米国の優良債務超過企業

ダイモンド・オンラインに米大企業の債務超過金額ランキングが掲載されていました。

DIAMOND onlineより)

米国株投資を始めたばかりの頃に、フィリップモリスが債務超過と知ってめっちゃ驚いたことを今でも覚えています。日経新聞で読んだんだっけかな。ブログ記事にもした記憶があります。

ある程度、米国企業の財務データを見ている現在はこの表を見ても驚きはないです。いつもの顔ぶれだなという感じ。ヤム・ブランズは財務諸表を見たことはありませんが、先日読者さんに債務超過だよって教えてもらいました。

ベリサインは名前すら知りませんでしたが、これも読者さんに教えて頂き記事にもした企業です。自社株買いの規模が非常に多いなあとは思ってましたが、バランスシートは債務超過なんですね。

債務超過と聞くと資金繰りがやばくて倒産寸前みたいな印象を抱くかもしれませんが、少なくともこの表にある企業はどれも事業は堅固です(最近、コロナ問題等でボーイングの経営が危ぶまれてますが)。継続的な配当、そして莫大な自社株の買い戻しによって純資産を減らし続けた結果です。資産より負債が多いのは事実だし、財務は健全安全と言えるわけではありませんが。

低金利を利用した自社株買いの増加は、金融政策の限界を示唆している

なぜ、米国企業はこれほど株主還元に積極的なのか。株主利益を第一に考える企業文化が先ずあげられますが、それだけじゃない。マクロ経済環境も多分に影響していると思います。緩和的な金融政策です。リーマンショック以降、FRBは金利を低位安定させ、資産買入れも行ってきました(QE政策)。

こういった金融政策はあくまで銀行の融資姿勢を積極的にする効果があるのみで、実際にマネーが市中に出回るか否かは実需次第です。お金をジャブジャブ供給してもなかなか資金の借り手が見つからず、2010年からの景気回復は緩やかなものになっています。お金の需要が小さいからお金の調達コストたる金利は低いままです。

しかし、金融緩和で凄まじい資金需要が生まれた領域があります。それが自社株買い。企業はここぞとばかりに低金利を利用して借金をして、市場から株式を買い戻してきました。これが債務超過企業が増えた背景の一つと言えます。

4兆ドルの金融緩和と4兆ドルの自社株買いがぴたりと一致している。

バロンズ

金融を緩和してお金の回りをよくして経済を活性化させようとしたものの、それはただ企業の自社株買いに使われただけ。もし、それが事実だとしたら、金融緩和は悪策だったと言わざるを得ません。資本家、株主が富を増やしただけです。彼ら彼女らはちょっと資産の時価が増えたところで、それほど消費を増やすわけではありません。トリクルダウン効果なんで絵に描いた餅です。

社会的に良いか悪いかの議論は置いておくとして、2010年代に株主が金融緩和で受けた恩恵は非常に大きかったと思います。低金利を利用した株式買い戻しがEPS、配当を大きく成長させました。しかも、トランプ法人減税というおまけ付き。株主にとって最高の環境だったと言えるでしょう。

しかし、お金を供給し続ければいずれはバブルが弾けるものでしょうか。近年、社債市場にリスクがあるという意見をよく聞くようになりました。ギリギリ投資適格を維持しているBBB格付けの社債が増えています。

(ウォールストリートジャーナルより)

金利が低いなら、それに合わせて資本構成を変えて株主利益を最大化させるのはCFOとしては当然の判断です。もちろん、見通しが甘すぎて調達コストが上がって株主利益を棄損させたら、それもCFOの責任ですが。

資本家にとってベネフィットでも、社会的に見れば好ましくない自体が進行し続けているんだと思います。つまり、よく言われる貧富の格差です。お金を4兆ドルもジャブジャブ増やしておいて、それがすべて資本家(株主)の財布に流れたら、経済格差は広がるに決まっています。でも、資本家はルールに則って経済合理的な行動をとったまでです。悪いことはしてない。政治家が自社株買いを禁止したくなる気持ちもちょっとわかります。

民間需要が弱い長期停滞が続くのであれば、政府支出つまり財政政策の出番ということになるでしょうか。米国は修繕すべきインフラがたくさんあると聞きますし。でも、どこにどれだけ資金を振り向けるかは政治的な利害対立が大きく、簡単に決めれるとは思えません。

仮にそういう時代が今後訪れるとして、投資家としてどう判断すればいいんだろうか。特に銀行の役割がどう変わっていくのか気になります。銀行株に多額を投資するバフェットは、10年後20年後の世の中をどう見通しているんだろうか。私には将来は見えません。見えないから、結果つまり毎年の決算を見て、後追いで考えるしかないと思っています。

色んな意味で今は転換点にある気がします。なんか投資家として激動の時代を生きている気がしてならないです。優良株でポートフォリオを固めて、意地でもマーケットをサバイブしていく覚悟です。