金融商品の価値とは、その金融商品が生む将来キャッシュフローの割引現在価値の合計です。

ここほんっとに大事な点です。「???」って思うならお時間あるときにこちらの本をぜひ手にとってみて下さい。

この原則に例外はありません。債券も債権も株式もREITも不動産も、あらゆる資産の金融的価値はその資産がもたらす将来キャッシュの割引現在価値です。債券ならクーポン、債権なら与信先からの回収額、株なら配当が将来キャッシュに該当します。

よって、株式の理論価値は将来配当の割引現在価値の合計となります。

こんな簡単に一言で表現しましたが、実際に算出するのは困難を極めます。
・将来の配当ってどうやって見積もればいいのか・・
・割引率ってどうやって決めればいいのか・・
といったパラメーター設定に絶対の答えはありません。だからこそ、適正株価を巡って毎日NY市場で株があれだけ取引されているわけです。

理論株価を算定するには、一定の仮定を置くしかありません。よくあるのが、定率成長モデルというものです。これは、現在のキャッシュフローが将来にわたって一定の率で成長し続けるという前提に立って、金融商品の理論価値を算出する方法です。

式の証明は他のサイトに譲るとして(ググれば色々出てくると思うので興味ある方はぜひ)、結論だけ書くと、定率成長モデルを前提とした株式の理論価値は以下のようになります。

P=D /(r-g)
P:株価
D:現在配当
r:割引率(期待収益率)
g:配当成長率

この式を前提に株式の理論価値を計算してみたいと思います。

r(割引率)は9%を使用します。過去の平均実質利回り7%に現在の米国のインフレ率2%を足した数字です。

配当成長率は過去10年のDPS成長率(CAGR)とします。過去10年の成長率が、今後も永続するのかと言われると、それは分かりませんが、こうやって仮定を置いて計算するしかありませんから、ご了承ください。もっと合理的な仮定の置き方もあるかもしれませんが、今回はこれが進めます。

定率成長モデルでの株の理論価値算定は、キャッシュフローが安定している成熟企業に適しています。ってことで、今回はAT&T(T)とプロクター&ギャンブル(PG)で試算してみます。

 

AT&T(T)

AT&Tは米国トップの通信企業です。通信事業ということでキャッシュフローは安定しており、ビジネス領域が国内限定のため、利益成長率も低いです。定率成長モデルが適用しやすい企業です。

パラメーターはこうなりました。

D(現在配当) $2
g(配当成長率) 2.3%
r(割引率) 9%

現在の年間配当は一株当たり2ドル。FY08~FY17までの配当成長率は2.3%。インフレ率+α程度しか成長していませんね。配当利回りは高いですが、あまり増配は期待できない銘柄です。

さて、この条件でAT&Tの理論株価を算出してみましょう。

P=D /(r-g)
の式に当てはめるだけです。

P=$2 / (9% - 2.3%)
P=$29.8

AT&Tの理論株価は$29.8と算定されました。6月15日の終値は$33.2でしたから、まあまあいい線いっていますよね。

マーケットは今後もAT&Tが2%ちょい程度の増配しかできないだろうと評価しているようです。それくらい増配できれば、名目で9%のリターンが得られます。こう見ると、PER11倍で利回り6%近くあるAT&Tもそんなめっちゃ割安ではないな~とわかりますよね。適正株価の範疇かな~という印象。

 

プロクター&ギャンブル(PG)の理論株価を算出してわかる、成熟優良企業が市場平均を超える理由

日用品大手プロクター&ギャンブル(PG)で同じ計算をしてみましょう。

衣料用洗剤のアリエール、柔軟剤のレノア、エアケアのファブリーズなど日本でも多数の有名ブランドを展開していますよね。日用品ですから、景気に左右されにくく毎年の営業キャッシュフローは安定しています。連続増配61年の配当王です。

パラメーターはこうなりました。

D(現在配当) $2.87
g(配当成長率) 7.2%
r(割引率) 9%

成熟企業とは言え優良グローバル企業として、年率7%超という増配実績を残しています。この7%の増配率が永続すると仮定します。

P=D /(r-g)
の式に当てはめます。

P=$2.87 / (9% - 7.2%)
P=$159.4

P&Gの理論株価は$159という結果になりました。対して、6月15日終値は$77です。

・・・

・・・

え、実際の株価($77)の方が理論株価($159)よりめっちゃ低いじゃん!!
もしかしてPGって今割安なの!?
って思うかもしれません。

この辺が、前提を置いて「えいや!」で価値算定することの難しさです。この結果を以って、PGが割安だと安易には言えません。

先にも言いましたが、定率成長モデルは一定の率で配当が永続成長することが前提です。しかも、今回の試算では過去10年の成長率(CAGR)が、今後も一生続くというちょっと厳しい仮定を置いています。

