米国企業には11のセクターがあります。

・生活必需品
・ヘルスケア
・エネルギー
・電気通信
・一般消費財
・情報技術
・金融
・資本財
・素材
・不動産
・公益事業

各セクターそれぞれ特徴があります。例えば、情報技術セクターは金利上昇局面に弱い、金融セクターは金利上昇局面に強い、生活必需品は景気悪化局面に強いなどです。

以下は景気循環と金利を軸にどのセクターが強いかを示した図です。

銘柄だけでなくなるべくセクターも分散させた方が良いです。長期間投資を続けていると、信用循環のサイクルを一通り経験することになるでしょう。利上げ局面、利下げ局面ともに経験することになるでしょう。

ちなみに現在(2017年10月)はこの円グラフでいうと、橙とグレーの間くらいでしょうかね。

30年超も市場に居続ければ色んなことが起きますから、株式時価変動をマイルドにするためにもセクター分散は大事だと思います。長期投資では市場に居続けることが大切で、そのためには心穏やかに投資を続けれるポートフォリオを作っておくことが大切かなと思います。

ただ私見ですが、これから資産を積極的に成長させたいと思っている20代、30代の若い投資家には公益事業セクターはポートフォリオから外してよいと思います。

敢えて20代・30代と指定しましたが、別に年齢で区切る必要はありません。これから長期的にドンドン資産を成長させたいと考えている投資家には公益事業セクターは不要だと思います。

公益事業セクターへの投資を否定しているわけじゃないです。ある程度の運用資産がすでにあって(数千万円~億単位)、インカムゲインだけでもう十分という投資家には公益事業銘柄はむしろ魅力的だと思います。

 

 

日本や米国などの資本主義社会では、各企業高い利益を上げるために自由にビジネスを展開しています。詐欺行為を働くのは当然ダメですが、基本的には自社のリソースの範囲内で自由に事業を組み立てることが可能です。

自由に利益を求めて良いという風土が資本主義社会を発展させてきました。ソ連を始め社会主義体制は失敗しました。社会主義は決して人類のユートピアなんかじゃありませんでした。

社会主義に基づく計画経済が破綻した理由は、人間が本質的に怠け者だからです。ニンジンぶら下げて走らせるとは言い方が悪いかもしれませんが、やはり人間はご褒美がないと身を粉にして働くことはできないものです。

社会を変えてみせたいという野心も仕事のモチベーションの一つでしょうが、ビジネスで成功すれば贅沢な生活ができるというのもモチベーションの一つです。それは決して恥ずかしいことじゃないです。人間として普通の欲求だと思います。スナップチャットを上場まで成長させた、世界最年少ビリオネアのエヴァン・スピーゲル氏はスーパーモデルのミランダ・カーと結婚しました。

資本主義社会では自由にビジネスを行っていいのですが、社会的な利益を無視していいわけじゃありません。儲けるためだからと言って、従業員が鬱になるまで長時間働かせたり、そこら辺にゴミを不法投棄してはいけません。当たり前ですが。

環境・社会・ガバナンスの条件を投資意思決定に組み込むESG投資は最近の流行りです。ESG投資は実際に投資パフォーマンスが良好との話も聞きます。社会や環境にやさしい商品を提供する企業が長期的に世の中に受け入れられて、結果として高い収益を上げるというのは自然なことだと思います。

社会的な「常識」を守ることは基本的には各企業の自主性を頼りにしており、企業は「常識」を守りつつ自由にビジネスを行えるのが原則です。

ですが、国家が法律で介入することも多々あります。独占禁止法(反トラスト法)やドットフランク法による金融規制などがあります。

自由にビジネスをしていいとは言え、あまりに一部の人に富が偏り過ぎて貧富の差が拡大し過ぎると国家運営が不安定になります。治安も悪くなります。だから、国家が富の配分を調整しようとします。たとえば、反トラスト法(独禁法)は資本家に富が偏り過ぎて消費者利益が犠牲になるのを防ぐための法律です。

企業が利益を最大化するうえで、政府規制の動向は無視できません。

ハイテクや金融、製薬企業などは多額の費用を投じてロビイストを雇いロビー活動をしています。ロビイストは自分が所属する業界に有利な法制度になるよう政府と企業間を行き来しています。

