イタリア国債利回りが急騰しています。

(出典:ウォールストリートジャーナル)

ゼロ%近辺だったイタリア2年債利回りは、2.7%付近まで急上昇しました。10年債利回りは一時3%を超えました。マッタレッラ大統領が連立政権樹立を阻止して再選挙の可能性が高まり、これがポピュリズムの風潮を高めて結果としてイタリアがユーロを離脱してしまうのでは、とマーケットが危機感を感じている結果です。

ところでそもそもの質問なんですが、なぜイタリアのユーロ離脱懸念がイタリア国債利回りを上昇させるのでしょうか?

単に政治的混乱を嫌気して資金が流出した?よく言われるリスク回避の動き?
確かにそれもあるでしょう。しかし、本質的にはイタリアという国がEUに守られているという安心感が無くなるからです。EUという親の保護が消えるかもしれないからです。

イタリアがユーロを離脱するというのは、アルバイトで収入の低い次男が4人家族の実家を出て急に都内で一人暮らしを始めるようなものです。家賃が高い東京でバイトだけで生活するのは経済的に苦しいです。一人暮らしなんかせずに、実家に居た方が圧倒的に経済的に楽ですよね。

 

EUは家族みたいなもの。イタリアは裕福な家族を離れて一人暮らしを始めるのか

通貨はユーロで統一されているのですが、EU各国の財政管理は別々です。だからドイツ、スペイン、イタリア各国それぞれ国債を発行しています。

イタリアは国債を発行していますがかつてのイタリア・リラ建てではありません。イタリアはEU加盟国ですから通貨はユーロです。イタリア国債はユーロ建てです。通貨はユーロで統一されましたが、財政政策は各国がそれぞれ行っています。

通貨は統一ですが財政政策は別々、それが今のEUです。なので、EU内の特定の国が財政苦難に陥ることは普通にあり得ることです。EU加盟国のどこかで債務危機が起こると、いつもEUが救済してくれます。2010年にアイルランドの銀行が大量の不動産関連の不良債権を抱えて、同国が債務危機に陥りましたが、850億ユーロもの支援を受けて救済されました。その前年にはギリシャで債務危機が発覚し、やはりEU(及びIMF)の金銭支援を受けました。

結果、怠け者が得をするような構造がEUにはあります。ギリシャなんて債務を隠蔽していたくらいですからね、より質が悪かったです。普通に粉飾決算です。企業なら上場廃止です。でもそんなギリシャもアイルランドもEUは助けました。

それはEUが家族みたいなものだからです。EU域内の人がEUを家族と思っているかどうかはさておき、経済的には家族のように支え合っています。勉強しなかったのか、就職氷河期で運が悪かったのかは知りませんが、次男は企業に正社員として就職できずに低収入のアルバイトをしていました。バイトだと家賃と食費だけでいっぱいいっぱいで経済的な余裕はありません。でも大丈夫。親父が役員としてバリバリ働いて稼いで、家にたくさんお金を入れてくれるからです。

高収入の父親:ドイツ
バイトの次男:ギリシャ、アイルランド、イタリアとか
みたいな印象です。

イタリアって稼ぎの良い優秀な長男に思わているかもしれませんが、意外にそうでもないです。政府債務のGDP比は130%超とEU内ではギリシャに次いで高いです。ちなみに日本のそれは230%超でダントツ世界トップです・・。

冒頭のグラフで示した通り、ユーロ離脱懸念でイタリア国債利回りが急上昇したわけですが、それはイタリアがもし一人暮らしを始めようもんなら、そんな定職に就いてない奴に信用は置かないぞ!というマーケットのメッセージです。2016年以降イタリア10年債利回りは1.1%~2.1%程度の低水準で推移していたのは、あくまでEUの庇護があると期待できたからです。

EUという家族と一緒に暮らしている時のイタリアの国債利回りは1.7%。家族と喧嘩別れして一人暮らしを始めるかも、、と疑わているイタリアの国債利回りは3%超。あくまでも、EU離脱が噂されているだけです。イタリアが本当にEUを離脱するかなんて、これから議論が進まないと全く分かりません。ただ離脱の疑いがあるだけです。もしかしたら、次男が一人暮らしを始めるかも、、最近よく不動産会社のサイトを見てるようなあいつ、って思われているだけです。それだけで、イタリア国債利回りは1.7%→3.1%まで上昇するんです。それだけ、イタリア単独(次男一人)では財務的な信用力に欠けるということです。

これが実際にイタリアがEUを離脱することになれば、国債利回りはもっと上昇するでしょう。かつてイタリアの国債利回りは7%に達したこともありましたが、それくらいの水準まで戻るかもしれません。

 

EUは家族のように見えて、家族ほどの強い絆はない。

こう考えるとやっぱりEUって難しい複雑な制度だな~と思わされます。

EUを家族で例えましたが、実際は家族ほどの絆があるはずないですよね。本当に血のつながった家族であれば、両親は可愛い息子のためだったらいくらでも金銭支援は厭わないでしょう。子どもの自立のために敢えて厳しくすることはあるかもしれませんが、子どもが本当に困っていたらやはり手を差し伸べるでしょう。親にとって子どもはいつまでも可愛いものでしょう。

EU各国の関係はそうではないですよね。ドイツは親じゃありません。ドイツにとってアイルランドやイタリアは目に入れても痛くない可愛い子供でも孫でもありません。社員寮で一緒に暮らしている同僚くらいですかね。

あなたが同僚と一緒に社員寮で共同生活をしているとします。仲の良い大切な友人です。その友人が、自動車ローン破産寸前で困っています。あなたは友人に100万円貸してくれと頼まれました。
お金貸します?同じ会社の同僚だからってそこまでしますか?

私なら絶対貸しませんw。金の貸し借りは嫌いだし。お金を貸すことがあるとしても妹とか親族が限界です。

こういう時に寮長のドイツはいつもお金を貸す側です。「もういい加減にしてくれ!」って普通は思うはずです。でもそこは我慢しています。EUという結びつきを大切にしているからでしょうか。

家族ほどの強い絆で結ばれてはいない、でもお金の融通をして助け合う、そういう不思議な結束がEUにはあります。歴史的なこととか知らずに経済的な側面だけしか見てないですが、なんだかEUって変な共同体だなと思う時があります。もっと歴史の勉強をしないとEUの存在意義はわからない気がします。