投資と投機という言葉があります。

投資とは一般的には時間軸が長く、投機は短期的な取引というイメージがあります。
投資は良いことで投機は悪いこと、というのが世間一般的な印象かもしれません。

しかし、両者を区別する明確な定義はありません。

また、そもそも投機は悪いことではありません。

投機とは元々は農家や石油生産会社が天候リスクや為替リスクをヘッジするために始まった取引です。ヘッジ取引をするためには、その取引に応じてくれるカウンターパーティが必要でありそれが投機家(スペキュレーター)です。

投機家(スペキュレーター)はヘッジする人(ヘッジャー)にとって欠かせない存在です。

参考記事
Market Hack 「投機筋はなぜ必要か?」

ただ、ヘッジャーにとって取引が相対でないならば、取引の相手方が投資家なのか投機家なのかということを区別することはできません。そういう事情もあって投資と投機の区別は曖昧だし、もはや資金の出し手の主観に左右されると言えます。

 

 

ジョン・メイナード・ケインズは投機をこう定義しました。

投機とは市場の心理を予測する活動である。

なるほど!って思います。わかりやすいシンプルな定義です。

投機とは心理戦ですね。

ヘッジャーの取引相手たるスペキュレーターは、自分が得をすると期待しているから取引に応じるわけです。自分が損をしてでもヘッジャーのお役に立てればいいというお人好しはいません。あくまでも自己利益追求です。

ヘッジャーは半年後大雨になって農作物が全滅するかもしれないと恐れていて、その潜在的損失をヘッジをしたい。その取引に応じるスペキュレーターは、「いやいや、今年は晴れるはずだ」と思っているから取引に応じるのです。

投機とは、お互いの将来予想に差異があるからこそ成立する取引です。特に相対取引で考えればイメージしやすいと思います。

ですが、普通は相対取引ではなくマーケットで取引が行われるわけです。だから、ケインズが言う通りマーケットの将来予想(心理)を予測して、その予測が間違っているんじゃないかという自分の予想にお金を賭けるわけです。

マーケットの心理(予想)と自分の心理(予想)との差異に賭けることが投機です。

 

 

前述の通り。ケインズは「投機とは市場の心理を予測する活動である。」と言いました。

では、投機ではなく投資はどう表現できるでしょうか?

ケインズの文章をパクッて、勝手にHiroが投資を定義してみます。

投資とは市場の心理を受け入れる活動である。

私はこう考えます。

投機は市場の心理を「予測する」。
投資は市場の心理を「受け入れる」。

(この投資の定義はケインズが言ってるわけじゃなくて、私が勝手に言ってるだけです。)

投資は市場の心理を予測することではありません。

確かに、自分が株を買った直後に市場心理が好転して(つまりPERが上昇して)、株価が上がれば嬉しいことです。含み損より含み益の方が嬉しいのは誰しも認めることでしょう。

ただ、それは(長期)投資の本質ではないと思います。

投資とはある意味で単純です。企業が発行する株式を市場で購入して配当を得る。以上です。これだけです。ただし、企業が万が一倒産することがあれば株主は投資額を限度に損失を負担しなくてはなりません。

期中で株価は変動しますが、株主リターンとは本来配当でしかありません。長期株式投資では、投資先企業がビジネスを通じて世の中に価値貢献して対価としてお金を稼いで、それをどれだけ株主に還元するかということがすべてです。

シーゲル教授は『株式投資の未来』の中で、こんなことを言っています。

1871年から2003年にかけて、インフレ調整ベースで、株式の累積リターンの97%は、配当再投資が生み出してきた。値上がり益(キャピタルゲイン)が生み出した部分は3%に過ぎない。

1871年から2003年という132年間でみれば、投資リターンの97%は配当だと言っています。

これはぱっと見では驚きに感じるかもしれません。私も実は最初にこの一文を読んだときは「本当かよ~、それはちょっと大げさじゃないのかな~」って思っていました。疑っていました。

でも今は疑っていません。信じています。

自分で再計算して確かめたわけでは決してありません。しかし、株式投資のリターンとは本来的に何なのかと突き詰めて考えれば考えるほどそれは配当でしかないという結論に辿り着きます。もはや自社株買いですら株主還元ではない!と言ってやりたいくらいです。
(※自社株買いは株主還元です。自社株買いは配当の後払いだというのが私の考えです。)

投資期間が長期になればなるほど配当=株主リターンとなります。

1871年から2003年って132年もあります。長期投資どころではないです。超々長期投資です。そりゃシーゲル教授が指摘する通り、株主リターンの97%が配当だっていうのも納得です。今は感覚的に納得できます。

長期株式投資のリターンとは、愚直に配当を受け取り続けることであり、その配当額がドンドン膨らむことで投資家は複利的な資産の増加を期待することができます。

 

 

「投資とは市場の心理を受け入れる活動である。」と勝手に定義しました。

投資とは、継続的に株を保有し続けて配当を貰い続けることだと言いました。

ってことは「投資(配当を貰い続けるということ)=市場の心理を受け入れる活動」ということです。

ではなぜ、「投資(配当を貰い続けるということ)=市場の心理を受け入れる活動」と言えるのでしょうか?