付加価値を生んで社会を豊かにする力があるのは民間企業です。政府はあくまでも調整役ですが、その調整は企業のビジネスに大きな影響を与えます。

政府規制の有無は民間企業の収益性に大きな影響を与えます。

最も政府規制に縛られているのが、電力やガスなどのインフラを担う公益事業セクターの企業です。具体的には、デュークエナジー(DUK)、ネクステラエナジー(NEE)、サザン・カンパニーズ(SO)などがあります。

電力やガスは国民生活に欠かせない必需品なので、すべての家庭になるべく安価に提供する必要があります。電力やガスを安定的に供給するのは付加価値の高いビジネスですが、巨大企業が事業を独占して暴利を貪ってはいけません。電力やガスは生活に不可欠なので、高い値段を吹っかけられても消費者は断れないです。

政府、州は公益企業に対して価格設定の透明性を強く求めます。公益企業は原価積み上げで販売価格を決めるように求められがちです。付加価値が高いからと言って安易に売値を上げることは許されず、原価改善がなされたらその分価格を下げる必要があるケースが多いです。

公益企業はボロ儲けすることができません。そこそこの儲けで抑える必要があります。その代わり、常に需要があるビジネスなので利益・配当は安定しています。

最近、Market Hackに面白い記事がありました。
ハンチントン・インガルスという原子力空母を建造している企業の紹介記事です。

ハンチントン・インガルスは独占企業であり、国防省は、この会社を潰すことはゼッタイに出来ないのです。

だから造船所の雇用のことまで考え、人材が離散しないよう、メンテナンスの仕事などを注意深く先々まで計画し、業績が安定するような発注の仕方をします。

その代りマージンは厳格に管理されており、請負側が暴利をむさぼることが出来ないように、二重三重の監視体制となっています。

つまりハンチントン・インガルスは、まるで「債券」のような性格を持っているということです。

Market Hackより

広瀬氏はハンチントン・インガルスは政府受注によって利益がほぼ約束されているので、まるで債券のようだと言っています。

電力・ガス会社についても同じことが言えると思います。

公益企業株も債券に近い性質があります。

公益企業株は株式である以上、債券よりはリスクは高いですが株式の中では相対的にリスクは低めです。リスクが低いならば期待リターンも低くなるのが道理です。

政府規制のためボロ儲けはできないけど、安定したキャッシュフローがほぼ確実に予見されます。もちろん、規制の枠組みが変化するリスクはありますが、一般企業の事業リスクに比べれば小さなものです。

債券は長期投資に不向きです。投資期間が長くなればなるほど、債券は株式に対してアンダーパフォームすることが知られています。同じ理由で、公益事業セクターも投資期間が長くなればなるほど、他セクターに対してリターンが劣ると考えられます。

『株式投資の未来』によれば、20世紀後半の公益事業セクターのリターンは年率9.5%でS&P500平均の10.9%を1%以上アンダーパフォームしています。

公益事業セクターの銘柄は高配当が魅力です。デュークエナジーの利回りは4.3%、ネクステラエナジーは2.7%、サザンカンパニーズは4.7%あります(2017年10月現在)。いずれもS&P500平均を超える配当利回りです。

もう今以上の株式資産の成長を求めてなく、毎年のインカムゲインがあれば十分だというお金持ちの投資家には公益事業セクターは魅力的です。債券よりハイリスクな株式でありながらも、リスクは相対的に小さく高配当だからです。公益企業に投資することで、ほとほどの資産成長を期待しつつ高い配当を得ることができます。

一方で、まだ資産運用額が小さくこれからドンドン株式資産を増やしたいと意気込んでいる投資家には、公益事業セクターは不要だと思います。

今後、公益事業会社に対する規制が緩和されることがあれば、公益企業株に対するリスク認識も上がって、結果として投資リターンが改善することもあり得ます。

ただし、自由化後の環境で、公益事業会社のパフォーマンスがどう変わるか見極めには、もう少し時間がかかる。

『株式投資の未来』より

ただ公益企業に対する規制の構造は変化しずらいので、大幅に規制緩和されて競争が自由化される可能性は低いと思います。今後も公益企業株は「債券」のような性格を持った存在であり続けるでしょう

公益事業セクターは他のセクターと比較してやや特殊な位置づけにあります。セクター分散は大事ですが、11セクターすべてを無理にポートフォリオに組み込む必要はないです。

これから20年、30年かけて株式投資で蓄財していきたい若い投資家に公益事業セクターは不要だと思います。