最近、日本ではROEブームですね。
JPX400の銘柄選定の基準にもなっています。
米国の議決権行使助言会社は5年平均のROEが5%未満で改善が見込まれない場合、取締役再任決議の反対票を投じるとしています。
日本企業がバランスシートの右側を強く意識して経営するようになっている傾向はいいことだと思います。
さて、新聞に載らない日はないと言っても過言ではないROE。
ROEは、Return on Equityの略で株主資本利益率のことです。
ROE= 税引後利益 / 純資産
株主資本に対していくらの利益を計上したかという指標です。
株式会社は株主の所有物です。
株主の投資持分に対してどれほどリターンを獲得したかは、株主にとって最も関心のある指標の一つと言えるでしょう。
ROEには過去が混ざっている
わかっている人には当然のことかもしれませんが、たまにこの人誤解しているのでは?と思うことがあるので記事にします。
ROEとは不動産投資の家賃収入に相当するんだ!とかいう主張を見かける時があります。
ROEとは株主の出資額(+過去の累計利益)に対するリターンなのだから、株価変動はあるけれど事実上ROE相当分は、毎年株主の利益となっているはずだとか。
ROEは企業の収益性を測るとても重要な指標です。
それは間違いない。
でも、一つ誤解してはならないことは、
ROEは今から株を買う人の投資リターンではない、という至極当然の事実です。
これは例を考えれば感覚的にはすぐに理解できることです。
マイクロソフトは超高収益企業でROEがなんと30%ほどもあります!
で、あなたはマイクロソフト株(MSFT)を買うと毎年30%のリターンを得ることができるのでしょうか?
理屈は置いておいて、普通の感覚として大型成熟株で年率30%のリターンって無理ですよね。
あなたはROEが30%のマイクロソフト株を買っても決して30%のリターンは得られません。
なぜかって?
それはROEの分母は時価ではなく簿価だからです。
ROE = 税引後利益 / 純資産(簿価)
そうでしょ?
ROE計算するときにはバランスシート右下の純資産を持ってきますね。
分母が簿価とはどういうことでしょう。
それはROEとは“過去の”株主の出資額に対する利益率だということです。
累積利益を無視すると、マイクロソフトへの一次出資者の一次出資額に対する利益率だということです。
マイクロソフトが株式を発行した時に、株を購入した当時の一次出資者なんて今となってはほとんど株主ではないと思います。
流通市場で売却済みのはず。
つまりROEとは、もはや現在の誰の投資リターンを示すものでもないのです。
ROEは分子の税引後利益は今現在の時価といえますが、分母の純資産は過去の話なのです。
当たり前のように目にしているROEという指標は、現在と過去が混ざり合った歪な指標とも言えます。
それでも企業の収益性を示す指標としてROEは大事なのです。
過去株主から受けた出資額に対してどれだけ利益を上げてきたかを測ることは、株主資本主義における株式会社の投資効率性を示す有用な指標です。
あなたは”時価”で投資する
ROEは株式会社の収益性を測る指標なのであって、投資家としての期待投資リターンを測る指標ではありません。
当然ですが、あなたは株式市場で“時価で”マイクロソフト株を買いますよね。
簿価で買えるわけないですよ。
もしマイクロソフト株をマイクロソフトの簿価(=一株当たり純資産)で買うことができたら、あなたの投資リターンは本当に30%になります!
でもそれは夢物語ですね。
そんなお人よしいません。
ジェイコム事件が再び起きない限り、そんな安値で買えるわけないのです。
マイクロソフト株は株式市場で時価で買うしかありません。
何度も言いますが、あなたは簿価ではなく時価で株を買うのです。
ROEは分母が簿価だから、今から株を買う人の投資リターンを示さないと言いました。
ROE = 税引後利益 / 純資産(簿価)
このROEの分母の純資産を時価にすることで、あなたの期待投資リターンとなります。
期待投資リターン = 税引後利益 / 純資産(時価)
純資産の時価とは要するに株式時価総額のことです。
分母と分子を「一株当たり」に置き換えれば、見覚えのある数式になります。
期待投資リターン = 税引後利益 / 純資産(時価)
= 一株当たり税引後利益 / 一株当たり純資産(時価)
= EPS / 株価
EPS(一株当たり利益)を株価で除した数値とはなんでしょうか?
それは株式益回りです。
つまりPERです。
結局あなたが時価で投資する以上、ROEが投資リターンになるなんて虫のいい話は残念ながら存在せず、PERの逆数である株式益回りがあなたの期待投資リターンなわけです。
マイクロソフトのPERは20倍くらいでしょうか。
ということは、マイクロソフト株への期待投資リターンは5%(1/20)ということです。
ROEの30%とは大違いですね。
ROEと株式益回り(PER)は兄弟関係です。
ROEは、”過去の”株主資本利益率
株式益回り(PER)は、”将来の”株主資本利益率
ROE = 税引後利益 / 純資産(簿価)
株式益回り = 税引後利益 / 純資産(時価)
ROEが高いということは、過去の株主出資額対して高い利益を上げている証拠ですから投資先企業の収益性を検討するうえでは非常に有用です。
でも誤解してはならないことは、あなたの出資額(株式時価)に対してもROEと同じ利回りで運用してくれるわけではないということです。
投資家は投資判断にあたっては時価で判断すべきですが、ROEは時価の世界ではないのです。
時価の世界にあるのはROEではなく、株式益回り(PER)です。
こんばんは。
最近hiroさんのROEの記事を読んで気になり過去記事にたどり着いた者です。ROEは指標として気になっていました。数式では理解していたのですが、何となく高い方が良いという感じで自分の中でボヤっとしていました。
この記事でROEを簿価益利回りとして考えれば良いという内容を拝見し、とても分かりやすくイメージできました。ROEは過去の推移が重要になってくるということに繋がってるんですね。
他の読者の方にも是非この記事を読んでもらいたいです笑
ありがとうございました。
こんにちは。
ROEは過去の株主出資額(+利益剰余金)と今の利益を比較しているという点で、分母と分子の時間に差があるちょっといびつな指標です。
ROEが高い方が良いのは間違ないのですが、純資産が時価ではない以上ROE=投資リターンになることはありません。
そうとは言え、高いROEはこれまで株主の期待以上のリターンを生み出してきた証であるという点で重要指標です。
ところで、これはすっごく昔の記事ですね!
こんな前の記事まで読んで頂いてありがたいですが、ちょっと気恥ずかしいですw。
ROEについてはこれまでもいくつか記事を書いてきました。
たとえば、これはROEへの誤った理解に対する警鐘を鳴らすつもりで書きました。
https://growrichslowly.net/trap-of-high-roe-stock/
ご紹介ありがとうございました。