※会社での実際のやりとり(ノンフィクション)

CFO「Hiro君」

Hiro「ん、は、はい。ど、どうも、お疲れ様です。」

CFO「ちょっと雑談。今いい?」

Hiro「あ、はい、大丈夫です。」

CFO「すまんね、決算中に。」

Hiro「いえ、とんでもないです。大丈夫です。」

CFO「突然だけど金利どう思う? これからどう動くと思う?」

Hiro「き、金利ですか。日本の金利ですか?」

CFO「いや、アメリカ。アメリカの金利はこれからどう動くと思う。」

Hiro「アメリカですか。そ、そうですね。FRBの政策はちょっと流動的になりつつあるので、なかなか読めないですね。なんとも言い難いかと・・」

CFO「短期金利じゃなくて長期金利の話ね。長期金利の動きが最近不安定だけど、Hiro君はこれから金利は上がると思う。それとも今のまま。もしくは下がる?」

Hiro「・・・(ムズい質問やな汗)。あまり根拠はないのですが、個人的には大きくは上がらないと思います。10年債で3%~4%くらいならあり得るかもしれませんが、6%とかはないと思っています。」

CFO「そうか。私はね、アメリカの金利はこれから上がると思ってるよ。根拠はないけど、あくまで直感ね(笑)。」

Hiro「直感、、ですか」

CFO「そう。40年近くマーケットを見ているけど、経済って必ず循環があるから。今の金利は低すぎる。このまま低金利が続くとは思わない。いつかはわからないけど、いずれ金利は上がると思うよ。」

Hiro「そうなんですね。勉強になります。」

CFO「うん。そこでね、経理財務として大事なのは、金利が急に上昇してから慌てないこと。いつ金利が上昇しても大丈夫なように対策しておかないとね。常に株主に説明できる状態にしておかないと。」

Hiro「はい、おっしゃる通りだと思います。」

CFO「資金調達は財務で見ることだけど、Hiro君は経理として会計面できちんと考えておいて欲しい。もうバリバリ実務だけする立場でもないでしょ。為替や金利の動きが、うちの業績にどう影響するのか常に意識するようにして欲しいな。」

Hiro「はい、日ごろから意識するように気を付けます!」

社畜

CFO「仮に金利が上昇したら、うちの業績にどう影響するのか簡単にまとめてくれない?」

Hiro「え、あ、はい、わかりました(マジで・・)」

CFO「今週の金曜に私と仲村さん(経理部長)にOutlookで会議依頼出しておいてくれる。30分くらい簡単でいいから報告して。」

Hiro「わかりました。」

CFO「よろしく。」

・・・

・・・

なにが「ちょっと雑談」じゃい!!

めっちゃ仕事振っとるやん。

CFOからの依頼を無視するわけにはいかない・・ 。ってことで、金利が上昇したら業績にどう影響するのか考えました。うちの会社特有の話ではなく、一般論として成り立つ話なので簡単にブログの記事にしました。ちょっと会計専門的な話も出てきますが、気軽に読んでもらえると嬉しいです。

では、また会社の会話に戻りまーす。

(金曜の報告会にて)

Hiro「どうもお時間頂きありがとうございます。」

仲村経理部長「今日は何の話だっけ?」

CFO「金利が上がったら会計にどう影響するかって話。よねHiro君?」

Hiro「はい」

Hiro「では早速。手短かに話します。大きく3つ論点があります。減損、退職給付、借入利息の3つです。」

減損リスクが上がる

Hiro「まず減損について。端的に言うと金利が上がると減損リスクが高まります。説明するまでもないと思いますが、将来キャッシュフローを割り引く利率が上がるためです。

うちは10年前に買収した米国子会社NXの「のれん」を減損するか以前より検討しています。NX社が作成した将来キャッシュフロー見積もりをベースに計算した結果、これまで減損不要と判断してきました。いまのところ会計士も承認済みですが、しぶしぶといった感じです。減損判定はギリギリのラインです。仮に割引率が1%でも上がれば、それだけで減損が必要という判断になる可能性があります。」

退職給付債務の負担が軽くなる

Hiro「2つ目が退職給付債務です。こちらも割引率が影響するという点では減損と同じ話です。将来の退職金債務の現在価値が小さくなります。負債の現在価値が小さくなるので、うちにとって有利に働きます。

ただし、現行の会計基準ですと、その債務負担の軽減分はPLで損益処理はせずにBSの純資産を直接動かすことになります。なので、純利益は上がらないしROEも改善しません。そこはちょっと残念ですが、債務負担が減るので株主利益にプラスなのは間違いない事実です。」

経理部長「純利益には入らないけど、包括利益に入るってことでいいの?」

Hiro「はい、そうです。」

借入利息の負担が重くなる

Hiro「3つ目は敢えて言う必要もないかと思いましたが、念のためです。金利が上がると新規借入時の利率が上がります。

アメリカの長期金利が上がるということは、必然日本の金利もいくらかは上がるはずです。うちの調達金利も上昇している可能性が高いです。ただ、うちは財務格付けが良いので、それほど大きな影響はないと思います。」

以上。
会話はここまで。

株主にとって、金利上昇の本質って何だろうか?

