最適資本構成とは(MM理論、修正MM理論)

ファイナンスの勉強をかじると最適資本構成という論点を知ります。

バランスシートの右側つまり負債と純資産をどう構成することが、企業価値をもっとも向上させるのかに関する理論です。公認会計士試験にも経営学で出てきます。こういう勉強は個人的にかなり楽しかったです。


BS右側の負債と純資産の割合をどうするかという論点。

MM理論(モリジアニ・ミラー理論)というものがあります。

これは法人税が存在せず、諸取引の手数料もないという完全市場においては、負債と純資産の構成は企業価値に影響を与えないというものです。

負債10、純資産90
負債100、純資産0
負債50、純資産50
どれであっても株主価値にはニュートラルと言うんです。

つまり、企業は利益を負債返済に充てても、配当や自社株買いに充てても、はたまた内部留保しようとも株主利益にはニュートラルということになります。

もちろん、こんな理論は現実には当てはまりません。なぜなら、現実は完全市場ではないからです。法人税は存在するし、増資や債券発行には手数料がかかります。

そこで修正MM理論なるものが出てきます。

負債を増やせば法人税が減るので(支払利息が費用になって所得を減らすため)、純資産よりも負債を増やした方が節税効果のぶん企業価値は上昇する。ただし、負債を増やせば倒産リスクが高まるので、そのリスクとバランスをとる必要がある

修正MM理論とはこんな感じだったと記憶しています。

節税効果に加えて、昨今は低金利が続いていることも、負債による資金調達を後押ししています。

アップルやマイクロソフトなど優良企業は積極的に借金をしていますが、何の計画もなしに借入をしているわけではありません。

負債コストと株主資本コストの格差
資金繰り
格付けマネジメント
今後のビジネスの見通し
今後の金利見通し

これら様々な要素を経験豊富なCFOが考え抜いて、自社の最適資本構成を決めているはずです。

いくつか実際に負債:純資産の比率を見てみたいと思います。直近決算より。
マイクロソフト→57:43
J&J→64:36
コカ・コーラ→77:23
P&G→61:39
ウォルマート→67:33
ナイキ→66:34

似通っていますね。負債の割合は60%~70%台の企業が多いです。負債に頼りすぎに見えるかもしれませんが、先に言った通り負債は節税効果がありますし、何より今は金利が低いです。

倒産リスクの上昇を受け入れても、これくらいの資本構成が心地よいというのがグローバル企業CFOの判断のようです。

家計のバランスシートでも最適資本構成を追求したい

さて、最適資本構成に関する理論はコーポレート・ファイナンスの領域です。コーポレートつまり企業運営に関する話。個人の家計の話ではありません。

しかし、企業にとって経済合理的な行動は家計にとっても同じく合理的であることが多いです。

家計は企業と違って利益を追求し、株式価値の最大化を目的に存在しているわけではありません。敢えてその存在目的を言うなら、家族構成員の幸福最大化と言えるでしょうか。

経済利益の最大化=家族の幸福最大化とは必ずしも言えません。

が、お金も大事であることは言うまでもないこと。ある程度は経済性も追求しないといけません。

ここまで考える人は稀だと承知はしていますが、コーポレートファイナンスかぶれの私は家計でも最適資本構成を目指したいという変な欲求があります。

以下は、直近7月末の私のバランスシートです。

私は自分のバランスシートを見て、美しくないと感じます。

なぜなら、純資産が多すぎるからです。繰延税金負債を除けば借金は50万円ほど。総資産4282万円に占める割合は1%しかありません。自己資本比率が高すぎるとも言えます。

よく言えば安全。悪く言えばリスクを取ってなさすぎ。

山崎元さんは「サラリーマンは自分が思っている以上に金融でリスクを取れるものだ」と書籍で仰っています。

資産側に目をやると貯金や債券での運用はほどほどでよく、特に若いうちには株式に多く配分して問題ないということ。一方で、負債純資産側に目をやると、いくらか負債でレバレッジをかけても問題ないということ。そう解釈しています。

今時35年ローンを組むのはリスキーだからやめた方がいいと言われることがあります。

しかし、人的資本の現在価値が2億円ほどあるならば、低利でたとえば3千万円ほど借入で資金を調達するのは必ずしも悪手とは思いません。資産価値がない物件を買ってしまうという資産側(BSの左側)に問題はあっても、調達側(BSの右側)は優秀だと思うことは多々あります。

住宅ローンを組んでいる人は羨ましいなあと思います。この低金利環境を最大限利用できているわけなので。

私は今のところ家を買う予定はないので、住宅ローンは組めません。証券担保ローンは検討中。

家計にとっての最適資本構成、負債:純資産の割合ってどれくらいなんでしょうか?

もちろん、絶対の答えはありません。保有する金融資産、仕事の安定度(人的資本のリスクの程度)は人それぞれだからです。

ただ、コカ・コーラやマイクロソフトなど大手米国企業のように負債の割合60~70%というのを家計でやるのはちょっとやり過ぎかなという印象を持っています。

特に株式を保有している家計は、株式そのものに負債が内包されているという点を考慮した方がいいと思います。

株式とは企業の所有権なわけですが、企業はいくらか借金で資本を調達しているわけなので、株主も間接的に借金していると言えます。

最大でも負債:純資産=50:50かな。これ以上負債の割合を増やすのはややリスクの取り過ぎかなと感じます。

一方で、今の私のBSのように負債の割合が10%にも満たないのは、安全側に振りすぎだとも思います。

株価が上がって資産が増えるのは嬉しいけど、ドンドン負債比率は下がっていき理想のバランスシートからかけ離れていきます。

もうちょっとバランスシートを美しくしたい。そんな願望をここ数年ずっと抱いています。