私はブログの副題に「シーゲル流米国株投資で億万長者になる」と記載していますし、実際ポートフォリオの大半は米国株、米国ETFです。

なので、必然的にこのブログに訪問される方、日々読んで下さっている方は米国株に興味がある方が多いだろうと思います。

そんな皆さんも、普段の経済ニュースの主な情報源は日経新聞ではないでしょうか?いや最近は新聞は取らずに、ネットのニュースで済ます方も多いかな?

私の主な情報源はウォールストリートジャーナル(WSJ)で、日経新聞も拾い読みしています。

日経を購読はしていませんが通勤途中にコンビニで買います。あと隣の上司からよく貰います(笑)。

WSJを読んでいるのは多分少数派で、やっぱり日経新聞を読んでいる方が最も多いと感じます。

日本経済の情報を仕入れるなら、日経新聞に勝るものはないですよね!

  日米決算発表の違い

日本企業の決算発表

さて、日経新聞の投資財務面には各社の決算発表情報が記載されますよね。日本は3月決算企業が多いので、4月、7月、10月、1月になると特に決算関連記事が増えます。

日経の決算ニュースを見て疑問というか、ちょっと恣意性を感じることありませんか?

どこに恣意性を感じるかというと、利益の種類を色々と使い分けることです。

営業利益、経常利益、当期純利益のどれを使うかで記事の表現は大きく変わります。

営業利益は粗利益から販売管理費を差し引いた利益で、本業の儲けを示しています。

経常利益は営業利益から支払利息等の営業外損益を差し引いた利益で、本業以外も含めた儲けを示しますが臨時多額の特別損益項目は除外されます。

当期純利益は経常利益から、減損損失や訴訟和解金、固定資産売却損益などの臨時異常な事象に伴って発生する特別損益、更には法人税等まで控除した最終利益です。

営業利益では増益でも、減損損失が多額に出て当期純利益は赤字になることだってあり得ます。

そんな時、
「〇〇社、営業利益前年同期比大幅増益!」と報道されるのか、
「〇〇社、最終赤字転落!」と報道されるかで投資家の反応は異なるし、日経の報道の仕方如何によって翌日のマーケットの反応も異なる気がしています。

また日本企業の決算報道の特徴として、市場予想との比較ではなく前年との比較が注目されがちという点も挙げられます。

米国企業の決算発表

米国企業の決算で注目点は、日本企業の決算とは異なります。

先ず、米国企業の決算ではとにかくEPS(一株利益)が重要視されます。

多くの企業がEPSを独自にいじった調整後EPS(詳細は後述)を開示しています。

そして、その調整後EPSの前年比ではなく、アナリスト予想との乖離がどの程度なのかが注目されます。

また、売上高も同じくアナリスト予想と比較されがちです。

例えば、以下はWSJが報じたコカ・コーラの7-9月期決算報道です。

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特別項目を除く1株利益とは調整後EPSのことです。

やはりEPSが最も注目されていますし、アナリスト予想を上回っていることに言及されていますね。

米国でEPSに注目が集まるのは自然なことです。

EPSとは一株当たり利益のことですが、株式会社の目的は株主利益の最大化であり、そのためには一株当たりの利益を最大化する必要があるからです。

当期純利益が過去最高益を達成していたとしても、増資して発行済株式数が増加していたらEPSは逆に減るかもしれません。

当期純利益が減益でも、自社株買いしていたらEPSはむしろ増えるかもしれません。

EPSを重要視するのは、株主を大切にする米国企業の文化を象徴しています。

日本 vs 米国

以上、日米まとめるとこうなります。

注目される指標 注目される比較対象
日本 営業利益、当期純利益などまちまち 前年利益
米国 EPS、調整後EPS アナリスト予想

 

   調整後EPSとは何か?

では、調整後EPSとは何か?

普通のEPSと何か違うのか?

上のコカ・コーラの報道にもありましたが、調整後EPSとは普通のEPSから臨時異常な特別損益を除外したEPSです。

臨時異常な損益とは、工場建物の減損損失や訴訟和解金、M&A関連費用などが挙げられますが明確な定義はありません。会社が独自に決定してよいのです。

つまり非公式な利益指標であり、こういう利益をNon GAAP指標とか非GAAPと表現することがあります。GAAPとはGenerally Accepted Accounting Principlesの略で日本語では「一般に公正妥当と認められた会計原則」と言います。

非GAAPなので公式には認められていない利益指標ということです。

公式に認められていない利益指標なのに、なぜ米国ではこれほどまでに調整後EPSが大々的に報道されるのか?

それは調整後EPSが企業の経常的な一株当たり収益性を測ることができる指標として、株主が重視しているからです。

調整後EPSには臨時異常な損益は除かれているので、調整後EPSが昨年より増えている、ないしアナリスト予想を超えるということは、その企業の本業が稼ぐ一株当たり利益が好調であることを意味します。

普通のEPSは本業以外の臨時異常な損失や利益を含んでいるので、たとえEPS自体が前年から減少していても、調整後EPSさえプラスであればその企業の本業が稼ぐ一株当たりの収益性は健全だと判断できるのです。

でもだからと言って調整後EPSばかり見ていていいわけでもありません。臨時異常な損益を除くと言いますが、いくら臨時異常と言えどもそれが現実に発生したコスト(ないし収益)であることは間違いなく、それは株主の負担になるものです。

だから調整後EPSもEPSもどちらも大事。

ざっくりでいいので、両者の意味の違いを理解しておくと米国企業の決算を読むのが少しは楽しくなるかもしれませんよ!

