株価収益率(PER)16倍より高く株を買う習性のある投資家は長期投資で大きく損することが多い。

ベンジャミン・グレアム『証券分析』1934年初版

株価収益率(PER)20倍より高く株を買う習性のある投資家は長期投資で大きく損することが多い。

ベンジャミン・グレアム『証券分析』1940年再版

グレアムは名著『証券分析』の初版と再版でPERの数字を変更しています。

なぜこんなことをしたのでしょうか?

初版から6年経ってマーケットの環境が変わったため、初版のPER16倍という数字は不適切だと思ったのでしょう。1934年の米国長期金利は3%ほどでしたが、1940年には2%ほどに下がっていました。

その1940年辺りを底に長期金利は一貫して上昇を続け、1980年には一時14%にもなりました。そして、それから2017年現在まで長期金利は一貫して右肩下がりが続いてきました。10月末現在の長期金利(米国10年物国債)は2.4%です。でもここ1年、長期金利は上昇してきましたね。果たして、債券の上場相場は40年かけてようやく終わりを告げたのでしょうか。これから債券価格は下落(債券利回りは上昇)していくのでしょうか。私には将来のマーケットを予測することはできませんが。

今もしグレアムが存命で『証券分析』を改訂するとしたら、PERは何倍と設定するのでしょうか?気になるところです。

気にはなるのですが、、、グレアム氏に逆らうなんて畏れ多いのですが、長期金利がどれ位の水準であろうと「PER〇〇倍以上は割高である」と断定するのは無理みたいです。

 

 

PERは長期金利と比較して相対的に見ないとバリュエーション判断を誤る恐れがあります。PER20倍を超えていれば割高、PER16倍以下なら割安とか絶対的に判断できるものではありません。常に相対評価が必要です。株と債券は競合しています。

ただ、仮に長期金利と比較したとしてもPERだけで割高割安を判断することはできません。

PERの逆数は株式益回りであり株式の収益性を示します。PERが20倍なら益回りは5%(1/20×100%)です。PERが15倍なら益回りは6.7%(1/15×100)です。しかし、歴史を振り返るとPERが株式の収益性を示さないことは何度もありました。例えば1990年代後半、PERは20倍を超えていましたが株価はグングン上昇を続けました(その後ITバブルが崩壊しましたが)。

PER単独では株式バリュエーションを判断することはできません。でもPERは参考にはなります。PERを完全に無視する必要はないです。

きちんとPERや配当利回りなどの指標を確認することは大切なことです。今は、誰でもネットを使って無料でヤフーファイナンスなどで個別銘柄やETFのPER・配当利回りを簡単に確認できます。簡単に確認できるからこそ、PERをチェックしたくらいでマーケットを出し抜ける可能性はゼロです。

ですが、簡単に数分で確認できるんだから最低限のバリュエーションは確認したうえで、慎重に投資するという謙虚さは大切だと思います。

PERは必ずしも株価の妥当性を測れるものではありませんが、明らかな異常値をスクリーニングすることはできます。

1972年、ニフティフィフティと称されて機関投資家に愛されていた銘柄群があります。GEやコカ・コーラ、フィリップモリスなどです。当時、コカ・コーラのPERは46倍、ジョンソン&ジョンソンのPERは57倍でした。ここまでPERが高ければ、さすがに割高かもしれないと危機感を持つことができるのはないでしょうか。

当時は個人投資家が個別銘柄のデータを収集するのは大変なことだったでしょう。PERや配当利回りのデータをタイムリーに集めて投資判断を下すのは難しいことだったのかもしれません。そういう事情も、ニフティフィフティの熱狂を生んだ一因だったのかもしれませんね。

現代は、スマホでポチポチっとするだけでPERもPBRも配当利回りも確認できます。PERなんて意味ない数字だと馬鹿にすることなく、きちんと確認しましょう。

ただし、PERは長期金利と比較しないと意味はないし、きちんと長期金利と比較して利用したとしても、必ずしも株式のバリュエーションを示すわけではないという点は覚えておきましょう。