プロクター&ギャンブルの過去10年の配当成長率は7.2%でしたが、今後はどうでしょうか?
配当性向は70%近くあるし、売上高・営業利益・純利益はこの10年でほぼ横ばいです。

利益が伸びない中で増配を続けるということは、どんどん配当性向が高まるということです。利益が全く伸びないなら、いつか限界が訪れて増配はストップせざるを得なくなります。

プロクター&ギャンブルの配当が今後30年、50年と年率7%と成長し続けるという仮定は妥当でしょうか?

マーケットはNOと言っています。だからこそ、PGの株価は77ドルでしか評価されていません。77ドルってことは、逆算するとg(配当成長率)は5.2%ほどです。さすがに過去10年と同じ年率7%で成長するのは無理だろう、せいぜい5%くらいだろう、インフレ率+3%くらいが妥当だろう、これがマーケットのPGに対する現在の評価です。

ここに成熟優良企業の投資妙味を感じるんですよ、僕は。

マーケットは過去と同じDPS、EPS成長は無理だと評価している。でも、、PGのようなハイブランドな優良企業は意外に年率7%くらいの成長なら可能かもしれないって思いませんか?

もちろん将来はわかりませよ。どんな優良企業も衰退するリスクはあります。

ただ、P&Gのような創業100年を超えて連続増配も60年を超えるような企業が、衰退する可能性はかなり低いと思います。過去の戦争混乱やオイルショック、金融危機を乗り越えて今日まで活躍し続けているわけですから。

シーゲル氏の『株式投資の未来』を読むと、プロクター&ギャンブルやコカ・コーラ、ペプシコのようなブランド力のある景気安定銘柄の長期投資リターンが高かったことが分かります。

なぜ、これらの銘柄の投資リターンが市場平均を大きく上回ることができたのかと言えば、今回PGの理論株価を算出して明らかなように、将来の配当成長率が過去と同水準は不可能だとマーケットに評価されているからです。しかし、マーケットの低い評価にもかかわらず、実際は市場平均並み、いや市場平均を超える増配率を達成できたから、PGのような成熟銘柄は高い株主リターンを提供することができました。

21世紀はどうなるでしょうか?

世界人口は2100年まで増加し続けるとは言え、増加率はどんどん逓減していきます。アマゾンなど大手ハイテク企業の脅威もあります。こんな厳しいビジネス環境の中、PGのような大手日用品メーカーは過去と同じぺースで増配を続けることができるのでしょうか?

もし可能ならば、今の77ドルという株価は割安ということになります。計算過程は端折りますが、もし過去と同じ7.2%のペースで増配を続けることができるなら、今の株価で投資すれば年率11%くらいのリターンを得られる計算になります。いいですよね~、年率11%で30年も複利運用できればリターンは半端ないっすよ。100万円を年率11%で30年間複利運用すれば2,290万円にもなります。もし、7%以上で成長できればリターンはもっと高くなります。

ちょっと楽観的過ぎるシミュレーションかもしれません。

しかし、PGなら年率7%くらいいけんじゃね!
って思いませんか?

どうでしょう、、ビジネス的な根拠は全くなく直感だけなのですが、私はプロクター&ギャンブルのブランド力を以ってすれば、年率7%の成長は不可能ではないと思います。直感ですよw。

実は、機関投資家やアナリストはPGなら年率7%で成長できると思っているのかもしれません。にもかかわらず、77ドルでしか評価していないのは、長期リターンの果実を狩るまでの時間が待てないだけなのかもしれません。長期的に配当をコツコツもらって再投資するなんて、こんな悠長な投資スタイルを機関投資家が取るのは不可能ですから。

僕みたいな素人投資家が「あの銘柄は割高だ、割安だ」って言っても説得力ないと分かっているので、普段の記事では言わないようにしているのですが、今回はこんな記事を書いたので一言だけ言わせて下さい。

PGは割安だと思います。ペプシコも割安だと思います。一般論として、景気安定系の配当株は割安に放置されている傾向があると考えています。

ただし、割安で投資できた成果を得るには長期保有が不可欠です。短期的な値上がり益は期待できませんから。

私は、PGのようなキャッシュフローが安定している優良企業の長期リターンは、市場平均を超えると思っています。PGには投資していませんが、同じ発想でコカ・コーラやペプシコなどの生活必需品セクターに積極的に投資しています。本当に成果が出るのか未来にならないとわかりませんが、今の投資方針を守り続けます。