年収が上がっても生活水準を上げてしまえば、資本は蓄積できない

色々な考えがあるとは思いますが、若い頃は贅沢な生活や海外旅行とかで散財せずに、せっせと資本を蓄えた方がいいんじゃないかあと私は思います。資本を持てば有利にサバイブできるのがこの資本主義社会です。よほど親が資産家でもない限りは、自分でコツコツ蓄えるしかありません。

そのためにやるべきことは単純で、なるべくたくさん稼いでなるべく使わないことです。特に使わない、つまり節約の方が効果があります。稼いでも税金やら社会保険で持っていかれますから。10万円の節約は13万円くらいの収入に匹敵します。

給料が上がったからってそれに応じて生活水準を上げるのはオススメできません。20代の頃はボロボロの独身寮や狭い1Rに住んでましたが、慣れればどうってことなかったです。そんな貧相な生活ぶりでも恥ずかしくないのが20代の特権です。投資に回して資本を蓄えられていると思えば、全然しんどくなかったです。むしろ楽しかったくらいです。

5年、10年と会社勤めを続けていく中で少しずつ給料は上がっていきます。ご褒美として家賃を1万円を高くする程度は可愛いもんですが、月収5万円上がって家賃も5万円上げていたら金は残りません。ましてや、タワマンに住んだりレクサス買ったりしたら、普通の日本企業のサラリーマンである限り生活は火の車になるでしょう。

お金をたくさん使ったら貯金できない。簡単な算数の話。何も難しくない、当たり前のことを言ってるだけ。そうなんですが、特に給与所得者たるサラリーマンは生活水準を上げるとお金が残らない仕組みになってるんです。そういう社会のルールがあるんです。

どんなルールかと言えば、所得税法です。

年収が上がっても給与所得控除は大して上がらない

法人を作れば生活費の一部を経費にできる、サラリーマンは経費を使えないからいつまでも貧乏なまま。なんて言われることがありますが、これは半分正しく半分誤った主張です。

サラリーマンにも経費は認められています。給与所得控除と言います。あなたが年収500万円だとしたら、その500万円に所得税率がかかるわけではありません。そこから、諸々の経費が控除されます。年収から経費が控除された所得に対して税金がかかります。企業会計で言えば、年収は売上高で所得は税引き前利益に相当します。

サラリーマンに認められた経費を給与所得控除と言います。ちょうど2020年度から計算方法が一部改正されました。「年収850万円以上の人の負担が上がる!」なんてニュースを最近見た記憶ありませんか。それです。

2020年度から給与所得控除は以下のようになります(ネットから拾ってきた画像です)。

これがサラリーマンが経費として認められている金額です。ぱっと見で少ないと思いませんか。年収850万円超でもたったの195万円です。これが厳しい現実であり、給与所得者が生活水準を上げると金が消えてしまう大きな要因の一つです。

収入毎の給与所得控除の金額を計算してみます。

(単位:万円)

収入 給与所得控除
400 124
500 144
600 164
700 180
800 190
900 195
1,000 195

年収500万円の給与所得控除の金額が144万円です。これが年収500万円の労働者に認められた共通の固定経費です。すべての人に同じ金額が問答無用で適用されます。独身でも子ども3人いても構わずです。あ、配偶者控除などは無視しますね。

サラリーマンの経費とはつまり生活費です。労働力を回復するために必要なお金として国家が公認している金額が給与所得控除です。144万円ってどうですか。1カ月当たり12万円です。ギリギリ都内で一人暮らしできる金額ですが、ちょっと贅沢したらアウトですね。まあ、普通に生活してたら1カ月12万円以上使っちゃいますよ。

経費として認められているのはその程度の金額です。144万円以上の生活費を使ってもそれは経費として認められません。逆に、月5万円の極貧節約生活を送っても、年144万円の経費が認められます。給与所得者が節約志向になるのは必然です。そういう税制なんですから。もっとお金を使って経済に貢献しろ!って言うのは無理があります。ましてや日本は長い間デフレだったわけだし。

ここで注目して欲しいは、年収が上がっても給与所得控除は大して上がらないという悲しい事実です。年収1000万円でも給与所得控除は195万円で、年収500万円のそれより50万円多いだけです(144万円→195万円)。

これってどう思います?

想像してみて下さい。年収500万円から1000万円に上がったら、やっぱり贅沢したくないですか? 汗水垂らして上司の圧に耐えて、努力して1000万円も稼いでるんです。ちょっとくらい良いマンションに住みたいし、車買うならレクサスとまで言わなくても、クラウンくらい欲しいなあとか。

ま、私も含め今の若い世代はクラウンにも興味ない人が多いですかね。昔は「いつかはクラウン」なんて言ったそうですよ。まあいいや、余談でした。とにかく、年収が500万円も上がったら生活水準を上げたいと思うのは自然なことです。そのためにがんばって働いていると言っても過言ではないしょう。

でも、給与所得控除の金額を思い出してください。年収500万円から1000万円に上がっても、サラリーマンの経費(生活費)たる給与所得控除は50万円しか上がらないのです。月5万円も上がりません。

「年収が上がったくらいで贅沢な暮らしをするんじゃねえ!」っていうのが、国からのメッセージです。たくさん働いてたくさん税金納めろってことです。国民の義務ですもんね。勤労の義務、納税の義務。仕方ないか。いやいや、にしても高給取りのサラリーマンに厳し過ぎやしないですかね。私は今もこれからも、4桁の所得領域に到達することはないと思うので他人事ですが。。

これが出世して給料が上がっても生活水準を上げてはいけない理由です。年収が上がったからって贅沢な暮らしをするのは、税金的にあまりに不利なんです。

年収1000万円もらっても、タワマンに住んで高級車乗り回したら、まず資本は蓄積不可能です。それらを経費にできる事業所得者ならまだましですが、たった年195万円しか生活経費が認められていないサラリーマンがそれをやっちゃうと家計は火の車になります。

「この国のかたち」を知ろう

若い内に株式などの資本にお金を投入できると、あとあと楽になります。資本が稼ぐお金というのは、往々にして税金的に有利です。少なくとも給与所得よりは有利です。投資収益(配当所得、譲渡所得)は、どれだけ所得が上がっても税率は20%です。キャピタルゲインには課税の繰り延べ効果があります。

自分で事業を持って法人を作れば、さらに節税の余地が高まります。自宅や車の減価償却も経費にできます。全額は無理にしても。

社会に出て10年経ちますが、改めて思っていることがあります。がむしゃらに働く前に、まず「この国のかたち」を客観的に理解した方が良いということです。サラリーマンの給料の決まり方、労働者と株主の関係、株式会社制度、所得税法、法人税法といったこの社会のルールを知るということです。

勉強が必要ですね。経験だけでカバーするのはちょっと厳しいと思います。誰も教えてくれませんから。教えれる人なんてそうそういませんし、仮にいたとしてもそれをあなたに教える義理はないはずです。自分で学ぶしかありません。本を読む人と読まない人の差は、とてもつもなく大きいですよ。あと、健全な懐疑心を持って、常に自分の頭で考えることが大切ですね。