上場する意義→株式の流動性を高めること。資金調達をし易くすること。
大学生が就職活動する時は、大体みんな上場企業(東証一部)を志望します。
なぜ上場企業(東証一部)に入社したがるのでしょうか?
それは一部上場企業には有名な大企業が多く給与水準が高いという点があるでしょう。また、上場企業に就職したと言うと親御さんも安心するし、親戚一同に自慢できるということもあるかもしれません。
ちなみに、経理職志望であれば別の理由で上場企業にしか応募しない人が多いです。上場企業でないと有価証券報告書作成などの実務経験を積めないからです。私は監査法人から転職する時の条件は「上場企業の経理」でした。それは大企業が良いとかではなく上場企業の経理でしか積めない経験があるからです。おかげさまで、有価証券報告書や短信の作成業務に携わることができました。
まあとにかく、学生だけでなく世間一般の認識としても上場企業=優良企業という認識があろうかと思います。東芝も神戸製鋼所も上場企業ですけどね・・。
非上場の有名企業もありますよ。
たとえば、こんな非上場企業があります。
・竹中工務店
・ロッテ
・小学館
・YKK
有名な非上場企業と言えばかつてはサントリーがありましたが、2013年に主要子会社のサントリー食品インターナショナルを上場させました。サントリーホールディングス本体も将来的に上場するかもしれませんね。
上場企業=大企業
非上場企業=中小企業
というわけではありません。
一定規模以上でないと上場できないので、上場企業ならばそこそこ大企業ということになりますがね。大企業ならば必ず上場企業というわけではありません。
上場企業とは何なのか?
そのままですが、東京証券取引所に上場している企業が上場企業です。他にマザーズなどありますが、一般的に上場企業と言えば東証を指しているでしょう。
希望すれば上場できるわけではありません。上場するには厳しい審査にパスしなくてはなりません。
・時価総額250億円以上
・純資産10億円以上
・株主数2200人以上
・監査法人からの適正意見が付与された決算書(過去2年分)
など数多くの条件があります。
これらの条件を突破するのは大変なことですし、お金も掛かります。
経理人員を雇うにしても、それなりの専門知識がある人材を相応の給与で確保する必要があります。会計士の転職マーケットでは上場経理だけでなく、IPO準備企業の経理というのもよくあります。給与水準は大企業より高いケースも多いです。
なぜこれほどのコストを掛けてまで上場しようとするのでしょうか?
・資金を調達するため
・上場することを目的に起業したからその目標を達成したい
・上場企業になると社会的な信頼を得られる
・優秀な社員を採用し易くなる
・創業者が株式を売却してお金を得るため
といった理由が考えられます。
経営者がどう思うと自由ではありますが、株式を上場するとは誰でも自由に株式を購入できる状態になることを意味します。上場した以上は誰が株主になろうと経営者は文句を言えません。会社所有者がコロコロ変わることと引き換えに、株式の流動性を上げることができます。
株式の流動性が高いからこそ、株式発行によって不特定多数の投資家から資金を集めることができます。流動性がない株式を買おうと思ってくれる投資家なんて普通いませんから。
上場には二つのメリットがある。ひとつは、株式の流動性が上がること。すなわち、株式が換金しやすくなることだ。もう一つは、資金調達がしやすくなることだ。
逆に言えば、この二つが必要ない場合には上場する必要もない・・
『生涯投資家』より
よくIPOに成功して一気にお金持ちになる経営者がいます。
それって、IPOに成功して上場できたからお金持ちになれたのでしょうか?
