入社3年目くらいまでの新人期間は仕事の割に給料を貰い過ぎ。4年目辺りから30代、40代までの働き盛りの頃は逆に仕事量の割に給料が低い。そして50代のベテランになるとそれほど忙しくなくなる割に給料は多くなる。年功序列の日本企業では若い頃に低賃金を我慢して働き続ければ、将来上級管理職になってからその投資を回収できるになっている。

よくこんな風に言われることありませんか。

私はこの発想には賛同できません。日本企業の上級管理職(部長クラス)の給料は仕事の割に低すぎると常々感じています。もっと言うと、社長の報酬も少なすぎます。うちの経理部長はおそらく年収1,500万円くらいもらっていると思いますが(正確な金額は知りません)、担っている役割の大きさを考えれば安すぎます。こんなんじゃ、下々の若者は待遇という点では出世したいとは思えません。少なくとも、私は全く思いません。

働き盛りの若手~中堅は業務量の割に給料が低いという意見は、汗水たらして多忙を極めている人こそたくさんの給料をもらって然るべきという発想が背景にあります。これはいかにも労働者的な発想です。

期末決算締めのために夜中の23時までPCの前に座ってカタカタやっている40代の連結決算のチームリーダーと、定時の18時で涼しい顔で帰宅する経理部長。労働時間で言えば圧倒的に後者の方が短いです。でも、担っている仕事の難易度と責任の重さは比べものになりません。

組織内での立場が上になればなるほど、働き方が資本家的になります。それはより具体的に言えばリソースの配分ということ。どの領域にどれだけの人とカネを配分するかの判断です。

会計システムを入れ替えるには億単位のお金がかかります。コンサルフィーもかかるし、社内の人員リソースも膨大に使うことになります。そのジャッジを下すのは経理部長、最終的にはCEOです。そして、そのジャッジに従って動くのが課長以下の実働部隊です。現場の社員がどれだけ優秀で仕事熱心でも、会計システムを変更するという上流の判断が不適切だったら元も子もないです。

やる価値のないことなら、うまくやる価値もない

ウォーレン・バフェット

やる価値のあることを見極めるのが部長以上のトップ層の仕事。
そして、「うまくやる」を担うのが私のような実務を担う若手~中堅社員です。

別に職務内容に貴賤はありませんが、どちらがより生産性の高い仕事かと言えば明らかに前者なわけです。間違った方向に一生懸命走ってもむしろゴールから遠ざかるだけです。-1×10×10×10×10=-10,000。進む方向が誤っていると、頑張れば頑張るほどマイナスが大きくなります。

アマゾンCEOのジェフ・ベゾス氏は1日に3つの重要な判断を下すことを自分の仕事としているそうです。徹夜なんてせずに夜はしっかり睡眠を取る。そして、スッキリした頭でまた翌日に重要な判断を3つ下す。ベゾス氏が重要な判断(クラウドに参入する、プライム会員費を値上げする、ホールフーズを買収するなど)を正しく下してきたからこそ、今日のアマゾンの繁栄があると言えます。

リソースの配分という仕事はレバレッジが効きます。大企業になればなるほどレバレッジ比率が上がります。自分一つの判断で何百人、何千人という従業員の走るルートが変わります。

リソースの配分とは知的で静かな仕事です。エクセルでカタカタ作業するのではなく、本を読んだり他社の事例を学んだりしながら自社が進むべき方向を考えるのが仕事です。だから、経理部長が定時で帰るのは当然です。そんな夜中まで残業するほど多忙だったら、疲れて重要な判断に脳ミソを使えなくなります。

現場のリーダークラスが年収800万円
経理部長が年収1,500万円

経理部長の年収は明らかに少ないと思います。「重要な判断を下す」という仕事に対してはもっと高額な報酬を提示すべきではないか。そう思います。

リソースの配分という仕事には高度な専門知識と経験が求められるので、高い報酬が払われて然るべきなわけですが、ぱっと見は多忙に見えません。だから「仕事”量”の割に給料が高くてズルい」なんて思われる時があります。

私たち株主もリソースの配分を生業にしています。どの銘柄(商品)にどれだけの有限資金をどのタイミングでポジショニングするのか。どの企業がこれから社会に価値を生み出せるのか見極めて、資金を配分することが投資家の仕事です。

株主も経理部長と一緒で「忙しく働いてないくせにたくさん金を稼いでやがる」と思われがち。自社株買いばかりして株主ばかり利益を得るなんてけしからん!と言われがち。資本家的な仕事をしている人は、こういう批判は甘んじて受ける必要があるのかもしれません。その批判を批判しても面倒で疲れるだけです。

言うまでもないことですが、株主は価値ある役割を担っています。社会に必要とされる企業を見極めて、その企業のビジネスリスクを背負うというのは重要な役割です。ネット証券でポチッと株を買っているだけですけどね。

サラリーマンであれ副業であれ資本家的な働き方を目指すことで、人生を有利にサバイブできます。なぜなら、現代社会は資本主義というイデオロギーが支配しているからです。ただし、日本サラリーマン社会の「資本家」は仕事の割に大して報酬は高くないので、株を買い続けて本物の資本家を目指したいです。