定義
EPS 一株当たりの税引後利益
調整後EPS 臨時異常な損益を控除した、一株当たりの税引後利益(本業の一株当たり利益)

どちらも大事な指標ですが、投資判断を行う上では調整後EPSをより重視したほうがいいと私は思います。

やはり、本業でどれだけ稼ぐことができているかという点が、今後の事業の将来性を予測する上で重要でしょうから。

  調整後EPSの例

以下は、2016年度9月期決算での主要企業のEPSと調整後EPSです。

ティッカー 会社名 調整後EPS EPS
JNJ ジョンソンエンドジョンソン $1.68 $1.53
IBM IBM $3.29 $2.98
AA アルコア $0.32 $0.33
PFE ファイザー $0.61 $0.21
SLB シュルンベルジェ $0.25 $0.13
MSFT マイクロソフト $0.76 $0.60
CL コルゲート・パルモリーブ $0.73 $0.78
CELG セルジーン $1.58 $0.21
AXP アメリカン・エキスプレス $1.24 $1.14
TSLA テスラモーターズ $0.71 $0.14
KO コカ・コーラ $0.49 $0.24
CAT キャタピラー $0.85 $0.48
PG プロクター&ギャンブル $1.03 $0.96
UTX ユナイテッドテクノロジーズ $1.76 $1.74
DD デュポン $0.34 $0.01
T AT&T $0.74 $0.54
V VISA $0.78 $0.79
MO モンサント $0.07 -$0.04
INTC インテル $0.80 $0.69
UNH ユナイテッド・ヘルス $2.17 $2.03
PEP ペプシコ $1.40 $1.37
GOOG アルファベット $9.06 $7.25
DOW ダウ・ケミカル $0.91 $0.63
MRK メルク $1.07 $0.78

どう感じますか!?

例えば黄色にしたファイザーを見て下さい。

調整後EPSと普通のEPSにかなりの差がありますね。

ファイザーが通常の営業活動のみから獲得した一株当たり利益である調整後EPSは$0.61で、非経常的な損益まで加味したEPSは$0.21です。

その差は$0.40もあります。3倍も違います。

ファイザーの10Qレポートには、この差が何かをきちんと開示されていました。

ファイザーの場合、調整後EPSではEPSから多額の減損損失(Impairment on remeasurement of Hospital Infusion System)を除いていることがわかりました。

  今の私達は日々の積み重ね

調整後EPSについては、米国株投資をしている人は是非知っておいて欲しいと思って書きました。

調整後EPSは米国企業の決算報道には必ず出てくるので、是非注目してみて下さい。

調整後EPSが好調だったら、「私が投資している企業の本業は順調なんだな!よしよし!」って思っていいわけです。

この知識を得て投資パフォーマンスが上がるかと言われればNOでしょうね(笑)。

でも、調整後EPSの意味を知っていれ米国企業の決算ニュースが少し読みやすくなると思いますよ!

こうやって、少しずつ知識を増やしていくことでニュースがだんだん理解できるようになって、楽しくなってまたこれも勉強してみようかな!って相乗効果もあるんだと思います。

長期株式投資の神髄は複利ベースの資産増殖ですが、私たちの知識も複利ベースで増やせるものだと思います。

会社の上司にこんなことを言われたことがあります。

「高い目標を持つことは素晴らしいことだ。でも、朝寝て起きたらスーパーマンになっていることはないぞ。」

そりゃそうだ!

一流の経理マンになる、どんな会社のCFOをこなせるトップ財務マンになる、あらゆる医師のニーズを汲み取れる一流MRになる、一流の学者になる、日本のウォーレン・バフェットになってやる!とか高い目標を掲げることは大事なことかもしれませんが、行動しなければ何も変わらない。

結局、日々コツコツ努力するしかなく、その小さな努力の積み重ねがいつか花開くかもしれないし、開かないかもしれない。一つ言えことは、人生の成功者は皆努力している勉強しているということであり、努力は成功の十分条件ではないけど必要条件ではあるということです。

投資家としても、日々何気なく日経読んだり、WSJ読んだり、売買して失敗したり(私の東南アジア株投資等)といった経験を通じて日々一歩一歩成長していくしかありません。

ということで、今回取り上げた調整後EPSという言葉とその意味を是非皆様の知識一覧に加えて頂ければ嬉しいです。

日本企業もIFRS適用がかなり広まってきましたし非GAAP利益を開示している日本企業も実際にあります。(JTや武田薬品工業など)

これは私の勝手な予想ですが、10年後日経新聞の投資財務面に調整後EPSが当たり前のように載っている時代が来ると思っています。

そういう意味でも、調整後EPS(非GAAP利益という概念)は覚えておいて損はありませんよ。