違いますね、経営者は上場する前からお金持ちだったんです。上場できるほどの実力がある自社の株を持っているのですから。経営者は上場前も後も自社の株式を持っていることに変わりはありません。上場したからって、それを以って会社の価値が急に高まるはずはありません。
上場する前はその自社株の価値は客観的には見えませんが、上場することで株の価値が可視化されます。上場すると自社の株式に値段が付くだけです。今までいくらの価値か明確にわからないまま保有していた自社の株式にマーケットで値段が付きます。さらに、マーケットで自社の株を売却して換金することも容易になります。
株式を上場するとは、そうやって株式をマーケットに晒して誰でも株を売買できる状態にすることです。
その状態にすることにメリットがあれば上場すればいいし、メリットがなければ上場しなければいいんです。上場している状態を維持するのにも多額のコストが掛かります。有価証券報告書を作成する事務コスト、監査法人に対する監査報酬、適正な内部統制を維持するためのシステム費用など。
上場を維持するには億単位のお金が必要です。
企業の規模が大きくなったら必ず上場した方がいい、起業のゴールは株式上場だ、といった考えは正しくないです。多額のコストを掛けてまで上場することに意味があるのか考えるべきなのでしょう。
株式上場の意義を考え、理解することは資本主義社会の仕組み・ルールを理解することに繋がると思います。なぜなら、資本主義社会は株式会社を中心に回っているからです。
私たち一人一人が資本主義社会のルールを理解することが大切だと思います。
日本ではコーポレートガバナンスコードやステュワードシップコードの指針を国が提示して、国家を上げて企業価値向上を推し進めています。
しかし、実際に動かねばならないのは企業ですし、株主がガバナンスを効かせて企業を動かさなくてはなりません。人間安きに流れるものですから、経営者の誠実性だけを頼りにしていてはガバナンスが覚束ないのは最近の不祥事を見ても明らかです。
日本企業は外国人株主が多いと言われますが、それでも30%ほどです。裏を返せば、日本企業の株主の70%は日本人なわけです。GPIFの年金資産も含めてです。
なぜ日本企業のPBRは1倍強と低いままなのか。米国企業のそれは3倍を超えているというのに。何でもかんでも米国式が良いとは思いませんが、今まであまりに資源を無駄にしてきたせいで日本人が相対的に貧しくなっていることは疑いようがありません。
一人一人が資本主義の仕組み、株式会社制度の構造を理解することが、日本株式会社の適正なコーポレートガバナンスを構築するの第一歩ではないでしょうか。私たちは知らず知らずの内にすでに日本株式会社の株主になっているのですからです。年金等を通じて。一億総投資家時代はすでに到来しています。
企業の行動を変えることができるのは(ガバナンスを効かすことができるのは)やはり会社所有者たる株主です。その為には、株式会社とは何なのか?株主とは経済的法的にどういう存在なのか?といった資本主義社会のルールを理解することが先ずは必要です。必須だと思います。
毎日規則正しく出社して真面目に働くこと、労働することは大切だと思います。世界は仕事でできています。でも、この社会の経済的なルールをきちんと理解することなく、がむしゃらに働きまくって疲弊して「は~、全然生活良くならんし」と嘆いてばかりではもったいないです。
電動自転車があるにもかかわらず、普通のママチャリで坂を登っていてはやっぱり疲れますよ。「俺は一生懸命旧式のママチャリで走ってんだよ!、努力して偉いだろ!」って頑張ってる自慢をするのは自由です。しかし、電動自転車を使っていいというルールを知らずに、あるいは電動自転車の存在があることを知らずに、ただただ無思考にママチャリをこぎ続けるはもったいないです。
働き方が過度に労働集約的だとどうしても疲弊します。どんな偉人でも身は一つですし、時間は24時間と限られているからです。
株式収入は極めて資本集約度の高い所得です。何もしなくても持っているだけで配当を貰えるのですから。
健全な長期株式投資をスタートさせるには、株式を保有することの優位性に気が付くためには、今私たちが生きているこの資本主義社会のルールを理解する必要があると思います。「株式を上場する意味って何だろう?」って考えることも、資本主義社会の仕組みを理解するのに役立ちます。
カネがすべてだとは思いません。カネさえあれば人生幸せだとは思いません。でもいくらか所得が増えるだけで、生活にゆとりができて心に余裕が生まれることもあるのではないでしょうか。少し経済的に余裕が生まれるだけで幸せになれる人もいるのではないでしょうか?
