カール・マルクスは『資本論』で労働者に支払われる給料は、その労働者の再生産コストの平均として決められると言いました。労働者の再生産コストとは、明日も元気に働くために体力を回復できる住宅、食料、衣服等を調達するコストです。また、次世代の労働者生産コストと言う意味で家族を養うコストも給料の一部を構成すると解釈できます。

会社によって年収は違うので、この理論だけ給料決定ロジックを説明するのは無理がありますが、世界でもっとも成功した社会主義国と揶揄される「資本主義社会」の日本ではこの理論が通用する事例が多く見られます。

たとえば、私の会社は子ども手当や配偶者扶養手当が充実していて、同じ等級でも結婚して子どもがいる人の方が年収が100万円ほど高くなります。同じ仕事をしているのに年収が100万円も違うのは不平等と思うかもしれませんが、再生産コストという点で見れば100万円でも足りないくらいです。追加で入ってくるお金よりも出ていくお金の方が多いと思います。

いわゆる正社員という雇用区分は、昔の核家族での再生産コストを前提に給料が決まっています。つまり、夫婦2人と子どもが1人~3人。私は父・母・私・妹の4人家族でした。正社員の給料は4人家族を養えるくらいの金額になるように設計されています。

正社員というのは1馬力ではなく実質4馬力くらいはあります。4人分の(平均)生活費を払うと貯蓄はほぼできず収支トントンになるくらいの給料。正社員で独身なら収入は4馬力で支出は1馬力なので、平均的な支出をしていれば金はそれなりに残るはずです。結婚して奥さんは専業主婦で子ども二人いれば、金はほとんど残らず貯金する余裕なんてないのが普通だと思います。

DINKSというもっとも経済的に豊かな世帯形態があります。夫婦共働きで子どもは作らない家庭です。DINKSはDouble Income No Kidsの略ですが、実態はダブルインカムどころではありません。夫婦ともに正社員なら2馬力ではなく8馬力(4馬力×2)と言えます。

もし、給料=再生産コストという理論を徹底するなら、たとえば
独身者:300万円
既婚者(DINKS):年収200万円
既婚者(子持ち):年収600万円
くらいの給料格差があっても不思議ではありません。もちろん、現実はこんな理論は受け入れられないでしょう。同一労働同一賃金という流れに逆行しますし。

同一労働同一賃金というのはいかにも正論に聞こえます。働いた分だけ金をもらう。納得感のある理論です。私も概ね賛成ではありますが、徹底し過ぎもよくないと思っています。マルクスの再生産コスト理論は社会の安定化に寄与する面もあります。「子ども1人生めば1000万円支給で少子化は解決する」とひろゆき氏は提言していました。これはマルクスの理論に近い発想です。金額の妥当性は置いておくとして、発想としては賛成です。

正社員で独身、あるいはDINKSという世帯は普通に生活してれば金には結構余裕が生まれます。それは単にそういう人生選択をしただけ。結婚して子どもを作ったのはその家庭の選択の結果であって俺達には関係ない。

と言ってよいか。子どもたちが将来大人になって税金を払うことで、私たちの老後の生活を支えてくれる可能性が高いです。でも子どもを作るのは各家庭の自由というのは事実ではある。子どもが欲しいけど縁がなかった人もいる。色んな利害がぶつかるのはわかっていますが、ちょっと経済負担が特定の世帯に寄り過ぎている面があるのかなって個人的には思います。

じゃあ税金もっと増やすのかって言うと、政治的に難しいところがあります。だから、紙幣すればいいんじゃないかって思います。私はMMT理論にはそんな反対じゃないですね。あ、これはこれで現実的ではないか。。