退職給付債務のところは特に専門的ですね。会計専門的な話はこの記事の主眼じゃないので、あまり気にしないで下さい。

一つぜひ知っておいて欲しいのは、金利上昇が業績に与える影響は借入利息の増加だけではないという点です。金利上昇と聞いたら、「あ、借金の利率が上がって利息が増えて、利益が減るんだよな」って思うかもしれません。確かにそれは事実です。でも、その影響は相対的に軽微です。特に財務格付けが高い優良企業にとっては大した影響じゃありません。

じゃあ、金利上昇によって企業業績がもっとも影響を受ける点は何なのか?

それは減損で説明したところですが、将来CFの割引率が上がることで資産の現在価値(=時価)が下がることです。ここが、金利上昇のもっとも大きなインパクトです。減損損失として実際にPLに表れるかどうかはケースバイケースですが、実質的な株主利益にもっともインパクトがある点はここです。

ただ、悪い話ばかりではありません。金利が上がると長期性資産の現在価値が小さくなるというデメリットがある一方で、長期性負債の現在価値が小さくなるというメリットもあります。それが退職給付債務のところで説明した点になります。

繰り返しですが、金利上昇は
長期性資産の現在価値を下げる(株主利益にマイナス)
長期性負債の現在価値を下げる(株主利益にプラス)

という2つの効果があります。

メリットもあればデメリットもあります。まあそうは言っても、デメリットがメリットを上回るのが普通なので、金利上昇は企業にとって(=株主にとって)マイナスと言えます。

もう少し深掘って考えたいのが、金利が上昇して将来キャッシュフローの現在価値が小さくなる事の本質ってどういうことか、という点です。

10年後の100億円を5%で割り引けば現在価値は61億円、7%で割り引けば51億円。金利が2%上がるだけで、10億円も資産価値が減少します。つまり、株主価値が減少します。もっと言えば株価が下がって株主は損をします。

金利上昇は株式価値にマイナスです。

それって結局どういうことなのか?

わかる、割引率が上がって将来CFの現在価値が小さくなるってのはわかる。計算上そうなるのはわかる。ただ、その本質的意味って何なのでしょうか?

端的に言うと機会コストが上がるということです。

仮に米国債の利回りが6%に上がれば、リスクほぼゼロで6%のリターンを得る機会が投資家に与えられているということです。企業には国債利回りより高い収益率が求められます。その圧力が将来CFの現在価値を押し下げる、そんなイメージです。

国債利回りが6%なら、企業は最低でも6%以上の利回りを提供しないと投資家を引き寄せることはできません。そりゃそうです。リスクがない国債で6%の利回りがあるんだから、リスクがあるビジネスを営んでいる企業のエクイティのリターンはもっと必要です。どれくらいだろうか。3%のプレミアムを付加した9%くらいはないと、投資家は納得しないのでは。

仮に9%のリターン(益回り)を投資家が求めるとしたら、PERにすると11倍です。昨年末より米国株価は大きく下げましたが、それでもS&P500の予想PERは14倍~15倍のレンジです。仮にこれが11倍まで下がるとしたら、株価は今よりもう20%落ちることになります。それはあり得ない話ではないです。まあ、急に6%まで金利が上昇するとは思えませんけどね。

歴史を振り返るとこれまでも金利が大きく上昇した期間はありました。しかし、それでも長期で見れば、株式は債券よりも高いリターンを投資家にもたらしてきました。

なぜか?

結局、大きく金利が上がるってことは、よほど経済成長率が高まらない限りは、インフレ率の上昇を意味するからです。インフレ率が高まれば、企業の名目利益も増えます。そうやって、株主は高い金利(高いインフレ率)に負けないリターンを株式から得てきました。

ただ、これは長期で言えることです。先ず金利が上昇して株価が下がり、その後企業利益(配当)の上昇とともに株価も回復するという流れがあります。こういう金利リスク(インフレリスク)という点からも、長期間マーケットに居続けることが重要と言えます。

うちのCFOが言う通り、いずれ米国の金利は上がるかもしれません。そうはならず、このまま低金利が続くかもしれません。わからない。FRBの政策に依存する面もあります。どちらにしろ長期間マーケットに居続けて優良株を握り締めていれば報われるはず、、そう信じてます。