「金利に敏感な業種」が減ったことが低金利の一因

今日のウォールストリートジャーナルに面白い資料があったので紹介させてください。

(ウォールストリートジャーナルより)

FRBの金融政策が経済に及ぼせるパワーが衰えている理由の一つとして、「金利に敏感な業種」が減っていることがあるという主張です。「金利に敏感な業種」が減っているから、FRBがいくら利下げしても資本調達は伸びず、結果として投資も増えず、経済成長率は緩慢になっているということです。

「金利に敏感な業種」とは要するに事業の維持・拡大に金が必要なビジネスということです。製造業や装置産業などです。たとえば、私が勤務する某国内メーカーはここ数年で新工場を複数建設しましたが、それにあたって社債を発行して資金を調達しました。お金がないと工場を建設することはできません。

うちみたいに、借金しないと事業を拡大できないビジネスが相対的に減ってきています。金が金を生むのは過去のビジネスモデルです。では現代は何が金が生むのかと言えば、それは人間の頭脳です。優秀な研究者やエンジニアの頭脳の中に現代の工場があります。

その「工場」は建設に多額の資本を必要としません。工場一つ建設するには300億円かかるかもしれませんが、優秀なエンジニアを10人雇うのは3億円くらいあれば十分ではないでしょうか。

ハイテク産業だけでなく、金融や教育といったサービス業も資本投資が少ない業種です。このように「金利に敏感な業種」が減っていることが低金利の一因だと、ウォールストリートジャーナルは分析しています。私もそう思います。

資本はあまり使わずに事業活動を行えるということです。

人間の労働力がドンドン不要になっている

ここで、資本を使うとはどういうことか考えてみたいです。

資本投資の本質とは何でしょうか?

それは他人の労働力を買うことです。

企業は内部に労働力を確保しています。資本家は給料を支払うことで、従業員の時間を拘束してその労働力を利用します。しかし、その内部労働力だけでは不十分なことが往々にしてあります。

たとえば、先ほど例に挙げた生産工場を建設する時です。工場建設を内部の従業員だけで行うことは先ず不可能です。工数どうこうの前にノウハウがありません。竹中工務店や鹿島建設などのゼネコンに発注してお願いするしかありません。つまり外部の労働力を買うということです。

資本投資=外部労働力の利用
です。

外部労働力に頼らないと継続できないビジネスモデルは「金利に敏感な業種」と言えます。労働力を買うには金が必要です。金利が上がって借金ができないと、外部労働力を買うことができなくなります。

一方で、内部労働力だけでビジネスを回せると、わざわざ借金して資本を調達する必要がありません。経営陣と優秀な従業員にきちんと能力に相応しい給与を毎月支払っていれば、彼ら彼女らの頭脳がドンドンとビジネスを成長させてくれます。もちろん、M&Aなど外部リソースに頼る機会もあるので資本投資が全く不要になることはありませんが、相対的に減っているのは間違いないでしょう。

内部の労働力を投入するだけでビジネスに大きくレバレッジを掛けることができるようになりました。そこにはインターネットの発達が大きく貢献しています。

ブログやアフィリエイトで月100万円くらい稼いでいる人がいます(私じゃないですよ)。自分一人の労働力、時間を投入するだけで年1000万円以上稼ぐ仕組みを作ることが可能です。ブログやアフィリエイトも「金利に敏感な業種」ではありません。事業開始、拡大にそれほど金はかかりません。銀行から融資を引く必要もありません。

不動産賃貸業なんかは「金利に敏感な業種」と言えますね。数千万円、数億円のマンション、アパートは自分の労働だけで作れるものじゃありませんから。金を払って外部から調達しないといけません。

一昔前はブログやアフィリエイト、YouTubeなんてビジネスはありませんでした。不動産賃貸はありましたけど。

そういうことです。この個人のブログビジネスの遠い遠い延長線上に、アルファベットやフェイスブックなどがいます。いずれも「金利に敏感な業種」ではありません。

「金利に敏感な業種」が減るということは、(外部)労働力を買う企業が減っているということです。外部労働力どころか内部労働力も不要だと考えている資本家が増えています。もう人間の労働力自体いらないと。その結果、働き方改革や週休3日の議論が湧き上がっているんだと思います。

この流れはもう不可逆だと思います。世の中のビジネスの労働集約度は今後もますます減っていくはずです。リストラではなく労働解放です。最後まで人の労働に依存する職業は医師や保育士などかな。

「金利に敏感な業種」の減少は資本投資ニーズの減少を意味しており、それは人間の労働力の必要性の低下を示唆しています。働かずに食っていける未来は着実に迫っています。我慢していやいや働く必要はなくなりますが、自ら主体的に仕事を探したり創ったりしないと、ただ食って寝るだけの生活になるかもしれません。貧困は減るけど格差は拡大するでしょうね。