90年代後半、ハイテク株を見送って批判されたバフェット

1990年代後半、バフェットはハイテク株に一切手を出しませんでした。なぜなら、理解できなかったから。ビジネスの内容を完全に理解でき、持続的競争優位があると確信し、かつ株価が割安と判断しないとバフェットは株を買わない人です。投資へのこだわりは人一倍。

来年1年、すべての時間をテクノロジーの勉強に費やしても、私はその分野における100番目や1000番目、いや1万番目に優秀なアナリストにもなれないでしょう。

ウォーレン・バフェット(株主総会での発言)

マイクロソフトやインテルに関しては、10年後の世界がどうなふうか、私には読めない。よその連中のほうに有利に働いているゲームではプレイしたくない。ソフトウェアビジネスは私の能力の範囲を超えている。

『スノーボール』より

株価は高過ぎると言われながらも、90年代を通して米株はハイテク銘柄を牽引役に上昇し続けました。90年代は「株式の時代」と言っても過言ではありません。

90年代、ハイテク株を一切保有していなかったバフェット(バークシャー)の投資パフォーマンスは市場平均を下回り、多くの批判も受けました。「”元”世界最高の投資家」などと揶揄されることも。

しかし、批判した奴らを見返す時がやってきました。2000年のITバブル崩壊です。名ばかり「ドットコム企業」は消え失せ、今も生き残るアマゾンやマイクロソフト、シスコシステムズといった優良企業の株価も暴落しました。マイクロソフトは高値から半値に。シスコに至っては、20年経った今もなおITバブル時の高値を更新できていません。今後数年の間に超えそうだけど。

アナリスト等に批判され続けていたバフェットですが、結果としてハイテク株を静観するという判断は正しかったわけです。当時の熱狂がすっかり冷めたここ数年になってようやく、アップルやアマゾンに投資しました(本人は特にアマゾンへの投資は遅すぎたと悔やんでいるようですが)。

周りはウハウハ儲けている時に、自分だけ逆張りを貫くのは苦しくしんどいことですね。ましてや、バフェットは世間が注目する有名人だし、バークシャーで他人のお金を預かって運用している立場でもあります。昔からのバークシャーの株主はバフェットの投資判断に寛容な人が多そうだけど、何年もS&P500をアンダーパフォームしていると、さすがにイライラし出す人もいたんじゃないでしょうか。まあ嫌ならバークシャー株を売ればいいだけですけどね。

市場は人々が耐え続けられるよりも長い間、不合理に動き続ける。

ジョン・メイナード・ケインズ

市場の不合理が続く間、ずっと批判され続けるのは辛いこと。それでもいつか市場は(株価は)企業の生産投資の実態を反映する、という強い信念がないと逆張り長期投資はできません。知識だけじゃ無理。

低金利時代に銀行株を大量に仕込むバフェット。
「逆張り」は報われるのか?

さて、これは現在のバークシャーの上場株ポートフォリオです。

目に付くのは金融銘柄の多さです。バンクオブアメリカ、ウェルズ・ファーゴ、アメリカンエキスプレス、USバンコープ、JPモルガンチェース。この5社だけで全体の38%を占めます。バフェットは資金の4割を銀行を中心とした金融セクターに振り向けています。

これはなかなか勇気の要る逆張り投資です。というのも、現在の経済環境は銀行ビジネスに逆風だからです。低金利ですね。2015年末からFRBは利上げを続けてきましたが、今年7月ついに利下げに方向転換。FF金利は2%~2.25%に。9月、10月に更なる追加利下げもあるかもしれません。

金利が下がってもすでに下限に近い預金金利の引き下げ余地は少ないでしょう。貸出金利が下がる分がそのまま銀行の純利益の悪化に繋がります。名目金利がプラスの米国はまだマシで、世界を見渡せばマイナス利回りの債券が15兆ドル以上あります。独10年債利回りは▲0.6%です。日本のそれは▲0.2%。

バフェットは銀行株がかなり割安に放置されていると判断しているようです。ポートフォリオの4割を銀行株にするという行動がその証拠。それは、将来の金利上昇を予想しているとも言い換えることができます。銀行株が復活を遂げるには、金利上昇が必須です。

現在の世界的な低金利は持続可能なのでしょうか?
それとも、やっぱりどこかに歪が生じていつか金利は上昇するのか?

「今回だけは違う」という発想は危険。米長期金利もいずれは3%、4%の水準に戻る。こう考えるべきでしょうか?

しかし一方で、低金利を正当化する意見にも納得感があります。

フェルズ氏は、寿命の長期化が貯蓄の欲求を高めていると書いている。昔の世代の人々はしばしば退職前に死亡し、目先のニーズを満たすことに苦労していたが、現在の人々はもはや、将来の消費よりも目先の消費を高くは評価していない。

人々は購買力を将来に移転するために、マイナス金利を容認し、貯蓄を増やしているのかもしれない。新技術も資本のニーズを低減させ、価格が安くなることで投資需要ひいては金利の下限を低下させていると同氏は書いている。

バロンズ

高齢化長寿化によって名目リターンゼロ、マイナスでもいいから貯蓄したいと考える主体が増えている。なるほど、安全資産を求めるのは日本人だけじゃなくって万国共通ということか。まあ特に高齢者はリスク取ろうと思わないよな。

技術発展によって資本のニーズ自体が減っている。なるほど、これも理解できる。一部の優秀な人がシステム、アルゴリズムを組んで、それをコストほぼゼロで複製する。大きな労働力を調達するニーズは確かに減っているように思います。

つまり、需要面でも供給面でも金利低下圧力があるということです。

この傾向は永続するのでしょうか?

人口動態は変わっていくものだし、技術発展の段階も時代によって変わっていきます。資本に対するニーズはいつか復活するかもしれません。ただ仮に復活するとしても、それがいつになるかはわかりません。

もう一度、ケインズの言葉を掲載します。

市場は人々が耐え続けられるよりも長い間、不合理に動き続ける。

ジョン・メイナード・ケインズ

仮にいつか金利が上昇するとしても、低金利時代は思った以上に長く続くかもしれません。それまで、またバフェットは苦渋を味わうことになるかもしれません。ハイテク株を見送って批判された20年前のように。「こんなクソ低金利時代に銀行株ばっかり抱えて何を考えているんだ、あのじいさんは。投資の神様も老いには勝てないのか。」なんて言う人がたくさん出そうです。

でも、バフェットは信念を持ってバークシャー株主の長期的な購買力向上のために投資判断を下しているはずです。銀行株はいつか復活すると確信しているのでしょう。それがいつになるかはバフェットも分からないと思いますが。

バフェットは御年88歳。今月末で89歳。生きてる間に銀行株の復活を見届けることができるのか。いや、そんなこと期待していないのかも。バークシャーはゴーイング・コンサーンですから。バフェットは(人は)違いますけど。きっと心の底から、バークシャー株主の長期的利益を想っているのだと思います。でないと、こんなポートフォリオ作れません、普通は。

銀行株は低PERで投資妙味を感じます。でも、なかなか買う勇気は出ません。ETFで少し拾えればいいなあくらいの気持ち。これから債券市場がどう動くのか、しっかり見届けたいです。勉強する気持ちで。