ちょっと前の話になりますが、ウォーレンバフェット率いるバークシャー・ハザウェイがアップル株を購入して世間の話題を集めましたね。
バークシャーは、2016年5月16日にアップル株(AAPL)981万株を10億7000万ドルで取得しました。

バフェットはITバブルの時に周りがバブルに踊っている中静観し続け、IT銘柄への投資を避け続け結果たとしてバブル崩壊の憂き目に遭わずに済みました。

その時の印象が強いのか、「バフェット=IT銘柄買わない」みたいな印象を世間が持っている気がします。

バフェットは自分が理解できないものに敢えて投資をしないだけです。
飲料や食品、ヘルスケアとか自分が理解できる範疇の企業で、永続的にキャッシュを生む力がありかつ割安に放置されている株を買えばいいと言っているだけです。

世の中にはたくさんの企業があるのに、敢えて自分の理解の範疇外の企業に手を出す合理的理由がないということです。

ビジネスを理解することができて永続的なブランド力や市場独占力があると判断できれば、たとえIT企業であってもバフェットの投資対象になるでしょう。
現にバフェットはアップルに投資する以前からIBM株を保有しています。

アップル株はバフェット自身の投資判断ではない。
バフェットの後継者候補のポートフォリオマネジャーの判断であり、真のバフェット銘柄とは言えないみたいな主張も見受けられます。

10億ドル投じるのに、全くバフェットが知らないとは思えません。
仮に知らなかったとしても、バフェットが自分の後継者に最もふさわしいと選んだマネージャーなのですから、銘柄選択の基本的な考え方はバフェットと同じはずです。

アップルには、アイフォンには強いブランド力と消費者独占力があります。

豊かな日本ではそこら辺の女子高生すらアイフォンを持っているのは当然の光景です。
ですが、アジアの新興国の若者は1か月分の給料を投じてアイフォンを買っています。
超高級品なわけです。

アイフォンは使いやすさもありますが、圧倒的なブランド力で売上を維持しています。

アップルに消費者独占力があることはROEやEPSの伸びを見れば一目瞭然です。
(以下に数値も示しています。)

   長期投資はバリュー銘柄

長期投資にふさわしい銘柄はグロース株ではなくバリュー株です。

もちろん、未来のアップルやフェイスブックを当てることができればバリュー株長期保有より儲かりますよ。
でもそれは現実的ではありません。

あなたには(もちろん私にも)それをする時間も能力も多分ありません。
我々はベンチャーキャピタルのファンドマネージャーでもないでしょ。
未来のアップルを探す作業は時間の無駄。

現実的な長期投資銘柄は、すでに数十年に及ぶ過去の高い利益実績があり、今後も高い収益性が継続すると期待される大型バリュー銘柄です。
すでに成熟していて市場にその強みが認知されている企業なので、急に100倍に値上がって莫大なキャピタルゲインが狙えるとかあり得ません。

地味に配当再投資を繰り返していくことで、少しずつ、でも終盤で急激に株式時価を増大させる投資が個人の長期株式投資の王道です。
複利を最大限活かすべき。

そのような成熟バリュー銘柄か否かを判断するには株主還元を見るべきです。
成熟企業は追加投資をする必要性が薄いので、株主に積極的に余剰資金を還元します。

内部留保再投資を繰り返している無配企業であっても、その再投資がきちんと収益を生んで将来の配当増をもたらしてくれるのであれば、株主としても無配は納得できます。
しかし残念ながら、長期にわたって株主の期待に沿えるほどの高利回りを達成し続けることができる企業は多くはありません。

結果として、成長投資ではなく株主還元に重きを置いているバリュー株投資が長期では株主に高いリターンをもたらすことが歴史的に明らかになっています。

  アップルはバリュー銘柄だ!

アップルのキャッシュフロー計算書を見て気付きました。
もはや、アップルはバリュー銘柄です。

アップルの配当性向は20%強であり、まだまだバリュー銘柄にしては株主還元少ないとか言ってる人いますが見方が甘いです。

戦略コンサルタントとかが好きな言葉にMECE(ミーシー)という用語があります。
「漏れなくだぶりなく」という意味。
物事を分析するときは、「漏れなくたぶりなく」事象を分断して分析することが有益ということ。

