毎週末の家具屋巡りが最近の楽しみです。と言っても、ニトリやIKEA、無印などリーズナブルなお店ばかりですが。渋谷や吉祥寺、下北沢に店舗があるノーチェというお店が比較的安価かつオシャレで気に入っています。

先日、ノーチェで2万円のキッチンラックを購入したのですが、組み立てを自分でやるかお金払ってやってもらうか選択できました。輸入品で説明書も雑な感じだったし、DIY苦手ということもあり、組み立ても外注しました。

その作業賃が5千円。ラック本体が2万円なので合わせて2万5千円。組み立ての外注手数料率は25%です。ぼったくり投信の購入手数料率が可愛く見えます。

この組み立て加工賃は適正です。作業に30分ほどかかるとしたら、利益込みの人件費として5千円くらい支払うのは適正だと思います。こんなもんでしょう。最近は世界的に人件費が上がってますし。

組み立て代5千円は納得ではあるんですが、ラック本体が2万円であることを考えると組み立ててもらうだけで5千円も追加で払うのはちょっと抵抗あるなあ、という気持ちもあるはあります。

他人の時間、サービスを買うとはこういうことです。労働力そのものを購入するのは非常に高くつくものです。

お洒落な輸入品のキッチンラックがたかが2万円程度で手に入るのは、その価格でも売り手が利益を取れるからです。つまり原価は2万円以下ということです。家具の相場を知りませんが、粗利率30%としたら原価は1万4千円です。

組み立てサービスを30分相当買うだけで5千円も必要でした。1万4千円とは組み立て作業でいうと、1時間半の労働力に相当します。

人一人が1時間半かけたところでお洒落で機能的なキッチンラックなんてできません。デザインを考えるだけでも丸1日かかるでしょう。

キッチンラックの原価が1万4千円で収まっているのは、その製造を可能な限り自動化し、かつ大量に生産することで1個当たりのコストを低減しているからです。

組み立て作業代はザ・人件費って感じですが、キッチンラックの原価だって突き詰めれば人件費です。その製品を企画した人の労働、機械設備を設置した人の労働、製品輸送コスト、販売員の接客コスト、あらゆるコストは究極的には人間の労働に行きつきます。

人間の労働が関与していなければ原価はゼロつまり無料です。太陽光、空気、雨水は無料です。酸素ボンベが有料なのは、その製造に人の労働が必要だからです。ミネラルウォーターが有料なのも同じ論理です

サービスを買うとは労働力そのものを買うことを意味しますが、物を買うという行為も労働力を買っていることを意味します。物、財とは労働力がギュッと資産化されたものと考えることができます。

21世紀になって、この労働力の資産化があらゆる領域で可能になりました。インターネットなどのIT技術が発展したからです。

人に簿記を教えるという行為はサービス業ですが、人気講師が授業風景をインターネット上で公開すれば、それは典型的なサービス業ではなくなります。人に教えるという労働も現代は容易に資産化できます。

講義の様子をYouTubeにアップすれば、思いもよらず人気が出て多額の広告収入をゲットできるかもしれません。

ナシーム・ニコラス・ダレブは『ブラック・スワン』の中で、拡張不能な月並みの国と、拡張可能な果ての国という2つの概念を持ち出していました。21世紀になってから果ての国の面積がドンドン大きくなっています。これが格差拡大の背景の一つでもあります。

iPhoneは10万円ほどで買えますが、これってめちゃくちゃ安いと思いませんか。2年使うとしたら1日あたりのコストは140円ほどです。コーヒー1杯。実際、スマホって毎日使いますよね。

iPhoneはシリコンバレーの天才達の頭脳労働が資産化された商品です。ティムクックのCEO報酬も含まれてます。

アップルに勤務するエンジニアを自分で雇用しようと思ったら、下手したら1日で10万円、1か月で300万円ほどは請求されるかもしれません。でも、彼ら彼女らの労働が資産化された商品であるiPhoneやiPadはそれほど高額ではありません。

生産性の向上とはいかに労働力を資産化するか、ということだと私は考えています。

最近、欧米を中心に人件費が急騰し物価も上がっています。金利もじわじわと上がってきました。しかし、中長期的には生産性の向上が人件費上昇に打ち勝つ可能性が高いと思います。

あらゆる労働が資産化された世界はユートピアなのでしょうか。余暇の時間は確実に増えるでしょうから、時間的な豊かさは向上するでしょうね。

でも、自分が社会の役に立てる場をあれやこれや探し回らないといけないというのは、結構しんどい世の中かもなって思うこともあります。社会に居場所が見つからないと人間しんどいですから。