これは原油価格の過去5年チャートです。
2014年夏ころから急落している様子がよくわかると思います。
シェール革命による供給過剰、クリーンエネルギー革命による需要減退などをマーケットが一気に織り込みにいった結果だと思います。
2016年初を底に原油価格は持ち直しています。
最近では11月30日のOPEC会合での減産合意を材料に原油価格は上昇しました。しかし、1バレル60ドル付近になるとシェール業者の生産がより増えることも想定され原油価格の上値はそれほど軽くはありません。
50ドル~60ドルのレンジを行き来すると思います。OPEC加盟国は1バレル55ドル~60ドル程度を目指すと以前言っています。
2014年以降の原油価格下落で多くのエネルギー関連企業が減益となり、破綻しました。生き残った企業も減配を余儀なくされています。
2016年、S&P500構成企業の内、10社のエネルギー関連企業が減配を決定します。
そんな厳しい環境の中、相変わらず増配を続けている最強企業があります。
エクソン・モービル(XOM)です。
ティラーソンの言葉
エクソンモービルは厳しい経営環境にも関わらず、今年配当を2.7%増やすと発表しています。また、2017年はさらに5%の増配を予定していると発表しています。
なぜ、他社が苦しむ中、エクソンモービルは配当を維持というかむしろ増配までできるのか?
それはエクソンモービルの財務力が抜群に高いからですが、なぜエクソンの財務はそれほど安定しているのかというと、こういう原油価格下落時を常に想定して保守的に経営されているからです。
現在のエクソンモービルのCEOのレックス・ティラーソン氏は次期国務長官に就任する予定です。もちろんエクソンのCEOは退任予定です。
ティラーソン氏は2006年からエクソンのCEOを務めており、ロシアのプーチン大統領とも親密な関係を築いています。
そんなティラーソン氏がテキサス大学の講演でこんなことを言っています。
「私は米国政府の利益を代表するためにここにいるわけではない。それを守るためでも批判するためでもない。それは私の仕事ではない。私はビジネスマンだ」
ウォールストリートジャーナルより
素晴らしいCEOです。これぞ株主資本主義が徹底された米国CEOの言葉であり、米国CEOの高額報酬がなんだかんだ言って許容されている理由です。
この言葉の意味は重いです。
つまり、ティラーソン氏は確かにロシアやサウジと仲良くやっているけど、別にロシアやサウジの利益に貢献するつもりはないと。それどころか米国のために働いているわけでもないと。あくまでも、エクソン・モービルの株主のために働いているということです。
「私はビジネスマンだ」、とはそういうことです。
CEOとしての役割をビジネスマンとして真摯にこなしているということです。
CEOとはそういうものです。CEOとは株主から多額のお金を預かっており、それを賢明な経営判断のもとビジネスに投資して資金を回収して、株主に還元する義務責務を負っている存在です。
これは株式会社のCEOとしてある意味当たり前なのですが、この当たり前が存在しない「資本主義」国家が日本だと思います。
最近こそ伊藤レポートなので株主意識が高まっていると思いますが、やはり大企業であっても私は日本の経営者に自分のお金を長期的に預けることはできません。日本人として日本企業は応援したいけれど、今の日本株に長期投資するという判断はできません。
日本の経営者で米国CEO並みに株主利益を意識していた人は松下幸之助くらいだと思います。
まあ日本は雇用の流動性が低いため、たとえ株主利益に適うとしても安易に事業売却などの組織再編ができないという点もあって、一概に経営者の問題とも言えないとは思っていますが。
このティラーソン氏の発言は別に特別なものではなく、米国のCEOは同じ気持ちで職務を遂行していると思います。
私は約70万円と僅かですがエクソンモービル株を保有していますし、400万円ほど保有しているHDVのうち8%以上がエクソンモービルです。
エクソンモービルの経営は私の資産に大きな影響を与えます。
実際にCEOのこういう言葉を聞くと、長期投資家としてはとても安心感を覚えます。「ああ、これからもエクソンモービル株を保有し続けても安心だな!」って思います。
ティラーソン氏は退任します。後継として2017年1月1日付けでダレン・ウッズ氏(51)がCEOに就任する予定です。
CEOが変わるからと言って、私はエクソン・モービル株の未来に不安は抱いていません。なぜなら、経営者の株主利益を意識した保守的な経営スタイルはもはやCEO個人の属性というより、エクソンの経営理念として社内に浸透していると思うからです。
長期株式投資では、投資先企業が如何に利益成長を遂げるかも大事なのですが、それ以上に大事なことがあります。それは、コーポレートガバナンスが盤石で株主利益を破壊するお金の使い方をしないということです。だって長期間自分のお金を預けるのですから。
これって当然かと思うかもしれませんけど、意外に難しいんです。想像してみて下さい、自分が大企業のCEOになったと。数千億円の会社資源の配分権利があなたにあるのです。そこに株主からの監視は正直言ってありません。
自分の権限で数千億円のお金を動かしてダイナミックなM&Aとかをするチャンスがあるわけです。何も変わらず平凡に事業を回して、稼いだお金を配当や自社株買いで還元し続けて自分のCEO任期はおしまい。これじゃつまらない、という心理も理解できなくはないです。
でも株主としては、余計な資本投資なんかせずに稼いだお金をしっかり還元してもらったほうがいいケースの方が多いのです。もちろん必要な投資は実施する必要はありますけどね。
30年超の長期株式投資では、どれだけ自分のお金が株主価値創造のために使ってくれるかという点を重視すべきです。そうであればたとえ衰退産業であろうとそれが株価に反映されていれば何ら問題ありません。
株主価値を破壊しながら急成長する企業、株主価値を守りながら売上高が減少していく企業、長期投資で選ぶべきは絶対に後者です。
現時点では、長期投資の対象は米国株が最も信頼できると思います。
そんな優良な米国株の中でも、エクソンモービルは連続増配33年の優良ディフェンシブ株です。市況変動が大きいエネルギーセクターで33年という連続増配年数が意味するところは大きいと思っています。
株式投資の未来の第1章、IBMとXOMの比較は確かに驚きでした。
ただ、本にも書かれていますが、結果に影響したのは配当利回りと低PERですよね。
(シーゲル教授のデータでのXOMの平均PERは13)
現在のXOMのPERは40を超えているわけですが、そこのところはどうお考えですか?
今IBMとXOMの二択をするなら、私はIBMを選択します。
ご質問ありがとうございます。
結論から申し上げますと、PER40倍でも今のXOMは買いだと考えています。
IBMも優良銘柄なのでどちらがより良いかはなかなか判断つかないですが、ただ敢えてどちらか一方を買えと言われれば今のバリュエーションであれば私はXOMを選びます。
PERとは当期利益もしくは翌期の予想利益が永続したと仮定した場合の投資回収年数を示しています。
XOMは配当こそ増配していますが、やはり原油安の影響で業績は悪化しています。
それはやむを得ないことで、エクソンの経営陣も想定していることです。
XOMのような市況の変動を強く受ける業種で、今回のように原油価格が著しく下落した影響が直近決算に反映されている場合、そのPERは当てにならないと考えております。
なぜなら、今期のような悪い収益が今後も永続する可能性はほぼゼロだからです。
景気安定株でPERが40倍だと異常ですが、XOMのようなエネルギーセクターでPERが40倍でも問題ないと考えています。
逆説的ですが、PERが40倍を超えているからこそXOMは買いだとさえ思うくらいです。