物理世界と情報世界

経済格差の広がりが社会問題になっています。特に米国で顕著で、トップ0.1%が富の20%を、トップ1%が富の40%を支配していると言われます。

リスクをとってビジネスで成功し社会に価値を生み出した人が、富を得るのは資本主義社会において当然のことです。しかしそうは言っても、あまりに経済格差が広がってしまっては社会が不安定化します。そこで相続税の強化や富裕税などが議論の俎上に上がっています。欧米のポピュリズムの台頭は「我々にも富を配分しろ」という低所得層の怒りがもたらしているものです。

異様なまでに拡大した経済格差が問題であることに異論はないです。が、これは個人的な意見ですが、経済格差が起こっているのが物理世界なのか情報世界なのか、の区別を付けた方がいいです。解決すべきは物理世界の格差であって、情報世界の格差は放置でも良いと思います。

認知科学者の苫米地英人氏の発想を拝借したものですが、お金には物理世界のお金、情報世界のお金の2種類があると考えています。この2つは客観的に区別することは不可能で、解釈の問題でしかありません。イメージとしては物理世界のお金とは、衣食住など生活に必要な財・サービスの流通市場で使われるお金です。それ以外はすべて情報世界のお金。

Hiro vs ホスト界の帝王ローランド

先日、「現代ホスト界の帝王」と呼ばれ『俺か、俺以外か。』という書籍を出版しているローランド氏の自宅マンションがテレビで紹介されていました。港区にある高級タワーマンションで、窓から六本木ヒルズが見えました。室内は白と黒を基調としたシックな高級家具で占められており、「非現実」という言葉がぴったりの空間でした。ホストは夢を売る商売だから、自宅も異世界にしておきたいと思うのかな。

ローランド氏のホスト時代の年収は推定3億円だそうです。独立した今はもっと稼いでいるのでしょうか。自宅マンションの家賃はどれくらいだろうか。100万円~200万円といったところかな、推測ですが。

対して、私は年収数百万円の平凡サラリーマンです。都内の1Kのマンションに住んでいて、家賃は7万円です。広さは7畳ほど。風呂トイレ一緒です。5階建ての3階に住んでいますが、今のところ一度もGとは遭遇していません。それなりに綺麗な物件で満足しています。

さて、私とローランド氏に経済格差はあるでしょうか?

は、何言ってるん、、雲泥の差やろアホか??
って思うかもしれません。

そうです、確かに雲泥の差があります。私なんてローランド様の財力の足元にも及びません。年収も総資産もローランド氏の方が何十倍も上です。

ただし、私とローランド氏の経済格差の大半は情報世界のお金にあって、物理世界のお金にはそれほど大きな格差はないと思います。これは私の勝手な解釈であって明確なデータを示すことはできません。

ローランド氏の自宅家賃が仮に150万円として、そのうち「住む」という機能に対する対価はせいぜい30万円くらいでしょう。残りの120万円はステータスというか、プレミアム感に対する割増分です。「俺は成功者で六本木の美しい夜景を観ながらワインを飲める男なんだ!」と自己満足感に浸るためのコストです。その120万円は情報世界のお金です。別に皮肉を言ってるわけではありません。それだけの情報価値のある家ということです。

私Hiroとローランド氏の経済格差をグラフで表現するとこんな感じです。あくまでイメージです。

大きな経済格差がありますが、その内訳を見ると情報マネーの差が大半です。物理マネーの差はそれほど大きくありません。

解消すべきは物理世界の経済格差

格差が問題なのは間違いないことです。米国では中間層の崩壊で自殺率が上昇しているという統計まで出ています。資本主義社会において、金を失うのは命を失うに等しいことを示唆しています。

一方で、格差がメディア等で過度に報道されている面もあると思います。上位0.1%が世界の富の30%、40%も牛耳っていてけしからんとか。それは数字としては事実なのでしょうが、本当に解決すべき格差問題が何なのか考えることを忘れてはいけないと思います。

最初に言いましたが、解決すべきは物理世界の経済格差だと思います。物理世界は人間生活の根本部分で、誰しもが充足させたいと願うところだからです。屋根のある家で足を伸ばして暖かい布団で寝たい。ゴミのない綺麗な環境で過ごしたい。毎日シャワーを浴びたい。空調の効いた部屋で過ごしたい。毎日3回バランスの良い食事をとりたい。こういうことです。

まだまだ物理世界の格差は大きいです。1日2ドル以下で生活している人は大勢います。その生活は高所得な日本で生活している私たちには想像できません。

5人の子供が、一家にひとつしかないプラスチックのバケツを抱え、裸足で数時間かけて歩き、ぬかるみに溜まった泥水を汲んでくる。

(中略)

そんなある日、末娘がひどい咳をするようになる。どうやら調理の煙が彼女の肺を蝕んでいるようだ。しかし抗生剤など買えるはずもなく、ひと月後に彼女は命を落としてしまう。

『ファクトフルネス』より

上記エピソードは物理世界の経済格差だと認識しています。解決すべき格差です。

一方で、私の住んでるマンションと「現代のホスト界の帝王」ローランド氏の六本木の高級マンションの格差は情報世界の経済格差です。これは特に解消すべき格差ではないと思います。

一定水準を超えるお金は情報世界でしか使えない側面があります。あなたがビジネスで大成功して100億円のお金が手元にあるとします。何に使いますか? 普通の衣食住じゃ使い切れないですよね。麻布の高級フレンチでも一人5万円あれば食べれます。高級車と言ってもせいぜい1億円くらいでしょう。その1億円も「移動する」という機能のために支払っているお金(物理世界)は1000万円くらいではないでしょうか。残りの9千万円は、ラグジュアリー感を得るための情報世界のお金です。

お金持ちは情報世界でグルグルお金を廻しています。物理世界にいる人間はそれを羨ましいと思うこともあれば、んなの興味ないわ~と思うこともあります。人それぞれ。快適に生活できるお金さえ稼げれば、あとは趣味の釣りやゲームでもしながらのんびり過ごしたいと思う人もいます。一方で、ソフトバンクの孫さんみたいにビジネスでバリバリやり続けたい人もいます。前者は相対的に貧しく、後者は豊かになるでしょう。でも、その経済格差って本当に問題でしょうか。もはや価値観の問題でしかないとも言えます。

物理世界のモノの値段は情報世界のそれより安価です。情報世界に課税して、あるいは紙幣を刷って、物理世界の格差を少しでも緩和する努力は必要だと思います。しかし、それでも情報世界にはマネーがグルグルとすごい勢いで回り続けるでしょう。それはそのままでいいんじゃないでしょうか。物理世界にとどまり続けたい人はそのままでいいし、情報世界に参戦したい人は頑張ればいい。

情報世界の経済格差は放置で良いと思います。そこは各人の生き方、価値観、人生観の違いでしかありませんから。ちなみに、私は情報世界の豊かさもそこそこ手に入れたいという小さな野心があります。大志はありません。