月収が10万円増えたら、生活が激変する人は多いでしょう。社会の資金フローを健全にすることは月収+10万円くらいの価値はあるかもしれません。感覚で言っているだけですが。
カネは滞留させずにきちんと社会を循環させねばなりません。
資金を眠らせて世の中への循環を滞らせることこそ、上場企業がもっともしてはならないことだと思っている・・・
『生涯投資家』
日米の株式に対する投資家の評価の差は、投資家と企業との間で資金のキャッチボールができているかどうかの差だ。
それはまさしく、コーポレート・ガバナンスへの理解と対応の違いだと言わざるを得ない。
『生涯投資家』
カネを企業内部に滞留させないためには、日本株式会社の株主である日本国民一人一人が、自分が生きている資本主義社会のルールを理解することが大切だと思います。企業も個人も程よくカネを手放して、うまく資金のキャッチボールができれば日本はもっともっと豊かになれるんじゃないでしょうか。
すべての社会人に『生涯投資家』を読んで欲しいです。
アメリカでは上場していない企業で、上場したら投資が殺到するであろう、魅力的な企業のことをユニコーン企業と言うらしく、企業としてはユニコーン企業を目指す企業も多かったようです。(facebook等)
しかし最近は上場してもGoogleのような大企業にM&Aで吸収されてしまって、敢えて上場しない企業も増えているとか。
日本ではIPOがアホみたいに人気ですが、日本の企業でもユニコーン企業が出てくることを祈るばかりです。
こんばんは。
実はこの記事に関連して、ユニコーンについても記事を書きたいと思っていました。
なので、とてもタイムリーなコメントです。ありがとうございます。
Nさん仰るとおり、大企業がすぐに買収するから上場してすぐに消えちゃうというのもあります。
あとは上場維持コストの高騰、経営者が株主からの圧力を嫌う傾向、プライベート・キャピタルの増加などがよく言われます。
しかし、私はIPOが減ってユニコーンが増えている理由の本質はそこじゃないと思っています。
ハイテク系を中心とした現代のビジネスモデルの特徴が、ユニコーンを生み出しているんだろうなって以前からずっと思っています。
その件について、また後日、自分の考えを書いてみたいと思います。
資金を調達する必要がなければ、無理に上場する意味もないですからね。
>日本ではIPOがアホみたいに人気ですが、
IPOへの投資が平均的にリターンを生まないのは、過去の研究で散々明らかにされています。
そもそも企業の調子が最も良い時に上場するのが普通ですから、成長の罠に嵌るのは必然のように感じます。
「生涯投資家」いいですよね。
もっともっと「生涯投資家」に関連することを記事にしてください(笑)
チェルシーさん、読まれましたか!
素晴らしい本ですよね。
実は直接「生涯投資家」の文章を引用していなくとも、影響を受けている記事は結構ありますよ。
私、こういう良書は時間を空けて再読します。
また「生涯投資家」に関連した記事を上げる時があると思います。
最近は「バフェットからの手紙」を再読してます。
「生涯投資家」はHiroさんがブログでよく述べていることを村上氏も述べていますよね。Hiroさんのブログ記事を再読しながら読みました。理解も深まりましたよ。
ファンドを通じて投資先企業のより良い資本政策や日本のコーポレートガバナンスを確立させたい思いがよく伝わってきました。
世間ではこれだけ内部留保が問題になっているのだから村上氏が以前のように資本政策に問題のある企業にどんどん発言してほしいですよ。
企業も買収防衛策ではなく、株主に向けた資本政策に真剣に取り組んでいってもらいたいものです。
私は長期投資ではコーポレートガバナンスが一番大事だって思っています。
「株式投資の未来」を読んでからそう思うようになりました。
「株式投資の未来」では高配当戦略、低PER戦略とかそういう具体的戦略よりも、株式投資のリターンとは結局投資先企業がどれだけ利益を上げて、それをどれだけ株主に還元したかで決まるということを学べたことが自分にとって一番有益でした。
当たり前なんですけど、その当たり前を考え切れていなかった自分がいました。
昔は株価ばかり見ていました。
「生涯投資家」は自分が興味のあるコーポレートガバナンスに焦点を当てた本で、とても面白かったです。
しかも村上氏はコーポレートガバナンスの観点から改善すべき企業をターゲットに、実際にハンズオンで投資をされてきた方です。
その経験を読めるのはとても貴重でした。
企業の買収防衛策は、最近は廃止にする企業も増えてきました。
世の中急には変わりませんね。
少しずつ着実に変わってきているとは感じています。
「バフェットからの手紙」に関する記事もよろしくです。
お願いしてばかりで、すいません。
ルックスルー利益、とてもわかりやすかったです。
「バフェットからの手紙」をネタに記事を書いている時もたまにありますよ。
明示していない時が多いですが。
法人税減税ネタでもう少し記事書きたいと思っていて、昔「バフェットからの手紙」で学んだことを記事に落とし込むつもりです。
「バフェットからの手紙」ってちょっと難しいんですけど、何度も読み返して理解する価値がある本だな~と感じています。
読み返す毎に理解度が増していきます。
初めて読んだときは半分以上理解できなかったです。
これからも「バフェットからの手紙」の文章は紹介していきますね。
ルックスルー利益、配当はどう考えるの?っていう質問が多かったです。
そこに言及できてなかった点が反省点でした。
(皆さん、指摘が鋭い・・)
またいつか記事で取り上げるかもしれません。