株式会社は株主以外のステークホルダーの利益にも貢献している

なんか最近「株主資本主義はけしからん! もっとステークホルダーの利益を考慮すべきだ。」という論調をよく見かけます。今日の日経に「ステークホルダー資本主義」なんて単語も出ていてちょっと驚きました。

こういう意見って特に日本では受けますよね。金稼いでいる奴を見ると条件反射的に叩きたくなる人って結構いる気がします。経営者はみな金の亡者の悪い奴だ、みたいな。いやいや、僕らが会社に雇われて給料貰えているのは、リスクを取って起業した経営者がいたからなんですけどね。テスラのイーロン・マスク氏とかめちゃくちゃ凄いなって思いますよ。

株主だけじゃなくて従業員やサプライヤー、環境にも配慮すべきなのはその通りだと思います。ただ、利益を上げている株式会社は言われなくても株主以外のステークホルダーの利益に貢献しています。

よく言われる話ですが、株主が受け取る利益は最後の残りカスです。従業員への給料、サプライヤーへの仕入代金、ビルオーナーへの家賃、旅費交通費、広告費用、そして税金、これらすべてのコストを売上高から差し引いた金額が税引き後利益、つまり株主利益です。

株主利益(税引き後利益)が多い企業は、他のステークホルダーを搾取して儲けているのでしょうか。そんなことありませんよね。利益率が高い企業ほど従業員の給料は多い傾向にあります。コンプライアンスもしっかりしています。確かに1円でも多く利益を上げるためにサプライヤーに値下げ圧力をかけることはあるでしょう、少しでも安い給料で社員を雇おうとするでしょう。でもそれはビジネス上の交渉力の問題です。それを搾取だ、けしからん!とか言ってたら、資本主義社会の競争ビジネスは成り立ちません。

特別な配慮が必要なステークホルダーもある

ただ、特別に配慮しなくちゃいけないステークホルダーもあるとは思います。

突然ですが、クイズ出してもいいですか?

以下は、今日の日経にあった資料です。

(日本経済新聞 『資本主義の再定義探る ダボス会議』より抜粋)

資料の右側にステークホルダーとして、
・株主
・社員
・地域社会
・環境
・顧客
・仕入れ先
の6つが挙がっています。

この中で仲間外れが一ついます。
それはどれでしょうか?

どうでしょうか。
わかんなくても、直感でもいいので一つ言ってみてくださいw。

・・・

・・・

ヒント:損益計算書に出てくるか否か

・・・

・・・

答え:環境

環境というステークホルダーは仲間外れだなと思いました。なぜなら、環境だけは損益計算書に出てこないからです。企業がビジネス活動をする中で環境にコストを支払うことはありません。慈善活動は別として。

他はすべて損益計算書に登場します。株主は言わずもがな。社員=人件費、顧客=売上高、仕入先=売上原価。

地域社会=税金です。うちの会社は地方に大きな工場を持っていて、その地域に多額の固定資産税を納めています。そうやって地域社会に貢献しています。たまに固定資産税の金額を問い合わせるために、その地域の役所に電話することがあるんですけど、あまりに丁重な対応にこちらが恐縮してしまいます。

「あ、もしもし、〇〇株式会社経理部のHiroと申します。固定資産税の件でお電話差し上げました。・・・」

「あ、はい!! 〇〇株式会社様ですね。いつも大変お世話になっております。すぐにお調べしてご連絡差し上げますので、・・・」

こんな感じの会話です。文章だと伝わないですが、めちゃくちゃ丁重な言葉遣いで対応されて最初は驚きました。その地方行政にとってうちの会社が納めている固定資産税は超重要な財源みたいです。だから、めちゃくちゃ丁寧な電話対応されます。私みたいな若造にそんな言葉遣いしなくていいのにって思いますけどね。お互い様ですよ。うちはそこに工場建てて生産をさせてもらってるわけですから。

とまあ、こんな感じで税金を通じて企業は地域社会の発展に貢献しています。あと雇用を生むという効果もありますね。

社員、仕入先、地域社会、顧客といったビジネスに組み込まれたステークホルダーは、強制せずとも企業は自らの意思でその利益を保護します。これらのステークホルダーと円滑な関係を築かないと、株主や経営陣が長期的な利益を得られないからです。

でも、環境は違います。企業は放っておくと環境を悪くしてでも、自社の(株主の)利益を追求してしまう恐れがあります。なぜなら、環境を悪くしてもお金はかからないからです。環境汚染は典型的な外部不経済と言われます。外部不経済とは経済活動を行う主体ではない第3者が被る不利益のことです。

株式会社は株主利益だけを考えればよい

温暖化がよく問題視されますね。科学的なことはよくわかりませんが、環境を悪化させないように企業行動を変える必要性はあると思います。環境というステークホルダーは特別な配慮が必要です。ただし、それは企業の自主性、倫理観に任せるのではなく、国際機関や国家が法律などで規制して行うべきというのが私の意見です。

株式会社は株主利益だけを考えて行動すればいいと思うんです。それは決して、自分さえ儲かればいいということを意味するわけではありません。さっきも言いましたが、株主が長期的に儲かるためには、必然的に社員やサプライヤーの利益も考える必要がありますから。

企業が環境に配慮するのも、そこに経済インセンティブがある場合だけでいいと思います。そういう制度を中央が作ることが大切かなと。単なる倫理観だけで「環境を大切にしろ!」と迫るのはどうしても無理があるというか、持続しないと思います。

税金もそうですね。企業としては有能なCFOを雇って、できる限り節税するのは当然のこと。節税して株主利益の最大化を追求すればいいです。脱税はダメだけど。税金をどう取るかは法律の問題ですね。法律というルールを所与として、その範囲内でできる限りキャッシュアウトを少なくするのは、利益を追求する私企業として当たり前の行動です。

何でもカネカネって言いたいわけでもないんですけど、経済インセンティブがない仕組みはどうしても持続しません。自己利益を追求するためには他者利益を追求せざるを得ない、という状況を作り出すことが大切かなと思います。

株主もステークホルダーの一人です。株主だけが悪い意味で特別視される「ステークホルダー資本主義」という言葉はどうも好きになれないです。