投資していますか?

もし、投資しているならなぜですか?

いや、それは愚問か。失礼。儲かると思ってるから投資している、それだけですよね。金を儲けるために株式投資をしているのはみな共通のはず。あなたもそうですよね。慈善活動、趣味ではなくあくまでリターンを追求してますよね。

では、生活必需品企業に投資して儲かると思うのはなぜですか?
ここ最近の低いEPS成長率にもかかわらず、PERが20倍もあるというのに。

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確かに過去を振り返るとコカ・コーラやペプシコ、フィリップモリスといった消費者向け製品を取り扱う銘柄のリターンは高かったですが、それが未来も不変という保証はありません。大事なのは過去ではなく未来。過去の統計データは大いに参考になるけど、見るべきは未来です。

僕は生活必需品企業のEPSは長期的にはまだまだ伸びると思っています。フワッとそう思っていたけど、先日、それを確信することができました。読者さんから紹介された『ファクトフルネス』という本を読んだのがきかっけです。

『ファクトフルネス』のメッセージを簡単に言うと「しっかり数字を見よう。数字を見れば世の中は確実に豊かになっていることが分かるよ。」ということです。まだまだ貧しい生活を強いられている国、地域はあるけれど、全体として見れば社会は確実に良くなっている。先入観を持たず、データでその事実をきちんと確認しましょうと。

ただ、僕が『ファクトフルネス』を読んで思った率直な感想は「世界はまだまだ貧しいんだな。僕たち日本人はホントに恵まられたアッパー階層にいるんだ。」ということです。確かに生活水準は世界全体で底上げされているけど、私たちの生活水準に達している人はまだまだ少ないです。そう思わされた図がこちら。

著者は所得レベルを4つに区分しています。

レベル1:1日あたり所得2ドル未満。世界に約10億人。
レベル2:1日あたり所得2ドル~8ドル。世界に約30億人。
レベル3:1日あたり所得8ドル~32ドル。世界に約20億人。
レベル4:1日あたり所得32ドル超。世界に約10億人。

あなたは恐らくレベル4の住人です。1日あたりの所得32ドルってことは年収1.2万ドル(150万円~)です。あなたの年収が200万円以上あるなら、確実にレベル4と言えます。

レベル4がもっとも高所得なカテゴリーなのですが、その基準は年収150万円と私たちの感覚からすれば高くないです。むしろ低いです。新卒1年目でもそれくらいは稼げます。日本では真面目に働いている人は、みんなレベル4に属します。

しかし、グローバルで見れば年収150万円は高嶺の花です。世界70億人のうち、10億人だけがその水準に達しています。残りの60億人はまだ年収150万円以下。半分以上の人が年収30万円も得られていない状態です。

まだまだ貧富の格差は大きい。そう思いませんか。私は上の図を見た時、そう思いました。「あら、やっぱり世界は豊かになってるんだな。」とは思わなかったです。「やっぱり、まだまだ貧しい地域が圧倒的に多いじゃないか。」って思いました。

これでも世界の所得が上がっていることは間違いない事実です。

人類の歴史が始まった頃、誰もがレベル1にいた。最初の10万年間以上は、誰もレベル2に進めなかった。ほとんどの子どもは、自分が子どもを産める年齢まで生き延びられなかった。そして今から200年ほど前では、世界の85%がレベル1、すなわち極度の貧困の中に暮らしていた。現在、世界の大部分は真ん中のレベル、つまりレベル2とレベル3に暮らしている。

『ファクトフルネス』より

この200年の社会の発展のおかげでレベル1(極貧)の生活を余儀なくされている人の割合は、85%から15%に縮小しました。が、その極貧から抜け出した人が私たちと同じ生活水準に達しているわけではありません。まだ1日あたり所得2ドル~32ドルのレンジです(年収10万円~150万円)。

「年収500万円以上は必要」なんてことを婚活女性が普通に言ってる日本ではなかなか実感しづらいことですが、グローバルで見れば年収150万円以上でアッパー層です。

著者はレベル2とレベル3を中所得国と表現していますが、その年収は100万円未満です。私たちが想像する「中所得」って年収300万~400万円くらいじゃないですか。それはあくまで日本基準です。

レベル4以外に住むすべての人にとって、マクドナルドは高級品のはず。”バリュー”セットで5ドルもするのですから。バリューセット買うだけで1日の所得の大半が吹き飛びます。1日の稼ぎじゃ買えない人もいます。1本1ドルのコカ・コーラだって、そんな簡単には買えないでしょう。1時間必死で働いてようやくコーラ1本買える程度の人がまだ世界にはたくさんいます。ましてや、1000ドルのiPhoneなんて夢のまた夢です。

レベル1~レベル3に住む60億人のマーケットは生活必需品企業にとって大きなチャンスです。世界の所得はこれからも着実に向上するはずで、それに伴って世界の飲料、日用品ブランドに手が届く層が増えていくはずです。短期的には大きく変わらなくても、中長期的にはパイはまだまだ増えそうな予感がします。

世界には50億人の見込み客がいる(レベル2とレベル3の合計)。生活水準が上がるにつれ、シャンプー、バイク、生理用ナプキン、スマートフォンなどの購買意欲も高まっている。そういう人たちを「貧困層」だと思い込んでいるうちは、ビジネスチャンスに気付けないだろう。

『ファクトフルネス』より

そして何より重要なことは、今の生活必需品多国籍企業の株価に、この60億人のマーケットの需要を満たすことによる利益が織り込まれているとは思えない、という点です。株式市場は極めて近視眼的です。長期的に株式を保有できる個人投資家にとって、優良企業の株価は常にバリュー価格と言えるかもしれません。

こういう点を考えれる、やはり多国籍企業が有望かなって思います。米国内だけでビジネスをやっているより、アジアや中国など世界に拠点を持つ企業の方が世界の所得向上の恩恵を受けやすいです。私の保有銘柄で言うと、コカ・コーラは米国外売上比率が65%ほどあります。コルゲートは80%近くが米国外です。あとは、投資してないけどプロクター&ギャンブルの米国外売上比率は55%、マクドナルドのそれは65%ほどです。

こういったグローバル生活必需品企業の利益(EPS)ってまだまだ伸びる余地があると思うんですよね。単価が低い商品が多いから、少し所得が伸びるだけで手が届くようになるし。アップルのiPhoneを買うにはレベル4まで進まないと無理だろうけど、コカ・コーラやマクドナルドの商品はレベル3に進めばそこそこ余裕を持って買えます。見込み客が実際の顧客に変わるまでに、そんなに時間は掛からないかも。