「給料なんでこんなに安いんだよ。手取り下がってばっかしだし、やってらんねーよ。」って思うかもしれません。私もよく思います。特に控除額のあまりの多さにはげんなりします。

しかし、雇う側からしたら人件費の負担は大変です。ビジネス規模が小さい零細企業ほど給料を払うのは大変です。私は自分でビジネスを立ち上げて、人を雇った経験はありません。自分の経験として人を雇い続けることの大変さを知っているわけではありません。でも、本で勉強した給料の決定理論を考えると、小規模の事業主が給料を支払い続けることの大変さはよくわかります。

その本とは20代の頃に読んだマルクスの『資本論』(の解説書)です。とても勉強になりました。『資本論』は給料を労働力の再生産費用と定義します。つまり、従業員が明日も元気に出社できるだけの衣食住の費用です。

私はマルクスの解釈を少し加工して、以下のように給料を定義して考えています。

衣食住だけでなくストレス発散の為の娯楽もちょっとは必要です。あと、高スキルを持つ希少な人材には+αの給料が必要でしょう。シリコンバレーのIT企業に雇われるエンジニアは「スキル」による上乗せが大きい人たちです。

この給料決定の仕組みを考えると、ビジネスが小規模な時は安易に人を雇わない方がいいことが分かります。なぜなら、給料には下方硬直性があるからです。

ビジネス規模が小さくてまだ儲けが小さいからって、給料を著しく低く設定することはできません。それは最低時給を定める法律があるから、安月給では人が集まらないからってのもありますが、そもそも給料の構成を考えれば最低でも「標準生活費」相当は支払う必要があるからです。それを払わないと、従業員がまともな生活を送れず仕事を続けることができなくなります。労働力を回復させることができません。

つまり、サラリーマンの給料には「標準生活費」という下限があるということです。これを下回ることは原理的に不可能です。「標準生活費」を下回る給料しか払わないと、従業員を働かすことができなくなるからです。都内で月給5万円だと1カ月生活するのは普通は無理です。その給料は「標準生活費」以下です。従業員は体力を回復させることすらできないので、実家に帰るなどして職場を去っていくでしょう。これは事業主(資本家)としても問題です。

働く側からしたら、どんな企業に勤めようとも最低限の給料は保証されているということになります。大学新卒だとだいたい月給20万円とかでしょうか。最近の相場は知りませんけど。

雇う側からしたら、たとえ自分のビジネスがローマージンだとしても、人を雇用するには最低でも月20万円程度は払う必要があるということです。しかも日本では簡単に解雇はできない。スモールビジネスでは人の採用はかなり慎重にやらないと怖いですね。

別の角度から考えると、効率的なビジネスを持つ高収益企業にとっては人件費はさほど重くないと言えます。なぜなら、どれだけ会社が儲かろうとも給料の基礎は「標準生活費」だからです。グーグルのエンジニアの年収が1億円とはなりません(そういう社員も一部いるかもしれませんが)。ストレス発散や高スキルに対して追加の報酬を支払う必要はあるものの、あくまでも基本は「標準生活費」です。給料は下方硬直性だけでなく、上方硬直性もあるということです。

仕事はお金だけを求めてやるものではありません。が、あくまで経済性だけを考えれば、学費が高い超一流の大学院を出てシリコンバレーでの激務に耐えて高給をもらうことはそんなに美味しいことでもないと思います。生活費を抑え、過度なストレスをうまく回避し、お金を戦略的に余らせて、そのお金でシリコンバレーのIT企業の株主になった方が合理的かつ現実的です。