ウォールストリートジャーナルでバロンズが読めなくなって失望してましたが、楽天証券で普通に読めました。PDFでちょっと見づらいけど、無料だから文句は言えません。ありがたや。バロンズの有料会員には今のところ登録しない予定です。
さて、今週のバロンズで一つ紹介したい内容があります。
NYダウは3万ドルに到達しようとしています。いま2万9千ドル台ですから、あとちょっとですね。もう+3%くらいか。S&P500指数の予想PERは19倍。ITバブル以降でもっとも割高な株価です。いくら低金利とは言え、今の水準でエントリーしていいものか悩ましいところです。
が、バロンズはこんなことを言っています。
同氏(ストラテジスト)は従来の株価指標は使わずにキャッシュリターン倍率に注目しており、それに基づくと現在のS&P500指数がこれまでの下位4分の1の割安状態にある点に注目している。
バロンズより
「キャッシュリターン」とは初めて聞きましたが(ストラテジストさんの造語?)、定義はいたって単純です。「キャッシュリターン」とは配当総額に自社株買いを加えた金額だそうです。つまり、総株主還元ということです。
純利益と時価総額を比較したものがPERですが、株主還元額と時価総額を比較したものがキャッシュリターン倍率ということでしょう。
細かい計算はどうでもいいです。要は現在の米企業は稼いだ利益をたくさん株主還元に回しており、その資本還元力を考慮すればPER19倍でも割高ではない、むしろ割安という主張です。
なるほどって思いました。
というのも、私はブログを始めて主要米国企業の財務データを収集分析してきて、疑問に思っていることがあるんです。それは、米国企業の株主還元額があまりに多く総還元性向が100%を超えているケースも珍しくないけど、それは今だけなのかそれとも伝統的にそうなのか、という疑問です。
かつて、こんな記事を書きました。
この記事の要点は、「ビザは純利益以上の株主還元を続けているにもかかわらず、売上高、利益を成長させている凄い企業」ということです。稼いだキャッシュを全部株主に返して、設備投資なんてほとんどしてないのに高成長なんです。元手なしで利益が増えている状態。ビザの決算書を見て「こりゃすげえ企業だわ!」と思い、こんな記事を書きました。
しかし、今になって思えばこれはビザだけじゃないんです。他にもにいます。利益をすべて配当や自社株買いに回しつつ、しっかり利益を成長させている企業はNY市場では決して珍しい存在ではありません。たとえば、マイクロソフトやホームデポなど。
これって今だけですかね?
っていうのは、私は株主還元については2011年以降のデータしか持ってません。Morningstarで無料で拾える範囲内の情報です。2011年~2019年のデータを見ると、総還元性向が100%を超えている企業がわんさかあります。
これが米国式経営のスタンダードなんでしょうか?
それとも今だけ?
今だけかもって思うのは、低金利だからです。金利が低い時に借金して自社株を買い戻すのは経済合理的な行動です。低金利が株主還元額を押し上げている面はあると思います。もっと金利が高かった時代は、米国企業はここまで自社株買いは多くなかったのでしょうか。どうなんでしょう。すごく気になります。昔の財務データを見てみたいです。
上場して歴史の長い企業とは言え、総還元性向が100%を超えるって凄いと思うんですよ。経理として自社の財務方針を見てて、より一層それを実感します。うちの会社は創業も長く、フリーキャッシュフローも潤沢ですが、株主還元方針は相変わらず「配当性向30%を目指す」の一点張りです。自社株買いはゼロ。つまり総還元性向で30%ということです。
総還元性向が30%とかしょぼいな!って思います。なんでそう思うかというと、普段米国企業の財務データを分析する中で、総還元性向100%超えの企業をたくさん見ているからです。30%とか少なすぎですよ。私がブログで紹介している米国企業で、総還元性向が30%を下回っている企業は一つもないと思います。
米国株投資を始めてホント勉強になりました。本業に生きてます。米国企業の財務方針はここまで日本企業と違うもんかあ、ということを実際に数字を見て知ることができたからです。米企業は容赦ないくらい自社株をガンガン買い戻すし、配当も毎年引き上げますよね。すごいですよ。米国株投資の未来には楽観的です。
最近の総還元性向が100%近い状態はニューノーマルなのでしょうか。それとも、これから徐々に米企業の株主還元額は下がっていくのでしょうか。特にいつか金利が上がって負債の調達コストが上がると、借金してまで株主還元をする合理性は薄れます。
いや、そうではなく、テクノロジーの発達で企業のビジネスモデルが変わってきていることが、株主還元額を増加させているのでしょうか。大きな資本投資をせずとも、事業を拡大しやすい環境になってきています。低金利とか関係なく、もっと構造的な要因が背景にあるのかもしれません。もしそうだとしたら、バロンズがいうキャッシュリターン倍率は、今後も高止まりする可能性があります。
莫大な株主還元を考慮すれば、もしかしたら米株の19倍という高いPERも問題ではないのかも。それどころか、割安かもしれません。稼いだ利益を投資に回さず株主に横流しし続け、かつ利益成長を維持できるなら、そりゃ株主リターンが高まるのは道理です。
どうでしょうか。キャッシュリターン倍率(株主還元額と株価の関係)で見ると、米株は割安という視点は面白いなって思いました。まあ、わかりませんけどね。一応保守的に慎重に構えておいた方がいいでしょう。期待が高いと裏切られた時のショックが大きいですし。伝統的なPERで見るという視点も当然大切です。表面的にPERを見れば米株は割高と言わざるを得ません。
う~ん、投資は難しいですね。未来は過去の延長なのか。それとも、根本的な前提条件の変化が起こっているのか。まあとりあえず、長期投資が前提ならマーケットから降りるのは得策ではないと思います。
Hiroさん
記事が興味深く、Morningstarを見たら配当のところにBuyback YieldとTotal Yieldが10年分見られることを知り驚きました。便利ですね。
確かに多くの企業で利益の100%超えの還元をしています。
100%超えの株主還元は、低金利がそうさせていると思います。高いリターンを求める投資家を減らして低金利の借金を増やすというわけですね。
今ほどの低金利は大恐慌、戦中、戦後を通して長期に行われた低金利政策を振り返るしかないのですがそのころの配当利回り、自社株買い状況知りたいものです。
過去25年分くらいは以前紹介したADVFN.comで発行済み株式数の変化をもとに推定できると思いましたが、古いデータはもう見られなくなっていました。残念。
しかしこんなレポート見つけました。
https://www.yardeni.com/pub/buybackdiv.pdf
図12からSP500全体でも、リーマンショック前と2018年に、盛んに自社株買いが行われ、還元率が100%超えたのが見て取れます。リーマンショック前は今のように低金利ではなかったにも関わらずです。
分析していただけると嬉しいです。
Neoさん
調べて頂きありがとうございます。
やはり多くの企業で総還元性向は100%を超えていますよね。
最近の低金利は特に景気が悪化しているわけでもないという点が特殊だなと思っています。
Neoさんとしては今の大還元は恒常的なものではなく、低金利の一時的なものというご意見なのですね。参考になります。
であれば、キャッシュリターン倍率でS&P500指数は割安というバロンズの意見は割り引いて聞いた方がよさそうです(どっちにしても割り引いて読んではおりますが)。
今後、金利が上がる(FRBが利上げする)シチュエーションがあるとしたら、インフレ率の高進というのが最大のリスクだと思います。
現状、その気配は感じられませんが。
資料ありがとうございます。
見てみます。