三波春夫は「お客様は神様」という言葉を、松下幸之助は「お客様は神様ではなく、お客様は王様」という言葉を残しました。
本来ビジネスとは等価交換であって買い手(客)が売り手よりも偉いわけではありません。しかし、お尻に「様」を付けるのが自然に感じるくらい、買い手であるお客様の方が立場が強いことがしばしばあります。
最近は自転車通勤してるのですが、今日は天気が心配だったので行きはバス、帰りは電車でした。珍しく残業して、20時過ぎに新宿駅構内を歩いていると、お饅頭か大福かが半額セールをやってました。店頭に若い兄ちゃんが立って威勢のいい声で客を呼び込んでいました。しかし、見る限り興味を示す通行人はほとんどいませんでした。
こういう時って明らかに売り手の立場は弱いです。現にお饅頭(大福かも)の値段を半額に値切っていました。なぜ値切る必要があるのか? それは消費期限が目前で、すぐに腐って食べられなくなるからです。ほんの僅かでも衛生面にリスクがあってはいけません。なんせ大切なお客様に販売するものですから。自分が食べる分には、多少期限切れていても、勝手にえいやで食べるのは構わないけど。自己責任ですが。
そう、饅頭(大福)は腐るんです。しかも、かなり早いペースで。冷蔵庫に入れて2~3日がいいところでしょう。せいぜい1週間が限界です。商品が生ものなどで劣化が早いほど、売り手の立場は弱くなります。
一方で、買い手の立場は強いです。客は饅頭を買うのと引き替えに何を差し出すかと言えば、そりゃお金です。お金を払います。お金は饅頭と違って腐らないです。あなたの財布に入っている千円札は1週間後も変わらず千円の価値を有しています。饅頭みたいに腐って無価値になることはありません。
だから、買い手は強い。「別に今買わなくていいや。そんなに欲しくないし。」と思うことはよくあることです。当然の発想かもしれませんが、こう思えるのはお金が腐らないからです。
想像してみてください。もしお金が饅頭のよう2日で半値に、1週間で無価値に減価する世界を。あなたの行動はきっと変わるはずです。「やべえ、さっさとお金使わないと!!」って焦るはずです。だってお金を稼いでも2日経てば価値は半分に落ちるんですから。1000円は500円になります。宝くじで1億円でも当たろうもんなら大変です。使わないと2日で5000万円を失います。
とまあ、これは空想の世界、、とも言えません。戦後のドイツ、1980年代後半のアルゼンチン、2000年以降のジンバブエ、2019年のベネズエラ。これらの国々はハイパーインフレを経験しています。物価が何十倍、何万倍にもなりました。物価が上がるということは通貨の価値が下落するということ。つまり、お金が腐るということです。
ハイパーインフレの状況にあると、人々は通貨を信用できません。1週間で半値とわかっていればまだマシで、どれくらいの期間でいくら減価するか予想もできません。そんな勝手に腐る通貨を持っておくくらいなら、さっさとパンやトイレットペーパーと交換しておこうと思います。金離れがよくなります。金が腐る世界では金を持つ消費者よりも、モノを売る生産者の方が立場が強いです。金の方がモノよりも早く腐る(減価する)からです。
日本ではこれと逆の事象が起こりました。デフレです。1995年に消費者物価指数は前年割れし、それ以降物価が下落する年が続きました。
(世界経済のネタ帳より)
デフレとは通貨価値が上昇する現象です。ただでさえ腐らないから、みんなお金を手放したがらないというのに、デフレ経済下ではお金は腐るどころか日に日に新鮮になっていきます。お金を使わずにただ持っているだけで、その価値が高まります。
デフレになったら消費が抑えられて貯蓄率が高まるのは当然です。ましてや、日本には「貯蓄は美徳」という文化があるわけで。これで消費が増えるわけがない。景気が良くなるわけがない。
デフレ社会ではお客様は神様どころではありません。神様より上の表現って何かあるかな。思い付かない・・。とにかく、、デフレになると売り手は顧客の財布からお金を引き出すのがますます難しくなります。だって(通常は)時間とともに価値が目減りするモノと、時間とともに価値が増えていくお金とを交換しようと迫るわけですよ。売り手の交渉力は弱いに決まってます。
お客様を神様、王様にし過ぎると経済は回りません。お金とは所詮モノとモノを繋ぐ仲介役に過ぎないものですが、腐らないという性質と数字で可視化しやすく貯めると脳に報酬を与えやすいという性質によって人々の関心を集めます。欲しいものはないけど、とりあえずたくさん金が欲しいと思わせる魅力を秘めています。私もお金はたくさん欲しいです。
お金はほどよく腐らせた方がいいのです。そうすることで、マネーがほどよく循環します。デフレは最悪だとわかっているから、金融危機以降、FRBは大規模な金融緩和を進めてきました。トランプ大統領の中国などに対する貿易政策だって、低インフレ経済下だからできることです。インフレ率が高まる危険があれば、輸入価格を上昇させる関税はためらうはずです。
日本では「お客様は神様」という思想が他国より強いと感じます。日本以外の国の実情を知っているわけではありませんが、何となくそんな気がします。それは国民性もあるかもしれませんが、10年以上続いたデフレも大きな影響を及ぼしていると思います。
デフレが日本のお客様を付け上がらせ、値段に見合わない過剰なサービスが世の中に溢れることになりました。客はいいけど、事業者はたまったもんじゃありません。訪日外国人観光客は「日本のおもてなしは素晴らしい」と感動するそうです。消費者として日本を見れば、恐らく素晴らしい国でしょうね。でも1年日本で働いてみると印象は大きく変わるかもしれません。
米国株投資で稼いだ金を日本で使える私たちにとって、日本は本当に「素晴らしい」国ですね。
概ね同感ですが、一転だけ。
>10年以上続いたデフレも大きな影響を及ぼしていると思います。
10年どころではないですよね。
そろそろ、30年の大台に差し掛かります。
ご指摘ありがとうございます。
そこは表現に迷った箇所です。
「失われた20年、30年」という言葉があるくらいですから。
インフレ率が実際にマイナスになっている期間は10年くらいだったのでこんな表現にしました。
デフレマインドという意味では20年30年になりますね。
こんばんは、お客様は王様は知りませんでしたが、私は「お客様は神様」は一般的に解釈されてる意味と違う風にとってます。神様は粗末に扱おうが何をしようが文句も言いません。ですが気づいたら居なくなる存在だと。文句を言うお客様はいるでしょうが(笑)お天道様に顔を背けて商売しようものなら運が逃げて行く‥そんな感じでしょうか。伝わりました?(汗)
こんばんは。
ん、一読しただけだとよく理解できませんでした(汗)。
つまり、相手が誰だろうと誠実に対応しなさいってことでしょうか。
「お天道様は見ている」と言いますものね。
理解が違ったらすみません!