マンション関連の書籍を読んでいると、「物件の売却資金でローンを完済できないなら損したことになる」といった感じの記載をしばしば見かけます。同様に「物件の売却資金でローンを完済できるなら得ということである」という記載もよく見ます。

こういった表現は会計人としてはかなり違和感があります。なんだか損益計算とキャッシュフローがごっちゃになっている印象を受けます。

損か得かというのはPLの話ですよね。一方で、ローンが返済できるかどうかは専らキャッシュフローの話です。

思うに資産(住宅)と負債(住宅ローン)の2つを一緒くたに考えるのがダメなのではと感じます。住宅を買うという行為と、住宅ローンを借りるという行為は全く別の経済取引です。

確かに住宅ローンと住宅購入はセットではあります。ローンを組めないと普通は数千万円もする買い物できません。担保物件がないと銀行のローン審査はおりません。

両者は不可分。でも、そうであったとしても経済的に両者は別個の取引です。資産の購入(投資)と資金の調達は別物です。

PLの損得計算というのは、資産の購入(投資)において出てくる話題です。つまり、その投資がどれくらいのキャッシュフローを生むのか、その投資資産の時価がどう変動するのかということです。

負債の調達ではあまりPLは出てきません。支払利息くらいです。負債の返済で多額のキャッシュアウトが発生しますが、それは「費用の増加」ではなく「負債の減少」です。

住宅購入における損益というのは、その住宅価値の変動および帰属家賃から計算されるもので、住宅ローン残債との比較で計算されるものではありません。

多くのマンション関連の書籍が、マンションの時価(=売却価格)と残債との比較で損得の議論を展開していて、会計人の私としては違和感しかありません。

もちろんキャッシュフローが重要なのはその通りですよ。もしマンションを買い替えるなら、売却価格が残債を上回ってないと持ち出しが発生します。手元資金がなかったら買い替えはできません。

また、いくら資産価値の高い住宅を手に入れたとしても、月々のローン返済ができないと銀行との契約違反です。信用を失います。黒字倒産は企業だけでなく個人でも起こり得ます。

企業と同じで個人(家計)もまず資金繰りを間に合わせることが最優先なのはその通り。

でも、資金繰り(キャッシュフロー)と損益計算は別の次元の話です。そこは切り分けた方がいいと個人的には思います。

・このマンションを買って、毎月の資金繰りは大丈夫だろうか? いつか売却する際にオーバーローンにならないだろうか?

・このマンションを買って、リスクに見合うリターンは得られるだろうか?


この2つは分けて考えた方がいいと思います。両方を満足しないと、数千万円の「買い物」の決断はできません。