先日、読者さんから社債利回りを調べれるサイトを教えて頂きました(すうてきさん、ありがとうございます!)。米国債の利回りは普段からウォッチしていますが、個別企業の社債利回りはあまり見たことありません。昔から興味あったので、今回調べてみました。

(ドル建て)社債利回り=米国債利回り+個別企業プレミアム
と解釈することができます。

ドル建て債券でもっとも低リスクなのは米国債です。アメリカ政府が紙幣を刷って返済することが可能で、実質デフォルトリスクがないからです(インフレリスクはあるけど)。一方で企業はどれほど優良企業であっても債務返済に窮する可能性はあります。なので、個別企業の社債利回りには一定のプレミアムが乗っかります。

財務格付けが高い企業ほどプレミアムは小さいと予想されます。逆に財務格付けが悪い企業はプレミアムが大きくなるのが道理。それがどれくらいなのか実際に知りたく、今回調査しました。

保有銘柄を中心に任意の企業を選びました。結果は以下の通り。財務格付け高い順に並べています。

期間10年で揃えたかったのですが、10年満期の社債を発行している企業は限られました。上記の通り、主には2年後に満期が到来する社債のデータを取りました。一部10年、5年もあります。

パッと見てどうでしょうか?

やはりAAA格付けのマイクロソフトとジョンソンエンドジョンソンの社債利回りはめちゃ低いです。2年満期で利回り1.9%と米国債に対するプレミアムは0.1%~0.2%です。債券投資家は両社のデフォルトリスクを実質ゼロと判断しているようです。

続いて、AA格付けの企業としてウォルマート、メルク、コカ・コーラ、シスコシステムズを選びました。マイクロソフトほどじゃないけど、非常に低い金利で資金を調達しています。2年満期債券の米国債に対するプレミアムは、もっとも大きいものでシスコの0.6%です。ウォルマートの10年債利回りは2.7%あります。さすがに米国債10年の1.9%と比べると、そこそこプレミアムが乗ってますね。

シングルAのフィリップモリスとアルトリアの2年債利回りは2.5%でプレミアムは0.8%。当然ですが、格付けが落ちる毎に利回りは上がっていきますね。

投資適格ギリギリのトリプルBの企業としてマクドナルドとクラフトハインツを選びました。期間10年のデータがありました。マクドナルドの10年債利回りは3.8%、クラフトハインツのそれは4.3%あります。さすがにここまで来ると米国債と明らかに差がありますね。プレミアムが2%台に突入します。

最後に投機級のテスラを見てみました。テスラは2025年満期の社債を発行しています。期間5年の米国債と比較しました。テスラの社債利回りは7.9%もあって、米国債に対するプレミアムは6.2%です。高い資本コストを負わないと資金調達できない状態です。

2年債利回りのプレミアムをグラフにしてみました。

棒グラフが高い企業ほど財務リスクがあるということですね。フィリップモリスなんて見た目のBSは債務超過で、ビジネス内容は衰退しているタバコ販売だし、これくらいのプレミアムは要求されるのも無理ないですかね。

マクドナルドってなんでこんなに利回り高いんですかね。S&P格付けもBBBですし。業績好調キャッシュ潤沢で財務安全なイメージがありますが。

マーケットデータは面白い

今回、こうやって社債利回りをお見せしたわけですが、何か特別なメッセージがあるわけじゃありません。この社債に投資妙味がある!というわけでもないし、今の社債市場からリセッション入りのリスクを感じる!というわけでもないです。

ただデータを見たかっただけ。そしてせっかくだからブログで共有したまでです。

ただのデータ、数字と言ってしまえばそれまでなのですが、こういうマーケットデータってすごく興味深いです。なぜなら、マーケットというプロが真剣勝負をする場で値付けられた結果だからです。自分の身銭を切って(ないし他人のお金を預かって)バチバチやり合ってるのが株式市場、債券市場です。

ジョンソンエンドジョンソンの2年債の利回りは1.9%でした。2年米国債の1.7%よりも0.2%高いわけですが、これがマーケットの評価です。ジョンソンエンドジョンソンが破たんする可能性はゼロに近いわけだけど、だからって米国債と同等に評価するのはやり過ぎです。いや、米国債と同じでもいいくらいかも・・。その微妙なさじ加減の結果が0.2%という若干のプレミアムです。

テスラの利回りは約8%あります。100万円投資すれば年8万円の利息を貰えます。この低金利時代に高利回りです。ですが、もちろんそれは高リスクの裏返しです。利回りがさらに上がって評価損を被る可能性もあるし、最悪デフォルトになって紙くずになることも考えられます。テスラ社債が米国債よりハイリスクなのは火を見るよりも明らかですが、それを数字で定量化した結果が+6.2%というプレミアムです。

私は職業柄、数字で示してくれないと信用しないところがあります。コスト削減が進んでいますって工場長がいくら言っても、粗利率が改善してなければ意味ないだろって思います。言葉だけじゃダメ。数字数字。数字で示してくれ。

テスラはリスクが高い。確かにそれはわかるけど、できればそのリスクの程度を数字で示して欲しい。上記のスプレッド(プレミアム)は客観的な数字です。

数字と言ってもすべてを同列には扱えません。データソースによって信頼の程度は異なります。各社がSECに提出しているForm 10-Kの信頼度は高いです。莫大なコストをかけて会計監査を受けているからです。個人ブログにソース不明で載っている数字の信頼は低いです。私のブログ含め(なるべくソースは書いてますが)。

マーケット価格というのはかなり客観性の高い部類に入ります。どんなマーケットかにも依りますけど、ある程度売買高が大きい市場であれば信頼に足ります。投資家が金儲けのために真剣バトルしている場だから、そこでの値付けには信頼が持てます。真剣にリスク評価された上で社債価格は決まっているはずです。

こうやってネットで色んなマーケットデータを無料で見れるのって、ホントに凄いことだと思います。自分から行動すれば大抵のデータは拾えますよね。一昔前は無理だったはず。みんなが見れるが故に、ネットで調べる程度でαの利益を獲得するのは困難だけどね。だけど、まあ単純に楽しいです、マーケットデータを見るのは。表示されている数字の裏にはプロ投資家の専門知が結集しています。