ウォールストリートジャーナル紙が「株式アナリスト、今は信用アナリストになれ」という記事を上げていました。コロナ問題で経済縮小が不可避な状況ですが、こういう有事の際は将来の利益見通しよりも前に、バランスシートの健全性を確認せよという内容です。お金を貸す銀行のように企業の信用調査をしなさいというアドバイス。

なるほど、確かに大切な視点。変化の早い時代、優良大企業と言えども倒産は常に隣り合わせです。高収益なビジネスを持っていても債務返済時に資金がなければアウトです(黒字倒産)。

普段はPLばかり見がちな私ですが、こういう時くらい保有銘柄のバランスシートの財務安全性をチェックしてみようと思い立ちました。その内容を共有しようと思い記事を書いております。よかったら参考にしてください。

信用アナリストのように財務安全性を評価するにはどの指標を使うべきか?

分析の視点は色々ありますが、今回は以下の2つを見てみました。

①流動比率
②インタレスト・カバレッジ・レシオ(ICR)

流動比率

流動比率とは?

流動比率=流動資産 / 流動負債で計算されます。

流動資産とは現預金もしくは1年以内に現金化される資産(売掛金、棚卸資産など)です。流動負債とは1年以内に支払期日が到来する負債です。買掛金や、期日到来間近の銀行借入金、社債、従業員への労働債務などが該当します。

流動比率は高い方が安全です。100%以上は欲しいところ。流動比率100%未満とは、例えば今年100万円の住宅ローン返済があるのに貯金が80万円しかない状態です(流動比率80%)。毎月の給与から充当できるので即デフォルトではないですが、安全とは言えませんよね。

テキスト等では流動比率は200%以上が好ましいとよく書かれています。それは参考程度です。流動比率が高いと確かに安全性は高まりますが、「過剰に現金持ちすぎなんじゃないの?」という別のツッコミが入ります。まあ、ここでは安全性分析なので流動比率は高ければ高いほど良いと思って問題ないですが。

保有銘柄の流動比率

保有銘柄(金融除く)の流動比率をまとめました。ソースはMorningstarです。

ティッカー 企業名 流動比率
MO アルトリア 59%
PM フィリップモリス 109%
KO コカ・コーラ 76%
PEP ペプシコ 86%
JNJ J&J 126%
MDT メドトロニック 275%
ABT アボットラボラトリーズ 144%
ABBV アッヴィ 318%
VZ ベライゾンコミュニケーションズ 84%
AAPL アップル 160%
MSFT マイクロソフト 280%
CSCO シスコシステムズ 181%
MCD マクドナルド 98%
UNP ユニオンパシフィック 80%
XOM エクソンモービル 78%

流動比率100%未満の会社もちょくちょくあります。どの企業の強い事業を持っていて営業キャッシュが途切れないという自信の表れでしょうか。アルトリア(MO)に至っては59%しかありません。現在、MOの配当利回りは9.2%にまで上昇しています。長い連続増配歴史を持つ企業ですが、減配リスクはあります。

各社、様々な背景があってバランスシート構成を決めているはずだし、これらの企業のデフォルトリスクはさすがに低いですが、一般論として流動比率100%未満は安全とは言えません。

もっとも数字が大きいのはアッヴィ(ABBV)で300%を超えていますが、これは特殊要因です。アラガン(AGN)買収のために資金を借り入れたばかりです。現預金は流動資産で、借入金はほぼすべてが長期負債なので流動比率は跳ね上がります。ABBVの実質的な流動比率は100%程度と見ています。

全体的に見てハイテク大手が優秀です。アップル160%、マイクロソフト280%、シスコシステムズ181%。いずれも企業も豊富な手元現金を保有しており、コロナショックを問題なく乗り切れるでしょう。医療機器の2社(MDT、ABT)も高いですね。

インタレスト・カバレッジ・レシオ(ICR)

ICRとは?

ICR=営業利益 / 支払利息
で計算されます。

定義は他にもあります。営業利益に受取利息を加えるとか、営業キャッシュフローを使うとか。別にどれを使っても構いません。指標の趣旨は本業の収入が利息支払いの何倍あるかをチェックすることです。

住宅ローン利息が10万円/年で、毎年の貯蓄額(給料-生活費)が100万円ならICRは10倍といった感じ。ICRが高ければ高いほど財務は健全です。一般的には10倍以上が理想と言われます。

保有銘柄のICR

保有銘柄(金融除く)のICRをまとめました。ソースはMorningstarです。

ティッカー 企業名 ICR
MO アルトリア 14.4
PM フィリップモリス 13.4
KO コカ・コーラ 12.4
PEP ペプシコ 9.2
JNJ J&J 18.9
MDT メドトロニック 4.6
ABT アボットラボラトリーズ 7.1
ABBV アッヴィ 5.7
VZ ベライゾンコミュニケーションズ 5.8
AAPL アップル 20.5
MSFT マイクロソフト 20.0
CSCO シスコシステムズ 20.4
MCD マクドナルド 8.2
UNP ユニオンパシフィック 8.4
XOM エクソンモービル 25.2

10倍未満はPEP、MDT、ABT、ABBV、VZ、MCD、UNPの6社。特に低いのがメドトロニック(MDT)。流動比率が優秀だったのとは対照的です。同社は2015年に同業大手のコヴィディエンを買収しており、その際の有利子負債が重荷になっています。

そして、際立つのがやはりハイテク大手の安定感。アップル、マイクロソフト、シスコ3社とも20倍を超えています。エクソンモービル、J&Jも優秀な数字ですね。原油価格暴落で苦しんでいるエクソンは今後数字が下がるかもしれませんが。

まとめ 信用格付けとともに

保有銘柄の流動比率、ICR、そしてS&P信用格付けを載せます。信用格付けは「米国会社四季報 2019年春夏号」からの引用です。以降の変更は反映できていません。

ティッカー 流動比率 ICR 信用格付け
MO 59% 14.4 BBB
PM 109% 13.4 A
KO 76% 12.4 A+
PEP 86% 9.2 A+
JNJ 126% 18.9 AAA
MDT 275% 4.6 A
ABT 144% 7.1 BBB+
ABBV 318% 5.7 A-
VZ 84% 5.8 BBB+
AAPL 160% 20.5 AA+
MSFT 280% 20.0 AAA
CSCO 181% 20.4 AA-
MCD 98% 8.2 BBB+
UNP 80% 8.4 A-
XOM 78% 25.2 AA+

ICRが高いほど信用格付けも高い傾向にあります。ICRは背負っている債務負担と、本業の収益力を比較した数字なので、長期的なバランスシート健全性を見る上で有益な指標です。

流動比率は一時的に現金を多く持てば改善するので、信用格付けではそれほど重視されないと思います。ただし目前の資金繰りの安全性を確かめる上では、むしろこちらの方が重要です。

それにしても、繰り返しですがハイテク大手が強いですね。保有していないので記載してませんが、アルファベット(GOOGL)なんてマイクロソフト以上に財務安全です。まあ、最初にも言いましたが、財務安全=現金持ち過ぎというネガティブ要素もありますが。