クリストファー・コロンブスは1484年に、東アジアへの新たな貿易ルート開拓を目指し、西に向かって公開する艦隊に資金を援助してもらうための提案を携えて、ポルトガルの国王に接近した。そうした探検は非常に危険で高くつく事業だった。船の建造、補給品の購入、水夫や兵士への支払いなどに多額のお金が必要だった。しかしも、その投資が利益を生むという保証は何もなかった。ポルトガル国王は彼の申し出を断った。

事業を始めようとする現代の起業家のように、コロンブスは諦めなかった。イタリア、フランス、イングランド、そして再度ポルトガルを訪ねては、投資をしれくれそうな人に自分の考えを売り込んだ。だが、そのたびに拒否された。

『サピエンス全史(下)』より

だろうな。もし自分が国王だったら、コロンブスの提案を受け入れて資金を出すなんて無理です。想定投資利回りがどれだけ高かろうと、リスクに見合うという判断は下せないと思います。いつ航海から帰ってくるかわからないし、途中で沈没する可能性もあるし、航海で得た財産を持ってどこかに逃亡するかもしれないし。心配の種は尽きません。現代企業みたいに3ヵ月に1回、財務報告が上がってくるわけでもない。

百歩譲ってコロンブスの大航海に出資するとしたら、どれくらいのリターンを要求するだろうか。1億円出資して3年で1000億円くらいのリターンは求めるかな・・。

「3年で1000倍ってアホか!」って思われるかもしれません。ちなみに複利ベースの年利で462%です。でも、462%くらいのリターンがないと嫌じゃないですか?

実際、これくらいの利益が期待できないと大航海ビジネスに投資するお金持ちはいなかったのではないでしょうか。コロンブスは最終的にスペインのイザベル女王から資金を引き出すことに成功したわけですが、イザベルはどうソロバンを弾いたのだろうか。まあ投資は大成功だったので結果オーライではありますが、イザベルのリスク調整後リターンは如何ほどだったのか・・。

先日、ジョンソンエンドジョンソン(JNJ)に投資しました。JNJの予想PERは約16倍で益回りは6.3%です。100万円投資して翌年の予想利益は6万円ちょい。イザベル女王のコロンブスへの投資利益に比べたら、雀の涙ほどの利回りでしかありません。

しかし、それは仕方ないこと。50年以上も連続増配を続ける高収益な優良企業の株式です。益回り6%でもお得と言えるかもしれません。

現在S&P500指数のPERは20倍で過去平均よりも高いです。平均PERの上昇(つまり株式リターンの低下)は一時的なものではない気がしています。それは投資家として残念なことですが、それだけ株式会社に対する投資家の信頼が厚くなっている証拠でもあります。企業自身が変わったのもあるし、インターネットによって財務情報がタイムリーに入手できるようになったという社会環境の変化も影響しているかもしれません。

リーマンショックという資本主義の負の一面が見える事件が10年前に起こったばかりですが、投資家の資本主義に対する信頼が弱まっているようには見えません。資本主義というイデオロギーも決して永久不滅なものではないでしょうが、少なくとも私たちが生きている時代では主流であり続けると思います。そうである限り、少しばかしリターンが下がるとしても、株式への長期投資は報われるはずです。