 

突然ですが、質問です。

そもそも、なんで株を保有すれば配当を貰えるのですか?

・・・

・・・

え!?
そんなの当然でしょ、、それが株式会社制度というものでしょう。。それが資本主義というものでしょ。
と思われるでことしょう。

そう、その通りですね。

株を保有している人は企業の所有者であり、企業が保有する資源は株主に帰属します。企業の儲けとは株主の儲けです。企業の所有者たる株主が配当をもらえるのは当然の権利です。

では、ちょっと質問を変えます。

なんで、それなりの利回りの配当が貰えるような株価で、株は常に売買されているのでしょうか?

確かに株主が配当を受け取ることができるのは当然です。

ですが、極論ですがもし配当利回りが0.1%の株があるとすれば、その株に100万円を投資しても年間の配当金はたったの1,000円です。コンビニでビールと焼き鳥2本、炒飯でも買えば終わってしまう程度のカスみたいな配当金額です。

例え有配でも、利回り0.1%だともはや配当を貰っているとは言い難いです。
楽天銀行の預金利息程度しかありません。

ただこれはあくまで仮想です。

実際は、成熟企業であれば配当利回りは2%~3%ほどはあるものです。
高配当銘柄だと4%~6%ほどある銘柄も存在します。

なぜ成熟優良企業であろうとも2%以上の配当利回りになるような株価に落ち着くのでしょうか?

米国企業の中でも随一の人気銘柄で、業績も財務もピッカピカのジョンソン&ジョンソン(JNJ)。JNJの配当利回りは8月23日時点で2.5%あります。

なぜJNJの配当利回りは2.5%もあるのですか?
S&P500平均よりも高い利回りです。米10年債より高い利回りです。もちろん預金金利より高い利回りです。

なぜですか?

JNJと言えば四半期損益のブレも小さく、常に投資家の期待に沿った高収益な決算を叩き出してくれる優良企業です。ヘルスケアセクターで時価総額No.1の企業です。

こんなJNJクラスの優良企業であれば、もっともっと買い上げられて株価が上昇してもいいのではないでしょうか?
配当利回り1%くらいまで株価が上昇してもおかしくないかもしれませんよ。

でも、実際はそうはなりません。

ジョンソン&ジョンソンほどの黄金銘柄であっても、配当利回りが2.5%になる程度で株価は落ち着いています。

それは結局、JNJと言えども民間企業であり将来のビジネスリスクがあるからです。

JNJほどの企業であっても、投資家は「将来は今ほど稼げないかもしれない」、「意外と訴訟リスクが高いかもしれないなあ」とか不安に思っているわけです。

本当に100%絶対の安心感を持ってJNJに投資しているわけではないということです。だからこそ、JNJの株価は配当利回り2.5%ほどを提供する程度に落ち着いています。

つまり、市場はJNJの将来に不安を抱いているのです。優良企業とは言え、ビジネスである以上将来は不確実だと市場は考えているわけです。

市場は、JNJほどの超優良企業に対しても、不安・恐怖・怯え・躊躇といった心理を持っているのです。

 

株式投資とは、そういった市場の心理(不安・恐怖・怯え・躊躇)を受け入れることです。

私はそう考えています。

投機と違うのは、市場の心理の変化を予測するわけではないということです。JNJ株に対する投資家の恐怖感が減退するのを予測・期待するわけではない。それは投資ではないと思います。

そりゃね、もちろん何らかのきっかけでJNJに対する市場の恐怖感が小さくなって、投資家センチメントが改善して株価が上昇すれば株主は嬉しいかもしれません。

でも、市場心理改善による株価上昇って投資リターンに関係ありますか?

ないはずです。
株を持ち続けるなら、市場心理の変化は投資リターンには関係ないはずです。

なぜなら、途中で売却しない限り投資リターンとは配当でしかないからです。

投資リターンの源泉は市場心理の予測ではありません。
それは投機です。

投資とは、市場心理を受け入れ続けることです。
その結果、貰うことができる配当こそ投資リターンです。

株式投資とは、市場の(ネガティブな)心理を受け入れてリスクをテイクし続けることです。市場心理が改善したり悪化したりといったセンチメントの変化は、投資リターンの源泉ではありません。

株式投資とは、市場の心理(不安・恐怖・怯え・躊躇など)を受け入れること、受け止めることです。

市場の心理から逃げてはダメです。

市場の心理と対峙して向き合って、その心理を我こそはと受け入れることが株式投資の本質ではないでしょうか。

だから、ちょっと株価が下落したぐらいでビビッて売っているようでは長期投資は成功しないと思います。
(別に無分別にホールドし続けろ、という意味ではないですが。)

市場の心理を優しく包み込んであげれる人が、長期投資で成功する人だと思います。

我が子を優しく抱きかかえる母親のように。