農業革命は人類史上最大の詐欺だった!?

社長からユヴァル・ノア・ハラリ氏の『ホモ・デウス』をおすすめされて興味があったんですが、先ずは前著の『サピエンス全史』を読もうと思い、ここ2週間くらいで上下巻読了しました。

すっごい面白かったです。こういう人類の進化の歴史というか、人間の本質に迫る本って読んでてワクワクします。『ゾウの時間ネズミの時間』や福岡伸一さんの『生物と無生物のあいだ』なんかも好きな本です。

『サピエンス全史』で衝撃を受けた話があります。それは、農業革命は人類史上最大の詐欺だったという話です。

どういうことか簡単に話させて下さい。
ちょっとだけお付き合いください!

ヒト属(ホモ属)人類が台頭しはじめて石器を使い始めたのが今からおよそ250万年前、気の遠くなるような昔の昔のことです。火を使うようになったのは今から30万年前。そして、農業革命が起こり植物の栽培と動物の家畜化が始まったのが、およそ1万2千年前です。

農業革命が起こるまでの200万年以上もの間、人類は食べ物を探し求めならがあちこちを歩き回る狩猟採集生活を送っていました。カエルやウサギを捕えたり、クマやマンモスを狩ったり、クルミやキノコ、果実を摘んだりしていました。カエルなど現代から見ればゲテ物と呼ばれるものもありますが、これらは非常に豊富な栄養素を含んでいました。狩猟採集民は非常に健康かつ幸福な人生を送っていたのでは、と言われています。

ところが、紀元前1万年頃に人類史を大きく変える出来事が起こりました。それが農業革命。動植物を狩猟採集するのではなく、土地を耕して種を蒔き、作物に水をやり始めました。また、羊などの家畜を集団で囲いはじめました。こうすることで、食料となる動植物を豊富に調達することができるようになりました。狩猟採集時代はその場しのぎの生活でしたが、農業によって食料備蓄という発想が必然的に生まれました。

これはまさに革命。汗水たらしながら命の危険を顧みずに獰猛な動物を狩る必要性は減り、仲間と楽しく農作業に打ち込めば今まで以上の食糧を得ることができるのですから。

農業革命が人類の幸福度は大きく向上させたのか!
そう思うかもしれません。

しかし、それは違います。
農業革命は人類史上最大の詐欺だったのです。

確かに採れる食料は増えた。でも、それ以上に人口が増えたのです。いくら総カロリーが増加しても、人口が増えて一人当たりの摂取カロリーが減れば、むしろ飢餓に陥ります。

人口の増加は人類にとって幸せなことなのでしょうか?
いや、そんなことはないでしょう。個人の幸せと社会的な人口数との間に相関関係なんてありません。人口が増えたせいで自分の取り分が減ったなら、むしろ人口増加は不幸の源と言えます。

農業革命は、安楽に暮らせる新しい時代の到来を告げるにはほど遠く、農耕民は狩猟採集民よりも一般に困難で、満足度の低い生活を余儀なくされた。狩猟採集民は、もっと刺激的で多様な時間を送り、飢えや病気の危険が小さかった。

人類は農業革命によって、手に入る食糧の総量をたしかに増やすことはできたが、食糧の増加は、より良い食生活や、より長い余暇には結びつかなかった。むしろ、人口爆発と飽食のエリート層の誕生につながった。

平均的な農耕民は、平均的な狩猟採集民よりも苦労して働いたのに、見返りに得られる食べ物は劣っていた。農業革命は、史上最大の詐欺だったのだ。

『サピエンス全史(上)』

一つの種の進化上の成功は、DNAの複製の数によって測られる。

(中略)

とはいえ、この進化上の算盤勘定など、個々の人間の知ったことではないではないか。正気の人間がなぜわざわざ自分の生活水準を落としてまで、ホモ・サピエンスのゲノムの複製の数を増やそうとするのか?
じつは、誰もそんな取引に合意したわけではなかった。農業革命は罠だったのだ。

『サピエンス全史(上)』

なるほど、面白い。豊かになれると確信して狩りを捨て、農業に打ち込んだわけですが、結果としてそれは判断誤りだった。確かに収穫できる食糧はかつて狩猟採集していた動植物を遥かに上回る量になったけれど、その「増産」では賄いきれないほど人口が増えてしまったのです。

私たちにとって重要なのはGDPなのか、それとも一人当たりGDPなのか。個人の幸福度に影響を与えるのは主に後者でしょう。後者を犠牲にしてまで前者を追求する意味はあるのでしょうか。

なぜ米国株は中国株をアウトパフォームできたのか?