市場を分析するときに、10代女性と主婦というセグメンテーションをした場合だぶりがあります。
10代女性で主婦の人という早婚な方もいるでしょうから。

株主還元を見るうえで配当だけに着目していてはダメです。
漏れがあります。
MECEではありません。
株主還元には配当だけでなく、自社株買いもあります。

これはアップルの財務データをまとめたものです。

AAPL分析

2011年度と2012年度は株主還元はほぼゼロです。

2013年度から配当が大幅に増え、配当性向が20%~30%ほどあります。

より注目すべきは2013年度からの自社株買いの多さ。
(配当金+自社株買い)の純利益に対する割合を総還元性向と言います。
要するに当期の利益のうち、いくらを株主に還元したのかということ。

この総還元性向を見ると、2013年度以降はほぼ100%です。
2014年度に至っては100%を超えています。

これが意味するところは大きい。
2012年度までほぼ無配だったのに、2013年から3年間連続で利益の全額を株主に返還しているのです。
アイフォンの研究開発投資には使わずに、株主に還元しているのです。

アップル株は2013年度を境にグロース株からバリュー株に変わったのです。

アップルのアイフォンモデルチェンジはいつもニュースの話題です。
最近、日経新聞では『陰るアップル帝国』という特集記事が組まれています。

「それなしで生きていけないと思うほどの機能が新モデルに加わる」
5月2日、テレビ番組に出演したクックは今秋発売の次期iPhoneについて語った。

だが部品メーカに伝えている生産計画の数量は現行モデル並み。
驚きを求める消費者の期待に新製品で応える「アップルモデル」は行き詰まっている。

(日本経済新聞)

クックCEOは上記の通り、アイフォンのイノベーションを持続的に進めると言っています。
それは決して嘘ではないと思います。

新興IT銘柄としての企業マインドは生き続けているでしょう。

でも、キャッシュは嘘をつきません。
アップルのキャッシュフロー計算書は開発投資よりも株主還元を優先していることを、明確に伝えています。

クックCEOは確かに今後も革新的な製品づくりを頑張ると言っているのですが、湯水のように金を使ってまで製品開発を行う気はさらさらないのです。
これが本音です。
3年連続で利益の100%を株主に還元しているんですから。

クックCEOの本音を新聞記事から読み取ることは不可能。
でも、キャッシュフローはすべてを語っています。

アイフォンという製品は成熟したのです。
アップルは成熟企業に変身したのです。

これは好ましいことでしょうか?

消費者にとっては好ましいことではありませんが、株主にとっては好ましいことです。

消費者はアップルの株主利益なんて興味ないですから、ガンガン開発投資をしてより革新的な製品を世に送り出してほしいと、そしてそれを自分が使いたいと思っています。
株主利益をこっそり犠牲にしてでも、開発しまくれ!って思っています。
所詮、みんな自身の利益を中心に物事を考えるんです。

アップルの株主にとっては違います。
微細な機能変更に莫大な金かけるよりは、最低限の投資で現状維持を続けて「金のなる木」としてのアイフォンを売りまくって、ガンガン営業キャッシュを稼いでどんどん株主還元して欲しいのです。

アップルの株主にとってはよりイノベーティブな製品を開発することが目的なのではなく、一株当たりの株主価値の最大化がこそが目的なのです。
これが資本主義社会のルールです。

自分の株式価値が棄損しても構わないからより革新的な製品を作ってほしいと願うアホなドM株主はアメリカにはいません。

アップルのイノベーションに陰りがあるから、アップルの売上伸長率が小さくなっているからアップル株を売却するというのは、情弱な一時的思考です。
だいたい稼いだ金を投資せずに全額株主に返還しているのに売上高がそんなに伸びるはずがないでしょ。
アップルの売上伸長率の鈍化は必然です。
だって投資せずに株主還元しているんですから!

今後のアップルの業績にかつてほどの大きな伸びは期待できない、でもそれは株主還元を強化しているから。
アップルのROEは依然として30%超える水準にあり、EPSも伸び続けている。
つまり、アップルのブランド力と消費者独占力は全く衰えていない。
一見アップルの競争力が失われつつあると思われている今こそ、アップル株は買いだと思うのが二次的思考です。

直近のアップル(AAPL)のPERは10倍前後です。

バフェットに便乗するようで恐縮ですが、長期投資が前提であればアップル株(AAPL)は絶対に買いだと私は思っています。

  おまけ

大手IT銘柄4社の、総還元性向です。

総還元性向

2012年度まで、4社とも株主還元はほぼゼロです。

アマゾン、フェイスブックは今でも無配を貫いています。
典型的なグロース株です。
アルファベット(グーグル)も大差ありませんね。

アップルだけ、2013年度からあきらかに潮目が変わっています。

もはや同じIT銘柄だからと言って、この4社を同じ土俵で比べることはできませんね。