バリュー株がグロース株に変わると爆益

稲妻が瞬く瞬間に株式市場にいないとリターンは著しく低下する。そして、そのタイミングは読むのは無理である。だから、常に市場に居続けろ。チャールズ・エリスは『敗者のゲーム』の中でこのようなことを言っています。

私もタイミングは読めないと自覚しているので、常にマーケットに居続ける心づもりです。ただ、稲妻が瞬く瞬間ってこんな時だなっていうを感じたことはあります。

それはバリュー株がグロース株が変わる時です。もっと正確に言うと、マーケットの評価がバリュー株からグロース株に変わる時です。これは現実の稲妻のように一瞬で起こるのではなく、数カ月ないし数年ほどかけて起こります。

ファイナンス的に言うと、従来PER10倍台前半から半ばで評価されていた銘柄がPER20倍後半ないし30倍になるということです。株価=EPS×PERです。PERが数カ月で2倍になれば、株価も2倍になります。

数カ月でEPSが2倍になることは大企業ではあり得ないですが、PERが2倍になることはあり得るんですね。マーケット次第で。これこそまさに「稲妻が瞬く瞬間」だと思います。

低PERの所謂「バリュー株」に投資すると稀にこういうラッキーなことが起こります。私はアップル(AAPL)でこれを経験しました。投資した2018年はPER13倍くらいまで売られていたと思います。それが今では35倍にも達しています。

つまり、PERだけで株価は当時の3倍近くになっているということ。その高い期待にビジネスの実態つまりEPS成長が追い付くかどうかが肝心なところですが、兎にも角にも株価は上がって株主は儲かっています(含み益だが)。

低PERの銘柄って、さほど利益が成長しなくても長期でそれなりのリターンを得られるはずです。理論的には。たとえば、PER10倍だとしたら益回りは10%ってことです。目先のEPSと株価の比率ですでに10%もの利回りがあれば、今後そんなに利益成長しなくても投資家は満足できるでしょう。

でも、もし新たな成長触媒を手に入れて、成長ステージに入ったとしたら、そうマーケットが評価し始めたら、投資家は予想外の利益を得ることができます。

思うにバフェットが狙っている銘柄はこういうタイプですね。マーケットはバリュー株と評価しているけど、実際はグロース株として評価されるべき潜在力を持っている企業。そういう企業をグロースに変貌する前に仕込むのがバフェット流だと思います。

1980年代後半のコカ・コーラ株への投資、2016年のアップルへの投資。いずれも程なくしてマーケット評価が「バリュー」から「グロース」に変わっています。

これは「素晴らしい企業をそこそこの価格で買う」のではなく、「素晴らしい企業を素晴らしい価格で買う」と言えます。

これが理想のパターンですね。ただ見極めるのは難しい。2018年後半にアップル株を仕込めたのは、私の場合は単なる偶然です。当時はアップルが数年後にこれほどのPEで評価されることになるとは全く想像していませんでした。地道に2%の配当を再投資していこうくらいの気持ちでした。

バリュー株→グロース株となった例は、他には決済ブランドのビザ(V)とマスターカード(MA)があります。今から信じられないかもしれませんが、2010年頃は両社ともPER10倍台半ばでした。今では30倍~40倍のレンジですね。それに相応しい業績を続けています。

2010年頃にビザ、マスターカードに投資できた人は、バリュー株がグロース株に変わるという稲妻リターンを享受しているはずです。

あと忘れてはいけないのはマイクロソフト(MSFT)です。こちらも、同じく2010年代前半はPER10倍か高くても20倍くらいでした。それがクラウドに牽引されて、今では当然のようにPER30倍台です。

優良バリュー株を辛抱強く保有していると、こういう幸運に恵まれることもありますね。低PER時代の配当再投資による株数増加が、高PER転換時に爆益を生み出します。

ただこれは結果論です。万年低PERで、EPSが成長しないどころか衰退するリスクも当然あります。私はIBMを数十万円の損失を確定させて売却しました。これから、IBMがグロース株に変わるシナリオもあるのでしょうか。直近の決算は良かったですよね。

グロース株がバリュー株に変わると爆損

さて、バリュー株→グロース株が天国なら、その逆グロース株→バリュー株は地獄ですよ。今までPER20倍台で評価されていた銘柄が突如として10倍まで落ちるとか。脳天に稲妻を喰らって昇天しそうになります。

そういうこともあります。実際に経験しました。タバコ会社のアルトリアグループ(MO)です。

2017年にMOに100万円もの大金を投じましたが、当時のPERは22倍くらいだったかな。タバコ会社はかつてのような多額の訴訟を起こされることはもうなく、高収益なビジネスを半永久的に続けることができる。こういうストーリーが支配的でした。

が、FDAの規制が厳しさを増し、また電子たばこという代替品の脅威も認識され、アルトリアのPERは10倍台前半にまで落ちました。今は9倍くらいかな。

そんなわけで、私はMOへの投資では地獄を見ています。累積配当を考慮しても未だに大きな含み損。

ここがグロース株投資の怖いところでもあります。

マーケットは一定のストーリーを持って企業を評価していると感じます。「デジタルトランスフォーメーションでクラウド化が進展し続ける」とか。そのストーリーが崩れる時、PERは雪崩を打つように下がっていきます。

マイクロソフトのPERもいずれは20倍前後まで下がる時が来るでしょう。どんな企業でもグロース株で居続けることは難しいです。グロースからバリューへの転換点で多額の投資をしてしまうと、短期的な含み損は不可避です。

私はこれをMOでやっちゃいました。MSFTが同じことにならないことを願うばかりです。

バリューかグロースか悩みは尽きない

バリュー株に投資する時、心の中で「いつかグロース株にならないかなー」という淡い期待を抱きます。しかし、実際にそうなることは稀。むしろ、低い期待すら超えられなくて損することが多い。

グロース株に投資する時、今の高い期待が剝がれ落ちて損したらどうしようと不安を感じます。しかし、勢いのある企業はそう簡単に成長軌道から外れることはなく高PERを維持しがちです。

個別株はグロース株の方が安心です。そう感じます。でもバリュー株投資の「夢」も捨て難いんですよね。