貯蓄することは悪か善か。これは立場によって異なります。

私たち個人の問題として考えると、貯蓄は一般的には善です。ある程度の貯金があった方が安心だし、車や家といった将来の大きな買い物への備えにもなります。投資をするには種銭が必須です。

一方でマクロ経済全体にとって貯蓄は悪です。お金は経済の血液。せっせと貯金なんかせずにお金を使って買い物を楽しんでもらった方が景気は良くなります。内閣支持率の下支えにもなります。

一人一人が貯蓄という経済合理的な行動を取ることが経済全体には悪影響を及ぼす。合成の誤謬と呼ばれる事象です。

先日、麻生財務相が10万円の特別給付金の再支給に否定的な発言をされました。どうせみんな貯蓄するだけで、給付金に消費効果はないと以前から言ってました。

本当に給付金に経済効果がないかどうかは定かではないけど、政府はこういう発想しちゃうもんです。1国民としては仮に使わなくても貯金増えてラッキーとなるけど、中央政府としては消費してもらってなんぼなわけです。給付金よりもGoToトラベルの方が好ましいときっと思っているはずです。

金は天下の回りもの。確かにその通りです。

ですが、だからってそれを根拠に個人に消費を迫るのはおかしな話です。「お前らが貯蓄ばっかりしたら経済が回らんじゃろ。だから有り金は全部使え!」なんて言われてお金を使う気になりますか(笑)。

ならないですよね。でも、たまにこういう言説を見かけることがあって、すごい違和感を覚えます。

渋沢栄一は『論語と算盤』の中で「よく集め、よく散ぜよ」と言ってるそうです。「お金を社会に循環させるべき」という意味です。

これは完全にポジショントークと捉えた方がいいです。大蔵省出身の実業家という立場からの発言です。一個人が「社会にお金を循環させなくっちゃ」なんて考える必要ないでしょ。

マクロ経済を考えるのは中央銀行とか政府の仕事です。私たちは好きなように金を使うのみです。欲しいものがあったら金を払って買う。口座残高の数字が増えていくのが快感なら、思う存分貯金すればいい。貯金ばっかりしたら日本経済に悪影響を与えて申し訳ない、なんて一個人が考える必要はないと思います。

少子高齢化、このままでは日本の人口減少に歯止めがかからない。「よし、婚活して子どもを二人生み育てて私も日本の人口減少ストップに貢献しよう!」なんて考える人まずいないですよね。子どもが欲しい人は作る、欲しくない人は作らない、ただそれだけ。

自分と家族が少しでも幸せになれるように日々行動するのは自然なこと。マクロに対する配慮なんて無くてもいいでしょう。

いや、マクロを意識できること自体は素晴らしいと思いますよ。それは豊かになった証とも言えますし。

若い世代を中心にリベラルな思想が広まっているのは(特に米国)、経済が豊かになって日常の衣食住で困ることがほぼなくなったからです。エンタメもインターネットのおかげで安価で楽しめますし。

経済全体、将来の人口動態、環境保護といった自己利益に直接関係ないことに配慮して行動できることは素晴らしいことですね。

ただ一個人が無理する必要はないかなと思います。社会のルールを守るのは大前提として、あとは自分の欲望に沿って行動すればいいんじゃないかなと。

ジェフ・ベゾス、ウォーレン・バフェットといったマクロに影響を与えるくらい個人の財力がある人は、マクロを考えて行動する責務があるとは思いますよ。ノーブレス・オブリージュです。

そういう度を超えた億万長者は別として、私みたいな普通の庶民は自分と家族の幸せを考えるだけで精一杯です。

私はこれからも不要不急の消費はなるべく避け、固定費をなるべく抑えた家計作りを意識し、貯蓄と投資に励みます。

1枚3円の買い物袋をスーパーでほぼ毎日買う生活は変わらないでしょう。それは環境に悪いですかね。すみません、でも毎日エコバッグ持っていくの面倒なので、3円なら買いますわ。10円なら悩みます。100円って言われたらしぶしぶエコバッグを持ち歩きます・・。