10月4日、飲料・スナック菓子大手のペプシコ(PEP)が2017年度第3四半期決算を発表しました。

結果はまちまちで良くはなかったです。売上高は162.4億ドルでアナリスト予想の163.5億ドルを下回りました。

この売上高減少をもたらした主要因が北米飲料事業の低迷です。北米飲料事業は、前年同期比で売上高が▲3%、利益が▲10%という悪い結果でした。

この結果について、ヒュー・ジョンストンCFOはWSJでこう語っていました。

われわれはちょっと先走りすぎた。

健康向け商品への転換をあまりに早く進め過ぎたことが、北米事業悪化の主因だと分析しているようです。

ミレニアム世代を中心に米国でも健康志向が高まっており、その需要に合わせる形でペプシコもより健康的な商品の品揃えを豊富にするようリソースを割いてきました。しかし、甘い炭酸飲料やスナック菓子の需要はまだ想定以上に大きかったようです。

これら嗜好品の需要が消えることはないと思います。

ペプシコは今後、炭酸飲料の「ペプシ」や「マウンテンデュー」のマーケティングを以前より重視していく方針です。

 

 

ペプシコの決算内容を説明することがこの記事の主旨ではありません。決算発表前のペプシコの株価推移が興味深いな~という話です。

マーケットは今回のペプシコの北米飲料事業悪化を先読みしていたのでは!?と思わされます。

直近3か月のPEPの株価推移です。

8月半ばをピークに決算発表があった10月4日まで、ズルズルと株価は下落していました。

4日に発表した決算の内容は決して良いものはありませんでしたが、マーケットは「これくらい想定内だぜ~」といった感じで特に反応せず、むしろ決算発表後から株価は持ち直しています。

考え過ぎかもしれませんが、マーケットはペプシコの第3四半期決算が良くない結果になることを予見していたのかもなって思うのです。

 

 

 

私はとある上場メーカーの本社経理で働いています。決算短信や有価証券報告書を作成して、投資家の皆様に決算情報を開示することが主な役割です。

決算発表日前の1カ月間は自社の株式売買の一切が禁止されます。経理部員は自社の業績が良いか悪いか知っており、外部投資家は知り得ないインサイダー情報をたくさん持っています。

大半の経理部員は、決算発表翌日に自社の株価が上がるか下がるか大体予想できますよ。そりゃ決算情報を持っているのですから当然です。でもだからって、その情報を材料に株を買うことはインサイダー取引で犯罪です。

インサイダー取引は「5年以下の懲役もしくは500万円以下の罰則」でかつ、インサイダー取引で得た財産はすべて没収です。

決算期間中はビルのエレベーター内や会社近くの居酒屋での会話にも気を使います。エレベーターの中でふと同僚に「いや~、今期は年末に予想以上に売上が伸びたなよな。冬のボーナスは上がりそうだな!ガハハハッ!!!」なんて喋っていては経理部失格です。

エレベーターの中でこの会話を偶然聞いていた別会社のAさんが、「むむむ、同じオフィスの〇〇会社の業績は好調なのか。株価は上がりそうだな。しめしめ、よし今の内に株を仕込んでおこう。」と思うかもしれません。

Aさんは悪意を持ってインサイダー情報を受け取ったわけではありません。でも、仮にAさんがエレベーター内で聞いた未公開の決算情報を材料に株を売買してしまえばインサイダー取引に該当します。

Aさんは犯罪者になってしまうかもしれません。Aさんを犯罪者にしたのは、エレベーターの中でペチャクチャ決算情報を喋っていた経理部員とも言えます。Aさんには酷かもしれませんが、法律は厳しいです。うっかり取引でも罪に問われる可能性があります。

だから、決算情報を事前に知っている私たち経理部員は、会社外部で仕事の話をする時はかなり気を使います。というか、会社の外で決算内容の会話は一切しません。これは上場企業経理部や監査法人では常識です。

監査法人に入社した時の研修で、「絶対に監査情報やクライアントの決算情報に関する世間話はしないように!!」と叩き込まれました。

証券市場の公正さを守るべき会計士が、証券市場の信頼を損なうようなことをやってしまってはオシマイです。

決算情報を外部に漏らすなんてあり得ません。その辺の情報管理は徹底しています。

 

