世界最大の国営石油会社サウジアラムコが、NY証券取引所(NYSE)への上場を諦めているらしいとの報道が先月ありました。

サウジアラムコの時価総額は一説では2兆ドルとも言われます。これはざっくり言えばエクソンモービル6つ分に相当します。アラムコは発行済み株式数の5%のみを上場させるらしいですが、5%でも1000億ドルという莫大な金額です。

サウジアラビアのムハンマド・ビン・サルマン皇太子は、アラムコ株売却で得た資金を活用してサウジアラビアを石油に依存しない国家に改革しようとしています。

日本は資源がないからこそ、国民全員が真面目に必死に働いてソニーやトヨタ自動車のような世界的な企業が生まれました。GHQも驚くような経済発展を遂げて豊かになりました。資源がない国は頭脳と体を働かせて稼ぐしかありません。

サウジアラビアにとって、石油収入に依存できない時代が到来したことは「怪我の功名」となるかもしれません。国家改革にはアラムコ株の売却は必須でしょう。

まあ、アラムコ株の流動性を得るためには必ずしもNYSEに上場する必要はないわけです。しかし、世界の一流企業はどこもNYSEに上場しています。やはり知名度がありますし、NYSE上場というだけで箔がつきます。

サウジアラムコはなぜNYSEでの上場を嫌がっているのか?
それについてWSJはこう報道しています。

世界最大のニューヨーク証券取引所(NYSE)へ上場すれば、株主による集団訴訟など法的リスクにさらされる恐れがあると懸念する。

確かにNYSEへ上場すれば、株主やSECから厳しく監視されます。

しかし、株式を上場するとはそういうもんです。株式を上場すると、企業の社会性は一気に高まります。株主利益を無視して自由に経営することは許されません。会社の透明性を担保するコーポレートガバナンス体制にもっとも厳しいのがNYSEです。不正会計なんてしたら、即刻上場廃止です。

NYSEに上場し続けるには相応のコストが掛かります。それを負担するのが嫌なのはわかります。5%しか上場しないんだから、監視が厳しいNYSEなんて避けたいと思っているのかもしれません。サウジ側の真意はわかりませんが。

 

長期投資のキーワードはコーポレートガバナンスだと私は思っています。30年以上にわたって、株主の資本を極力無駄なく活用してくれる企業はそう多くはないです。途中でCEOも変わるでしょうし。

NYSEへの上場はコストが掛かります。そのコストを負担しているのは株主です。ですが、その管理コストを負担する価値はあります。特に長期投資家にとっては。

NYSEに上場し続けれるくらいの企業でないと安心して株を長期保有することはできません。株主からの訴訟が怖いからと言って、NY市場を避けるような企業を安易に長期投資の対象にすることはできません。