あれは確か僕が大学を卒業したばかり、監査法人1年生の時だったと思います。金融商品取引法が改正になって、1億円以上の報酬を貰っている役員は名前と報酬額を有価証券報告書で開示しなくちゃいけなくなりました。2009年3月に大学卒業したので、2009年~2010年あたりの話だったかと思います(間違ってたらすみません)。
報酬の開示可否について色々と議論がありましたが、コーポレートガバナンスを強化し、欧米並みの情報開示を行って日本の資本市場をより公明正大なものにするという政府(金融庁)の意思は固かったです。
報酬開示が義務付けられてからもう10年近く経ちます。まさかこの報酬開示を巡ってこんな大事件が起こるとは驚きました。日産カルロス・ゴーン会長が東京地検特捜部に逮捕されました。過去累計約50億円の報酬について、有報への記載が漏れていたそうな。金商法違反です。
ニュースを読んでいると、どうやら2011年~2015年の有報で報酬の過少表記があったそうです。例の報酬開示の法改正があってから、すぐに虚偽報告をしているということになります。初年度は開示内容が正しいかより厳密にチェックするもんですが、現場はわかっていたけど放任したのかもしれません。まあ、会社はトップがすべてですから、有報を作成している実務担当者が責められる理由はありません。
ちなみに、役員報酬の開示は監査対象外です。
有報は、
①企業の概況
②事業の状況
③設備の状況
④提出会社の状況
⑤経理の状況
と章が分かれていますが、監査対象は主に「⑤経理の状況」です。役員報酬の開示は「④提出会社の状況」に書いてあります。一応監査でもチェックしますが、そんな細かく突っ込まないです。
なので、監査を担当している新日本有限責任監査法人の責任が強く問われることはないと思います。もちろん、全く責任がないとは言えませんが・・。
ただこの問題が会計に影響している可能性もあります。本来「人件費(ゴーン会長への報酬)」として計上すべきだった支出が、他の勘定科目で計上されている可能性があります。それと、支出時に即費用化すべきものを一部資産化している可能性があるかな~と推測します。
どうなんやろ?
株式報酬(ストックオプション)が主な記載漏れだったようですが、さすがにストックオプションを「人件費」以外の科目で計上していることはないと思います。さすがにそこを間違ったら経理部も監査法人も気が付くはず。ちなみにストックオプションを付与した時点で「株式報酬費用(人件費) / 新株予約権」という仕訳が起きます。
ヤバいかもな~と思うのが、海外子会社経由で購入したとされる高級不動産。これは海外子会社の帳簿に固定資産として計上され、今も減価償却されている可能性があります。でも、これはゴーン会長へのプレゼントなんだから、会社に所有権はなく当然固定資産登録してはダメです。報酬なんだから「人件費」として即PLで費用化すべきです。すでに費用にすべきものがまだ資産計上されていて、結果として過去の利益が過大になっている可能性があります。あと「人件費」ではなく「減価償却費」として計上されている可能性があります。まあ、同じ販管費の中の入り繰りではありますが。
この辺の会計ミスがあってかつ、そのインパクトが大きければ、財務諸表も修正再開示という流れになるかもしれません。ただ、恐らく日産の連結財務諸表に与える金額的影響は小さく、過去の有報の修正にはならないと思います。あ、役員報酬の開示は修正になる可能性そこそこあると思いますよ。あくまで財務諸表の話ですね。
これを監査で見抜くのはね、、どうだろ。ちょっと難しい面もあるかな~と思います。海外子会社の固定資産が急に数億円増えていたら「何だろう??」って疑問には思うけど、日産自動車グループの20兆円という総資産規模を考えたら、監査上はパスされるだろうなって思います。現地監査法人の監査済みの海外子会社のパッケージを、そのまま連結会計システムに突っ込むだけだろうなって思います。
仮に日本本社が高級不動産を買ったら誰かが気が付く可能性ありますけど。まあ、だからこそ海外子会社に購入させたんでしょうけど。
ゴーン会長は日産を復活させた実力ある経営者。株主、社会に大きな富をもたらしのは間違いない。それでも、不誠実な情報開示、会社財産の流用は許されないです。
コーポレートガバナンスって難しい問題です。長期投資家として考えさせられます。自分の投資先企業で同じことが起こらないとは限りません。株式に投資するということは、あなたの大切な財産を投資先企業の経営陣に託すことを意味します。大半の企業は株主利益を最大化するために誠実に経営されています。ただ、所有と経営が完全分離されている現代の株式会社では、株主の監視はどうしても行き届きません。
そのために取締役会があるわけですが、CEOにズケズケ指摘できる人はそう多くないと思います。特に日本企業は。ましてや、ゴーン会長は1999年から日産トップにいます。長期政権。誰も何も言えないとしても不思議ではないです。
(長期)株式投資って見ず知らずの第三者に10年、20年とお金を預け続けることを意味します。冷静に考えたら結構リスキーだなって思います。
はじめまして。
今回の事件を会計的な切り口で解説されたものは見かけなかったので、Hiroさんの記事はとても参考になりました。
どうして監査で見抜けなかったのかなーと素朴な疑問に思っていました。
はじめまして。
東芝、オリンパスに続いて、今回も新日本で驚きました。
これを「不運」という言葉で片づけてはいけないとは思います。
思いますが、、やっぱりちょっと不運だな・・とも思います。
過去の財務諸表が大きく誤っている可能性は小さそうかなと思っています。
今後の報道をウォッチしていきます。
監査では、もう少し抽象度の高い「経営者の誠実性」という観点があります。
ここに、日産の監査チームがどれくらいリスクを感じていたのか、どれくらいゴーン氏と面談していたのか、が個人的には気になります。
明るみに出たのは報酬問題ですが、不誠実な経営者がいると至る所に会計操作のリスクが生じます。
財務諸表の正確性担保は最後はCEOです。CFOじゃないです。
財務諸表は「経営者の意見」です。
コメントありがとうございました。
コストカッターとして来たゴーンさんは、いつの間にか自らが最大のコストになっていたので、コストカットされたのでしょうね。
日産を作った鮎川さんは、面白いことを言いました。
「合理化はいいことだが、合理化が一番だということでやっていると自殺になる。自分自身もいることが無駄になっちゃって、自殺になっちゃう。だから、合理化というものが一番大事だと思ってやっているとダメだ。」
鮎川義介の名言
https://systemincome.com/tag/鮎川義介
日産を再建してきちんと株主価値を上げているので、報酬をもらう権利はあったと思います。
ただ隠したりするのはいけませんね。
不動産を買うのは別にいいですが、公正な手続き(取締役会含む)を経るべきです。
それがないなら、会社の私物化と言われても仕方ない。
経済合理性ばかり追求すると楽しくなくなります。
楽しくないと従業員は仕事が嫌になる。
会社は人がすべて(特に日本企業は)。
従業員が活き活きと働けない会社は伸びないと思います。