今後50年の世界経済の覇権を握るのは米国かもしくは中国でしょう。関税問題は単なる経済摩擦ではなく、イデオロギー上の問題をはらんでいます。別にどちらが絶対正しいというわけではありませんから、争いは長期化するでしょう。

中国は今世紀10%を超える高い成長を続けてきました。成長が鈍化した昨今でも6%以上のGDP成長率を誇っています。

世界経済のネタ帳より)

一方で、米国の今世紀のGDP成長率は年2%~3%程度です。

このように経済成長率では米国を大きく上回っている中国ですが、株式パフォーマンスを見ると中国株は米国株の足元にも及びません。

ファクトセットによれば、10年前に1万ドルをMSCI中国指数に投資していれば、今頃は1万9600ドル弱になっていたという。一方、同じ額をS&P500種株価指数に投資した場合は3万9700ドル近くにまで増えていたはずだ。

ウォールストリートジャーナルより

なぜ、高い経済成長率にもかかわらず中国株のリターンは米国株よりも劣っているのか?

その秘密は農業革命にあります。つまり、たくさんの富を生み出しても株主数が増えれば、株主一人当たりの取り分は減るということです。逆に、富の成長が緩やかでも株主数が減れば、株主一人当たりの取り分は思いのほか増えるのです。

中国企業はイケイケドンドンで成長する中、新株を積極的に発行しました。新株発行とはつまり新たな株主を迎え入れることを意味します。それは既存株主にとって嬉しいことではありません。2名の友人と一緒に3人で楽しくポテチの大袋食べていたところに、急にもう3人別の友人が遊びに来たらポテチ一袋じゃ足りなくなります。もう一袋買えばいいかもしれませんが、現実はそこまで甘くないです。

一方で、相対的に低成長な米国企業は稼いだ利益でシコシコと自社株買いを続けてきました。自社株買いを実施すると、発行済み株式数が減少して既存株主一人当たりの取り分は増えます。

これはウォールストリートジャーナルに掲載されていたグラフです。

新株発行や自社株買いといった株数の変動が、株式のパフォーマンスにどのような影響を与えてきたかを示しています。面白いですよね。こんな分析あまり見ないので印象に残りました。

中国(赤い線)を見て下さい。2006年からこれまで、中国企業は株数を増やし続けていることがわかります。株数の増加はリターンを10%近く押し下げています。

一方で米国(青い線)を見ると、概ね発行済み株式数は減少傾向にあることがわかります。特に直近5年は顕著で、自社株買いが株式リターンを平均して1%~2%ほど押し上げています。金利低下を利用して有利子負債を調達し、自社株を積極的に買い戻してきた効果です。

自社株買いが米国株のパフォーマンスを押し上げたというよりは、新株発行が中国株のパフォーマンスを押し下げたと言った方が正確ですかね。

一見して成長力のない地味な企業の投資パフォーマンスが高くなる理由は、ここにあります。つまり、安定したキャッシュを原資に積極的に自社株を買い戻せるため、トップラインの成長以上にEPS(一株当たり利益)、DPS(一株当たり配当)が増加するのです。成熟したマーケットを牛耳っている企業ほど新規参入の脅威が小さく、営業キャッシュフローを研究開発やマーケティングに注ぎ込む必要がなく、自社株買いの原資を十分に確保できます(もちろん配当も)。

成長なくして高い株主利益は望めません。資本主義社会では成長を追求してこそ富が得られる。ただここで忘れてはならないことは、成長すべきは「一株当たり」の利益であって、利益の総額ではないということです。EPS(一株当たり利益)の成長が肝要ということ。「EPS=税引き後利益 / 発行済み株式数」ですね。分子の利益に注目が集まりがちですが、分母の株式数も重要な要素です。この株式数をコツコツ削減できる企業(増資なんてご法度)が長期投資では狙い目だと思います。

面白い!! オススメです。

サピエンス全史(上)文明の構造と人類の幸福

サピエンス全史(下)文明の構造と人類の幸福