今のインフレはどちらかと言うと「悪いインフレ」

ヒトはなぜか分類区別したがる習性があると、最近とある人気歌手が歌っていましたが、分類区別すると理解しやすくなるからヒトは分類したがるのではないでしょうか。

概念を言語化するって高度な知的作業です。

さて、インフレには「良いインフレ」と「悪いインフレ」の2種類があるという話を聞いたことがあるでしょうか。

前者は需要が拡大することによる物価上昇(ディマンドプル・インフレ)で、後者は供給がひっ迫することによる物価上昇(コストプッシュ・インフレ)です。

任天堂スイッチのゲームが好きなのですが、最近コントローラが壊れてしまいやれてません。ビックカメラ、ヤマダ電機、任天堂公式オンラインストア、どこを見ても品切れ状態です。

アマゾンで検索すると売られているのですが、なんと定価の約1.5倍の値が付いています。コントローラ1個に1万円以上を払うのは抵抗があります。。

これはスイッチ人気によるディマンドプルインフレなのか、それとも半導体不足によるコストプッシュインフレと言えるのか?

両方だと思いますが、どちらかと言うと供給不足に起因する面が強いかなと思っています。生産状況のこと詳しくは知らないので何とも言えませんが。

アメリカでは前年同期比でエネルギーや食品を含めて前年比で8%を超えるインフレ率になっています。

これもどちらかと言うと「悪いインフレ」だと思います。

財政刺激策によって現金が増えて需要が高まったという面もありますが、コロナによるサプライチェーン断絶、人員不足による工場稼働率の低下、半導体不足、ロシア・ウクライナ戦争による資源価格高騰。

こういったコストプッシュの側面の方が強いと思います。

「悪いインフレ」は株式投資の実質リターンを押し下げる

インフレが債券などの固定利付商品のリターンを押し下げることは論を待たないですが、一般的には株式は中長期ではインフレによってリターンが下がることはないと言われます。

ジェレミー・シーゲル氏の言葉を借りると「株式とは実物資産に対する請求権」であって、実物資産の価格が上がれば、株主の名目リターンもその分上がるというのがその根拠です。

インフレ2%、名目リターン7%、実質5%
インフレ4%、名目リターン9%、実質5%

こんな感じでインフレ率が上がった分、名目リターンが押し上げられて、実質リターンは変化しないということです。税金の話を入れると結果は変わってきますが、そこは割愛します。

しかし、株式がインフレに負けないのは「良いインフレ」の時に限られます。「悪いインフレ」の場合はインフレ率ほど名目リターンは改善せず、株式の実質リターンは悪化します。

供給に問題が生じて起きたインフレは株式にマイナスの影響を与える。1970年代のインフレはまさにそんな時代だった。アメリカ産業の生産性は落ち込み、1974年末までにダウ工業株価指数は実質で1966年1月高値から65%も値下がりした。これは1929年以来で最大の暴落だった。

『シーゲル博士の株式長期投資のすすめ』より抜粋

今の「悪いインフレ」が今後も続けば、それは株式投資家に大きな痛手となる可能性が高いと覚悟しています。

この10年以上、途中調整を挟みながらも特に米株は大きく上がってきました。それがこれからも続くと期待して、下落局面では押し目買いを入れたくなる気持ちになりがちです。

そのリスクテイクが成功するかどうかはひとえに今後のインフレ次第だと思います。

「悪いインフレ」は収まる可能性の方が高いというのが持論

1970年代を生きてないので当時の経済環境はわかりかねますが、今と違うのは間違いありません。

私は、インフレは数年以内には落ち着き始めて、2030年頃にはコロナ前の状態に戻り、金利も今の10年債利回りが示唆している程度の水準に落ち着くと考えています。いやもっと下がるかも(素人予想ですが)。

まず米長期債利回りのそこまで上がっていないことが一つの論拠です。もちろん債券投資家だって間違うことはありますが、マーケットの総意はバカにできるものではありません。

あと、現代社会の生産性向上のスピードは想像を超えるものがあると感じるからです。ここが50年前ともっとも異なる点です。

10年後がどんな世の中になっているか想像できますか?

20年後はどうでしょうか?

10年20年もの時間があれば世の中が今と様変わりしていることは容易に想像できると思いませんか。

ガソリン車はほぼ消えてEVだらけになっているでしょうか。高速道路では完全に手を放して居眠り運転をしても交通違反にならないかもしれません。空飛ぶタクシーはさすがに厳しいかな。スマホに変わるデバイスは生まれているでしょうか。メタバース上で仕事をする未来が到来してザッカーバーグはイーロンマスクよりもお金持ちになっているかもしれません。

具体的にはわかりませんが、とにかくテクノロジーが何か社会を変えることは確実でしょう。

これって凄いことです。10年20年って1世代にも満たない時間です。人類や宇宙の歴史を考えるとほんの一瞬と言えるタームで世の中がガラッと変わる。幸か不幸か私たちはそんな時代を生きています。

ちょっと話が逸れますが、こんな時代だからこそ、生き焦ってしまうと思うんですよね。時間の価値がとてもつもなく高くなる(そう感じる)。そして、仕事でも何でも成長成長と上向きの変化を求められる。

50年前と変わらず農作業をし、50年後も今と変わらず農作業をしているだろうと合理的に期待できる世の中であったなら、時間はもっとゆったり流れていることでしょう。そもそも時間という概念を考えることすらあまりないかもしれません。成長を求められることもないはずです。

別にそんな牧歌的な環境が良いと言いたいわけでは決してなく、現代はとにかく変化のスピードが早いよね、というよく言われることを改めて言いたかっただけです。

最近タクシーを使うことがちょくちょくあるんですが、どの車両に乗っても当たり前のようにスマホで決済できます。10年前では考えられなかったです。決済周りはホントにこの10年で進化した分野ですよね。

マンションのエントランスなどで顔認証システムやスマホのロック解除とかも徐々に普及し出してて、こんなの10年前は遠い未来の話として語られていた気がしますよ。あっという間に実生活に「未来テクノロジー」が入ってきました。

1970年代の高インフレは生産性の低迷が原因の一つでした。2020年代も同じく生産性が落ち込んでしまうのでしょうか。

特にサプライチェーンの国内回帰の流れは生産性低下の大きな要素だと感じており、株主として警戒しているところです。

しかし、生産プロセスの更なる自動化などテクノロジーの進化はそれらを打ち消して余りあるのではないかと、どうしても期待してしまう自分がいます。

自分がテクノロジーを生み出すわけではないので他力本願ではありますが。てか株式投資自体が他力本願ですが。