なんですがね。
決算発表前に決算情報を外部に漏らすなんてことはあり得ないのですがね・・。

実は、いつも不思議に思うことがあるんです。。

それはね、決算発表の1~2週間くらい前になると急に自社の株価がソワソワし出すことです。普段は大人しい株価の値動きが急に活発になります。

で、その株価の動きはとても興味深いものなんです。

決算内容が好調だと株価は上昇することが多いですし、逆に決算内容が不調だと株価は下落することが多いです。まだ決算発表前だと言うのに・・。

まるでマーケットはすでにうちの会社の決算内容を知っているんじゃないか、と思わされるような株価の動きを頻繁に目にします。

もうこれはね、今まで何度も何度もありました。最近は、別に驚かなくなりました。

 

 

 

マーケットは効率的と言われます。

ちょっとお勉強っぽくなって恐縮なんですが、どれくらいマーケットが効率的と考えるのかで3つの説があります。

ウィーク型 株価には過去の情報のみ織り込まれている。
セミストロング型 株価には過去の株価情報だけではなく、売上や財務状況といったすべての公開情報が織り込まれている。
ストロング型 誰も知らない新しい情報すらも株価は織り込んでいる

平たく言うと、こうなります。

ウィーク型 マーケットはまあまあ効率的
セミストロング型 マーケットはかなり効率的
ストロング型 マーケットは完全に効率的

効率化の度合いで言うと、
ウィーク型 < セミストロング型 < ストロング型 となります。

どの説が正しいという答えはないです。ないのですが、ストロング型は否定されます。いや、否定せざるを得ないです。なぜなら、ストロング型が成立するということは、インサイダー取引を認めていることになるからです。

公開されていない経理部員くらいしか知らない情報までもが株価に織り込まれているとしたら、その国の証券市場は信用なりません。マーケットはストロング型ではない、、と信じています。

中間を取ってセミストロング型と考えるのが一般的でしょうか。マーケットは合理的なので、公開されている決算情報くらいはすべて株価に織り込まれているという考えです。

これは納得ですよね。決算発表や臨時の経営報告、ガイダンス変更を出すと株価はすぐに反応しますよね。

先日、AT&Tがハリケーンと厳しい競争環境の影響から第3四半期にテレビサービス契約者数が9万人の純減になったと発表しました。するとすぐさまマーケットは反応し、AT&T株価は6%以上も急落しました。

AT&Tが情報を公開してから株価が下落していることからも、米国マーケットはセミストロングに効率的だと言えそうです。ストロングではありません。

 

しかし。

私の短い会計士としての経験から申し上げると、市場はセミストロングとストロングの間くらいに効率的だと感じます。

透明性の高い情報開示と公正な証券市場は資本主義社会の土台です。インサイダー取引は決してあってはならないことです。でもね~、どこからか知らないけど非公開の情報が薄っすらと漏れているように感じることが、今まで何度もありました。

 

最近はヘッジファンドの取引も高度化しているので、その影響もあるかもしれません。昔WSJで読んだのですが、最近の資金力のあるヘッジファンドは自分達で衛星を飛ばしているそうです。

衛星を飛ばすことで、原油在庫がどれくらい残っているかわかることもあるそうです。あとは、小売り企業の駐車場がどれくらい埋まっているかを見ることで、その小売り企業が繁盛しているかどうかを推測することもできるそうです。

凄いですよね。高度なテクノロジーを駆使した情報収集が可能になることで、昔は株価に織り込まれていなかった情報まで現代の株価には織り込まれている可能性があります。

こうなるともはやインサイダー情報ではありません。自分で調査コストをかけて収集した情報から推測しているだけですから、悪いことをしているわけじゃありません。

さっき、マーケットはセミストロングとストロングの間くらい効率的だと思うと言いましたが、正確にはセミストロングの質が上がっているのかもしれません。

セミストロングに効率的な市場では、公開情報はすべて株価に織り込まれています。

公開情報とは何なのか?

衛星から見える原油在庫やスーパーマーケットの駐車場の様子も公開情報には違いありません。テクノロジーの進化に伴って、株価に織り込まれる公開情報の範囲が広がっているように思います。

大事なことは、そういった「公開情報」をすべて把握できるのは資金力と人材力のある投資銀行やヘッジファンドだけだということです。

私たち個人投資家はせいぜい会社が公表する決算情報を確認できる程度です。

 

個人投資家がマーケットの動きを先読みするってほぼ不可能だと思いますね。偶然当たることはあるでしょうけど。

暴落直前に株を買ってしまったからって、その人が投資下手というわけではありません。逆に、急騰直前にうまく株を仕込めたからって、その人が投資上手というわけではありません。単なる運でしょう。

バリュー株投資は短期的にはなかなか利が乗らないものです。マーケットのお祭りに気を紛らわされることなく、根気強く株を持ち続けることが大切です。

ビジネスが成果を上げるのにはある程度の時間が必要なものです。株式とはビジネスそのものです。